第44話 大宗師、死す
上田が神銃の引き金を弾いた。山田は防御魔法で防いだが、魔法障壁ごと左の脇腹を貫通して床に蹲った。
「キャア!」
俺は山田に駆け寄ったが、溢れる血をどうする事も出来なかった。
「俺は、自分にかける回復魔法意外は持って無いのか?」
“御座います、主”
「何だ?早く教えろよ!」
今にも出血で死にそうな山田を前にして気が焦り、ゆるゆると話すガイドにイライラして言葉もキツくなった。
『上級回復』
回復呪文を唱えると、山田の出血が止まり傷も塞がった。
ガァーン
容赦なく上田が2発目を撃ち、狙い過ぎてギリギリで頭を外し、山田の右耳下半分が吹き飛んだ。
「ぐがあぁぁ!!」
右耳を押さえて山田は、のたうち回った。
「お願い、殺さないで!殺すなら、先に私を殺して!」
俺は両手を広げ、山田を庇う様にして上田に訴えた。しかしそれが更に、上田を逆上させた。
「そいつを庇うのか?お前、俺と付き合うって言ったよな?結局、元彼が良いのかよ?さては全部嘘だったんだな?口実を作って、逃げ出す為の嘘だったって事だな?俺の女にならないなら、死ねよ!」
ガァーン
銃声が響いたが、頭や胸、お腹には当たらなかったぞ?と思い安心すると、左太ももに焼ける様な痛みを感じた。
「ぎゃあぁぁぁ!」
左太ももは貫通して穴が開き、血が吹き出した。俺は痛みで床を転がった。
ガァーン
今度は右太ももを撃ち抜かれた。両足を撃たれた俺は、もう立ち上がる事が出来ず床に這いつくばっていた。
「お願い、殺さないで」
上田は俺の髪を掴んで上体を起こし、こめかみに銃を突き付けた。
「死ね」
「お願い、死にたく無い。お願いします…」
泣いて上田に命乞いをした。
「お前か元彼か。どちらか1人だけ助けてやる。さぁ、どっちだ?死ぬのは、どっちだ?」
上田は、悪意を込めた笑みを浮かべた。
「俺だ!」
山田が自分を撃てと言った。
「へぇ?男だねぇ。彼女の為に、死ぬってか?じゃ、お前の遺体の横でコイツを犯してやるよ」
俺は突き付けられた銃を、山田に向ける隙を突いた。
「同田貫藤原正国!」
日本刀を具現化すると同時に、下から掬い上げる様に居合い抜刀して、銃を持つ上田の右腕を斬り落とした。そして流れる様に袈裟斬りしたが、両足を撃ち抜かれていた為に踏ん張りが利かず、浅く斬った。
「ぐあぁぁ!」
更にその隙を逃さず、山田が呪文を唱えた。
『雷刃』
閃光が走ると、上田の胴が真っ二つとなって床に転がった。神眼の俺の目は、閃光を捉えていた。雷で出来た刃が上田を襲い、胴体を真っ二つにしたのだ。俺以外の者には、閃光が走った様にしか見えなかっただろう。
俺は刀を杖代わりにして立ち上がり、よろめきながらも2、3歩も歩くと自動回復の効果で、銃で撃ち抜かれた傷は治っていた。
「ごほっ…」
肺に溢れた血を口から流し、斬り離された身体からは内臓が見えていた。上田が死ぬのは時間の問題だろう。
しかし、魔法箱に回復薬などが入っていて回復されると厄介だ。俺はトドメを刺そうと刀を振り上げたが、いざ冷静になった今、人を殺す事にガタガタと手が震えた。
「お姉さんには無理でしょう?」
山田が上田にトドメを刺す為に、呪文の詠唱を始めた。
「少しだけ待って!」
「今さら何を話すって言うんだよ?コイツは一方的にお姉さんを、俺たちを殺そうとして来たんだぞ!」
山田の言う事は理解出来るが、それでもやはり目の前で人が死ぬのは嫌だ。
「この状態からでも助けられる?」
“はい主、可能です”
「そう、良かった…」
俺は改めて、上田に尋ねた。
「私なら貴方を助けられる。もう私たちの命を狙わないと誓うなら、助けてあげるわ」
「クソ喰らえだ!」
人は逃げ道を示されると、逃げ道を選ぶものだ。追い詰められて、窮鼠猫を噛む様な真似はしない。しかし、上田は違った。だから反応が遅れたのだ。
『自我毀滅』
上田の身体が青白く発光したかと思った瞬間、周囲を巻き込んで自爆した。1番近くにいた俺は爆発に巻き込まれて肉片が飛び散ったが、自動回復の効果で即死せずにギリギリまで意識を保っていた。
その刹那の間に、石宝に防御結界を張って守ったが、爆発の熱量によって俺の身体は蒸発した。山田は瞬時に防御魔法を使って身を守り、俺にも防御魔法をかけたが間に合わなかった。
爆音と共に天守閣が吹き飛び、炎を上げて黒煙が立ち昇った。爆発によって地震の様な振動で揺れ、瓦が崩れ落ち民家にも被害を出した。
「報!(報告!)蜀漢の城が燃えております」
童貫は報告を受けて呟いた。
「一体、何が起こったのだ?」
「童総帥、この機に蜀漢を滅ぼしましょう」
岳飛が進言すると、童貫は命じた。
「全軍、出陣!」
20万の大軍が城門に攻め寄せ、蜀漢は指揮を執る者もろくに居ない中、数刻に亘ってよく守っていたが、遂に力尽きて降伏した。
「北の大宗師ですな?花娘子は、何処におりますかな?」
「花娘子は…お姉さんは…、うっ、ううぅ…」
山田は泣き出し、童貫は花娘子が爆発に巻き込まれて亡くなったのだろうと察した。
大宗師を2人も失うと言うこの事件は、中華全土に知れ渡る事になる。




