第39話 対金同盟
ぽーん、ぽーん、と手首の無い腕で、器用にお手玉をして遊ぶ余裕が出来た。お手玉は、俺のお世話をさせる為に与えられた侍女が作ってくれた。
「てーん♪てーん♪てんまりと♪ぽってんしゃん♪」
鼻唄を口ずさみながら手首の辺りでお手玉を跳ね上げて、何回出来るか数えていた。
「あっ!」
落としてしまったお手玉を、拾い上げてくれた者がいた。引き締まった身体を見れば、武人である事は一目で分かった。
「有難う御座います」
男は無言で手首の上にお手玉を乗せてくれ、軽く会釈をするとそのまま奥に行った。奥の部屋は、劉白天の部屋だ。その部屋に入れると言う事は、この男は側近の1人と言う事だ。
男が何者であるのか気になったが、この状態では自由に身動き出来ないので、その度に侍女にお願いするのも気の毒だと思い、遠慮がちになってしまう。
手押車(今で言う車椅子に近い)に乗せられて侍女が押し、渡り廊下から庭の木々の紅葉を見ていた。彩りが程よく紅葉し、更には物音がほとんどしない物静かなこの庭園が俺のお気に入りだった。この景色を眺めていると癒された。
「ひゃっ!」
身を乗り出して見てしまい、バランスを崩して手押車から落ちた。床に落ちるよりも早く、俺を抱き止めてくれた者がいた。この間のお手玉を拾ってくれた武人だ。
ひょいっと抱き上げられたので、思わずしがみついた。間近で顔をよく見ると、転生前の俺と同じくらいの歳に見えた。30代後半くらいだろうか?俺とは違い、渋めのイケおじだ。
「有難う御座います。前にお手玉を拾って下さった方ですよね?」
「ええ、お気になさらず。貴女様は、大宗師のご夫人だと聞き及んでおります」
上司の奥さんだから助けるのは当然だって事か?違うけど、助けてくれた事には違いない。
「2度も助けて頂いたのに、何の御礼もしない訳にはいかないわ。良かったら、お茶を飲みにいらして」
「はい。任務が御座いますので、終わりましたらお伺いさせて頂きます」
そう言うとイケおじは、拝礼して立ち去った。
「あの人は誰なのかしら?」
(俺の知ってる人物なのか?言葉数は少ないが、良い人なのは分かる。出来れば戦いたくは無いな)
そう思いを馳せ、あの人にお茶を飲ませる時に、欠損した手足を治そうと考えた。その日が、ここを出る日となるだろう。手足を自分で治したら、劉白天はどうするだろう?怒って追いかけて来て、俺を殺そうとするだろうか?あんなに俺に愛を囁いておきながら?違うか。俺が裏切って逃げ出した、と受け止めるのが普通か。そんな事を考えていると、劉白天が現れた。
「ふふふ、どうした?俺を待っていたのか?」
そう言って抱きかかえられた。「良い所へ連れて行ってやろう」と言われて、城下町へと繰り出した。中国ドラマの時代劇でよく見た光景だ。ずらっと露店が立ち並び、お面や風車、花や銀細工などのアクセサリー、飴細工や饅頭(肉まん、蒸しパン)、麺料理などの活気ある賑わいが、そこにいるだけで楽しくなってくる高揚感があった。
そう言えば梁山泊や村で、小じんまりとした露店には行ったことがあるが、せいぜい片手くらいの数の店しか無かった。しかし流石は城下町だ。数えて無いけど、端から端まで立ち並ぶ店を見ると、軽く100店舗はあると思う。しかしスケールが違う。こんなの日本でも中々見れない。嫌、無いな日本では。
東京都大田区の池上にある日蓮宗の大本山では、毎年10月11日から13日にかけて御会式があるが、お寺周辺はお祭りムード一色となり、100店舗近い露店が立ち並ぶ。毎年30万人くらいが参拝する日本最大級のお祭りだ。人混みでごった返すこのお祭りに行った事がある読者がいれば、イメージしやすいだろう。
劉白天は、銀細工に瑪瑙がはめられた簪を買って挿してくれた。
すれ違う町人は、手足の無い俺を好奇の目で見て来るが、劉白天は俺を赤ちゃんを抱く様にして着物で覆い、なるべく人目から隠してくれた。
茶館に入り、お茶と菓子を注文すると、店主が恭しく出て来て手を擦りながら言った。
「これは、これは、劉大宗師様。さ、どうぞ奥の上等な部屋が空いて御座います」
店主に奥の個室を案内された。
「こちらから呼ぶまでは、誰も通すな」
「畏まりました」
店主は、お茶とお茶菓子を自らテーブルの上に置いて退室した。他の者が粗相をしては大変だと思い、店主自ら応対したのだろう。
チラリと室内を横目で見ると、ベッドまであったので、人払いをした理由をそれとなく察した。
劉白天は、俺を膝上に乗せてお茶を飲ませてくれた。
「うわ!甘い!!」
甘いと言っても、お砂糖を入れた様な甘さでは無い。お茶本来の甘味とでも言うのか、お茶に甘味を感じるとだけ言いたい。
ちなみにお茶とは、実は全てが緑茶であり、番茶やほうじ茶、紅茶も全て緑茶である。違いは、茶葉の発酵度合いによるものだ。
発酵度の度合いによって、緑茶→白茶→黄茶→青茶→紅茶→黒茶に分類されるのである。尚、黒茶は茶葉に微生物を植え付けて発酵させたお茶である。代表的なお茶には、普洱茶がある。
俺が飲んだ茶は、白牡丹と言う白茶で、爽やかな草の香りが鼻を抜け、ほのかに果実の様な甘さを感じる。スッキリして美味しく、現代では二日酔いや熱中症対策などで良く飲まれるお茶である。
「美味しい…」
「そうだろう?気に入ったか?フラボノイドの含有量が多く、抗アレルギー、抗酸化作用、老化防止、血管の健康を保ち、生活習慣病を予防する効果があるんだ」
別に自分が白茶を育てた訳でも無いのに、誇らしそうに言うので可笑しかった。
「さっき、これをずっと気にして見ていただろう?」
劉白天が取り出して来たのは、山査子飴だった。サンザシ飴とは、中国ドラマでは必ずと言って良いほど登場する果実飴だ。
その見た目の大きさはピンポン玉ほどで、サンザシの実を飴でコーティングしているので日本のリンゴ飴に似ている。このサンザシ飴は、それが長い竹串に7個から10個くらいをお団子の様に刺してあるのだ。その味は甘酸っぱくて美味しい。
このサンザシ飴とは日本人が呼ぶ呼び方であり、正式名称は糖葫蘆と言う。山査子を瓢箪に見立てた比喩で、 葫蘆とは瓢箪の意味である。
「美味しい。ドラマで観てて、いつもどんな味がするんだろう?と思ってたの。有難う」
劉白天は、可愛さ爆発でたまらない、もう我慢出来ないと言って、俺をベッドに押し倒した。手足が無いので、抵抗のしようも無い。大人しく抱かれると、早漏のはずなのに中々イか無い。
普通以下のサイズでも、繰り返して膣を擦られると、気持ち良くなって吐息が漏れて来た。
「嗚呼…気持ち、いい。気持ちいいよぉ…」
劉白天の頭を強く抱きしめ、太ももがブルブルと震えるほど硬直して脱力した。俺は劉白天とのHで、初めて絶頂に達した。
「気持ち良かったか?」
嬉しそうに笑った。俺は素直に頷いた。
「好きだ。手足を奪った俺を恨んでるか?治すから許して欲しい。愛してるんだ」
「…。貴方と私は、敵なのかしら?」
「違う。あの時、話し合いの選択肢を取れば良かったと今も後悔している」
「本当に?」
「本当だとも!」
「それなら、証拠を見せてよ」
俺は共に金国と戦う事を提案した。
「うーん…」
「金国から見れば、宋国も梁山泊も蜀漢も滅ぼすべき相手よ。金国は手強いわ。どう?私と組んで歴史を変えてみない?」
「歴史を変える…ふ、ははは。そっちの方が面白そうだな。良いだろう。ただし、1つだけ条件がある」
「私と結婚したいって言うならお断りよ。だって彼氏がいるもの」
「彼氏がいるのに俺とHしたのか?」
「したくてした訳じゃないでしょう?手足が無いんだもの、抵抗なんて出来やしないわ」
「…分かった。条件は、今から手足を治すけど、治療して手足がある状態で俺に抱かれる事だ」
「最低ね」
「何とでも言え。好きな女を抱けるなら、何でも良い」
開き直りが凄いな。山田にはとても言えない、墓場まで持って行こうと心に誓いながら上田和彦(劉白天)に抱かれた。




