第41話 岳家軍
「哈ぁ!」
「とぁー!」
刀を払って槍の軌道を変え、馬首を返して袈裟斬りにするも槍を回転させて受けられた。そのまま楊再興は連撃を繰り出して突いて来たが、全て払いきった。
鋭い切先を首を傾けて躱わすと、後ろで束ねて括っている髪を掠めて揺れた。俺は攻撃の間隙を突いて右で斬り左で払ったが、楊再興は左右に槍を振って受け、流れる様に突いて来た。攻防一体とは正にこの事。動きに全く無駄が無い。見事なものだと、感心する心のゆとりが俺にはあった。
「岳家軍中軍統制・王貴、助太刀致す!」
王貴が飛び出して向かって来た。王貴は岳飛の幼なじみで義兄弟であり、前軍統制の張憲と並んで岳飛の右腕的存在だ。
「女相手に2人がかりとは、恥を知れ!」
蜀漢の陣営から飛び出した男は、俺の手足が無かった時にお手玉を拾ってくれた人だった。
「我は呉国、南離大将軍元帥・石宝なり!」
「えっ!?」
嘘!あの人が石宝だったの?と気を取られた隙を見逃さず、楊再興は槍を振り回した遠心力を利用して威力が増した一撃を放って来た。頭上や横からなど変幻自在な槍捌きを繰り出し、俺は防戦一方となって追い詰められた。
「くっ…舐めんな!!」
これでも俺は大宗師だ。たかが九品の武芸者に負ける訳にはいかない。
「どおりゃあぁぁ!」
下から上へ繰り出す逆袈裟斬りに、身体強化10倍を乗せた。楊再興は騎馬ごと10mも吹き飛んだが、咄嗟に槍を地面に突き立てて抵抗した。
地面が抉れ、線を引いてようやく止まった。楊再興が体勢を整えるよりも早く入れ替わり、向かって来た者がいた。
「岳鵬挙、参る!」
岳飛が陣営から飛び出して、騎馬で駆けて来た。俺はもう1本の刀を抜いて構えた。
『二天一流』
すれ違い様に岳飛の突きを刀で受け流し、もう1本の刀を振るったが紙一重で躱わされた。
「ずうぁ!」
「とあ!」
身体強化10倍の攻撃だ。一撃でも入れば倒せる。しかし岳飛は俺の攻撃を否し、力を逃して受け流した。岳飛の槍捌きは鋭く、神眼を使っている俺の鼻先を掠めた。剛対柔の戦いは、いつ果てるとも知れず、気が付けば日が暮れていた。
「篝火を焚け!」
俺はムキになり、日が暮れたくらいで一騎討ちを止めるつもりは無かった。
ドーン、ドドン!ドーン、ドドン!と退却の軍太鼓が、双方の陣営から鳴らされた。
「待て!私はまだやれるぞ!」
「決着をつけたいのは、こちらも同じ事。だが、軍令に従わねばならないのはお互い様だ」
そう言うと、岳飛は馬首を巡らせて陣営に戻って行った。石宝と王貴の一騎討ちも決着はつかず、退却の合図と共に退いて行った。これで俺が退かなければ、まるで駄々を捏ねる子供みたいだ。渋々、蜀漢の陣営に戻ると、拍手喝采で迎えられた。
「凄えな、あんた。あの岳飛って奴も只者じゃ無かったが、あんたの方が強かったぜ」
「流石は大宗師様の奥方様だ」
「ははは、当然だろう?こいつも大宗師だからな。こいつは東の大宗師だ」
「大宗師様!?こいつは凄え。大宗師様が我が軍にお二人もいらっしゃる。官軍など、恐れるに足らず!」
「恐れるに足らず!」
方臘の手下たちは、合唱しながら酒を飲んで騒いだが、今ここには方臘はいない。方臘は一族の方杰や方貌、鄧元覚や杜微、鄭彪らを連れて梁山泊討伐に向かっている最中だ。
俺も宴に加わって酒を飲み、肉料理を食った。器に山ほど盛られた蒸し牛肉は、塩味だけだったがシンプルで美味しいかった。
「うん、なかなか美味だな」
饅頭と蒸し牛肉を交互に口にした。饅頭の中に肉などの餡が入っている場合もあるが、ほとんどの場合は肉まんの肉無し蒸しパンみたいな物が多い。
中国では米よりも麦の方が多く採れるし、栽培される地域が限定される為に麦が主食であり、そのまま麦飯として食すのでは無く饅頭や焼餅(お焼き)、麺料理として食すのが一般的である。
つまり餡無しの蒸しパンは、お米の代わりとしてオカズと一緒に食べるのである。器に山ほど盛り付けてある焼餅を手に取って、頬張っている者もいた。
「これは、麻婆豆腐ね」
良く知る麻婆豆腐よりも黒っぽい。口にすると、とんでも無く辛くて「水、水!」と騒ぐと、皆んなに大笑いされた。俺は皆んなに笑われて、少しムッとしながら肉を頬張った。
「四川の本場の麻婆豆腐は辛いだろう?日本の激辛麻婆豆腐も、本場の辛さには遠く及ばない。日本人は辛さに慣れて無いからな。韓国やインド、ネパールなんかも信じられないくらいに辛いぞ」
俺は辛さ自慢されてもなぁ、と思いながらヒリヒリする口の中を中和出来そうな物を選んで食べた。お腹が膨れると、酒のせいもあって眠くなって来た。
「寝ようか?」
「うん。ふわぁ」
欠伸をして、寝室に向かった。寝室に着くと、劉白天は当たり前の様に抱こうとして来た。
「ちょっと、止めて!」
「もう何度も抱いただろう?今更、1発や2発増えた所で、彼氏を裏切った罪は変わらないだろう?彼氏に黙っててやるから、大人しくしろよ」
「本当、貴方って最低ね。好きにしたら?」
「言われなくても、好きにさせてもらう」
劉白天は、ねちっこく執拗に何度も身体を求め、体位を変え続けて楽しんでいた。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
「どうだ?気持ちいいだろう?」
「くぅ…、気持ち…よくなんて…」
言葉とは裏腹に、実は既に6回は絶頂に達していた。女としての俺は、別にHは嫌いでは無い。むしろ好きだと思う。だけど、ずっと山田の顔がチラついて罪悪感を感じて楽しめない。
「なぁ、彼氏と別れちまえよ。俺が彼氏になったら、もう罪悪感なんて感じなくて良いんだよ。そいつが、何度も俺に抱かれたお前を許せると思うか?俺はお前の過去なんて気にしないぞ」
「あっ…イ、イクっ…。イっちゃう…イっちゃうよ…ううっ」
両足の指先までピーンと張って痙攣し、絶頂に達して脱力した。
「はぁ、はぁ、はぁ。気持ち良かったか?」
「うん…。上田くん(劉白天)と付き合う事にする。あの人の事、忘れさせて…」
イったばかりなのに体位を変えて後輩位で激しく突かれると、直ぐに絶頂に達しそうなほど感じた。
「あっ、あっ…気持ちいい…、おかしくなりそう…イったばかりなのに…ああ、いい…」
気が付けば、朝までHしていた。気持ち良過ぎて、山田への罪悪感は吹っ飛んでいた。
「はぁ…私って…ビッチ過ぎるわ」
「誰にもお前をクソビッチなんて言わせ無い。俺がお前を娶るからな。俺の嫁になれば良いんだ」
「嫁に…」
なんだろう。嬉しいのか嬉しく無いのか、複雑な感じだ。男だった俺が、転生した世界で嫁になるのか。何とも言えない感じだ。
「頭の中を整理する時間が欲しい…」
「分かった。良い返事を待ってるよ」
抱き寄せられて口付けをされ、上田は寝室から出て行った。そう言えば、そろそろ朝議の時間だから支度をしなくては、と焦った。




