第37話 諸葛孔明?
「報!(報告!)王慶軍が梁山泊の水寨を目指して進軍中!」
「報!(報告!)方臘軍が梁山泊に進軍中です!」
相次いで斥候から急報が入った。
「馬鹿な。何で官軍で無くて、梁山泊が標的にされるのだ?」
既に勅令は下され、田虎討伐に進軍中だ。我々の動きは、田虎にも察知されている事だろう。ここで退いて水寨に戻ったりすれば、背後を突かれて王慶や方臘と挟撃でもされ様ものなら、梁山泊が滅ぶ危機的状況となる。
だからこのまま進軍して、田虎を1日でも早く討伐して水寨に戻るしかない。しかし、如何に梁山泊が天然の要害とは言え、王慶と方臘の両軍を相手に居残り組だけで防ぎ切れるとも思えない。
「どうしたものか…」
宋江は頭を悩ませた。
「これは…分かってしまった。皆んな、信じられない話をするけど、最後まで聞いて欲しい」
俺は、脳裏によぎってしまった。突然「蜀漢」が建国された事に疑問を持っていた。何故「蜀漢」だったのか?ずっと胸に引っかかっていた。それは恐らく、東の大宗師である俺と、北の大宗師である山田、南の大宗師である羅真人はどうか知らないけど、恐らくまだ見ぬ西の大宗師も俺たちと同じく転生者に違いない。
それならば全ての説明がつく。西の大宗師も、ある程度は歴史に詳しい人なのだろう。梁山泊が田虎や王慶、方臘を滅ぼす事を知っている。だから1つにまとめて、各個撃破されない様に対策したのだ。西の大宗師の武力なら、王慶や方臘を従える事も出来たのだろう。そして先ず、邪魔な梁山泊を滅ぼす事に全力を注いで来たのだ。
「お前たちが転生者とな?」
「転生者とは何だ?」
「西の大宗師の仕業だと?」
俺は矢継ぎ早に質問責めに合ったが、その全てに丁寧に返答した。
「西の大宗師は、恐らく三國志ファンなのでしょう?だから金国によってこの国が滅ぼされるくらいなら、漢の再興を自分の手で成し遂げ様と考えたんだと思います」
「俄かには信じ難い話だが、それでどう対策を取れば良いのだ?」
「はい、梁山泊軍にはこのまま進軍して、田虎を討伐して頂きます。田虎の配下には、梁山泊が必要とする未来の仲間がいます。王慶軍の相手は彼…北の大宗師がします。方臘軍の相手は、私がします。皆さんは、全力で田虎討伐に当たって下さい!」
「ちょっと待て。未来の仲間とは?その者の名は何と申す?」
「それは…張清、頼んだわよ。貴方が夢で石礫の技を授けた少女は実在する。彼女の両親は田虎に殺され、腹心の鄔梨に養女として育てられているの。両親の仇とは知らずにね。彼女には、貴方の言葉だけが届くわ。彼女の仇討ちの手助けをしてあげてね」
俺は張清に振り返って、瓊英の事を話した。瓊英は、夢の中で神仙が連れて来た張清に師事して石礫の技を伝授される。現実世界で張清と出会い、田虎が親の仇だと教えられて復讐を誓う。
水滸伝には美少女が多く登場するが、瓊英は扈三娘にも勝るとも劣らない美少女ぶりで作品中でも1、2を争う。張清の未来の妻である。
「とても信じられない」と言う顔を皆がしていたが、呉軍師だけが俺の言葉を信じてくれた。
「ここは花娘子を信じて進軍しましょう」
恐らく呉用は、進軍するしか道が無い事、俺の話の辻褄が通っている事、そして大宗師としての武勇を信じてくれたのだ。梁山泊が生き残る道は、それしか無いと賭けてくれたのだ。男として(もう男じゃないけど)は、期待に応えるべきだと燃えて来た。
山田は、何を勝手に話を進めているんだ?と憤慨していた。なだめるのに苦労したので泣き真似をして号泣すると、山田はオロオロと狼狽えた。
王慶をサクッと倒したら、助けに来てねと山田に言って、俺は方臘討伐に向かった。山田がもし水滸伝を知っていたら、俺が方臘討伐に向かうのを止めただろう。梁山泊の頭領達が方臘戦後に生き残ったのは、たったの38人だ。
生き残った頭領は、宋江、盧俊義、呉用、関勝、呼延灼、花栄、柴進、李応、朱仝、戴宗、李逵、阮小七、朱武、黄信、孫立、樊瑞、凌振、裴宣、蔣敬、杜興、宋清、鄒潤、蔡慶、楊林、楊春、孫新、顧大嫂、武松、公孫勝、燕青、李俊、童威、童猛、安道全、皇甫端、金大堅、蕭譲、楽和の38人だ。
俺がいつもいる魯智深グループだが、この生き残ったメンバーの中には魯智深も楊志も史進も、あの林冲ですらいないのだ。もっとも史進以外は、戦死では無く病死なのだが。
方臘軍には、梁山泊の豪傑達にも引けを取らない猛将がいる。その中でも特に要注意人物なのは、索超や徐寧と言った豪傑を始めとする好漢を13人も討ち取った南離大将軍元帥・石宝。
それから魯智深と互角に戦った宝光如来・鄧元覚、武松の左腕を斬った霊応天師・包道乙、そして包道乙の弟子の鄭魔君・鄭彪に王英と扈三娘の夫婦が打ち殺された。
更に小養由基・龐万春に史進を始めとする7人もの好漢達が射殺され、驃騎上将軍・杜微に孫二娘の夫婦と郁保四が飛刀で殺され、方臘の一族である金吾上将軍・方杰に秦明が討ち取られた。
梁山泊に方臘と戦わせる訳にはいかない。この様な未来が待っているからだ。方臘軍が誇る豪傑を1人でも多く殺し、未来を変える。それは大宗師である俺にしか出来ない。山田も大宗師で強さは問題は無いが、水滸伝を知らないので遅れを取るかも知れない。
方臘は睦州(現在の浙江省杭州市)清渓県に本拠地を置き、八州二十五県を占領して江南の地に覇を唱えている。梁山泊は青州(現在の山東省済寧市梁山県)なので、およそ1100㎞の距離だ。身体強化10倍を使えば、俺なら3時間半くらいで着く。
「3時間半かぁ…」
それも全力疾走で、だ。
「疲れるなぁ。高卒以来だな、全力で走るのは」
そう思いながらも、少しだけワクワクしている自分がいた。
「よぉ~い、ドン!」
文字通り風を切る様に走る。時速300km近い速さで駆け抜ける。神眼を発動し、障害物を予め予測しておかないと正面衝突してしまう速さだ。
“危険!危険!正面より攻撃が来ます!”
あと少しで睦州に入ると言う所で、頭の中で警報が鳴った。その直後に風刃が飛んで来たので、内功を高めて居合斬りで風刃を払った。払われた風刃は、右の林木を数本斬り倒した。
目の前には、如何にもな諸葛亮孔明のコスプレをした男が立っていた。
「…西の大宗師ね?貴方も日本人なのかしら?」
「質問が多い奴だな」
「戦わずに済む選択肢は無いかしら?」
「無いな。この地を踏みたくば、俺を倒してから行け」
「ふふふ」
「何が可笑しい?」
「いえ、諸葛孔明のコスプレをしてるのに、口調までは成り切っていないんだ?と思って」
「ほざくな!」
白羽扇を払うと風が巻き起こり、それは大きな渦を巻くと竜巻となって襲って来た。
「風使い…か」
刀の柄に手をかけて強く握った。鮫皮が貼られ、柄糸で巻かれた柄の握りがしっくりとくる。
ゆっくりと息を吐き出して内功を整え、気功で刀を包み込み一体となるイメージをしながら構えると、青白い炎にも似た気功に全身が包まれて怪しく輝いた。
「ほぅ?俺以外で気功を纏える者を初めて見たぞ」
そう言った孔明のコスプレ男も内功を発すると、全身が黄金の光で包まれた。
「うぅらあぁ!」
身体強化10倍で踏み込み、居合い一閃したが白羽扇で受け止められた。
「うおぉぉぉ!!舐めんな小娘がぁ!」
「くうぅぅ」
渾身の力を込めて刀で圧し斬ろうとするも、孔明のコスプレ男も力で押し返して来た。
「ぐくくっ…お前、全然軍師じゃないだろ?力技じゃないか!」
「知ったことか!女に力で負けるとおぉぉ、思うなよおぉぉ!!」
白羽扇が前髪に触れると、数本髪の毛が斬られて落ちた。
「うぐぐ…このぉ!」
(強い、力勝負は確かに分が悪い。かくなる上は、離れた瞬間を狙って斬る!)
地面を蹴って後方に飛びながら、刀を払って風の斬撃を繰り出した。
「ははは、馬鹿め。俺に風が通用すると思ったか?」
風の斬撃は確かに孔明のコスプレ男の胴を真っ二つにした様に見えたが、身体を素通りして行っただけだった。地面に降り立つと、背後から膝カックンされたみたいに視界が歪んで落ちた。足の踏ん張りが利かず、尻もちをついて背中を打ち付けた。
「嘘っ!?」
俺の両足は切断されて、足二本だけが立ったまま残っていた。孔明のコスプレ男が腹の上に乗って来たので、刀で袈裟斬りにしようと刀を振ったが、逆に白羽扇で右腕を斬り落とされた。
「ぎゃあぁぁぁ」
俺は容赦なく残された左腕も斬り落とされた。
「くははは…。良い格好だな。まるでダルマだ。あははは、俺の勝ちだ」
俺は両手両足を失って地面に転がり、もがいた。
「無駄だ、無駄だ。逃げられると思うなよ?顔だけは良いな。俺専属の性奴隷にしてやろう。それが嫌なら人豚として便所で暮らせ。そのうち、豚に食われるだろうがな?」
かつて漢の高祖・劉邦が亡くなった後、実権を握った正妻の呂后は戚夫人を人豚にした。両手両足を斬り落とし、両目をくり抜き両耳を落とし、薬で喉を潰して声を出せなくしたのだ。劉邦から寵愛を受けた上に、我が子を差し置いて彼女が生んだ子が皇太子に立てられそうになった恨みを晴らしたのだ。
古代中国では人糞の処理をさせる為に、人糞を餌とする豚を便所で飼っていた。その便所に放り込んだので、人豚と呂后は呼んだのだ。それだけでは無く、呂后は人豚となった戚夫人に跨って、その顔にオシッコをかけて嘲笑ったのだ。中国三大悪女と呼ばれる所以である。
尚、戚夫人はその姿で数日間は生きていた様である。飲まず食わずなので、3日は生きていたと推測されるが、その遺体は豚に食われた。女の嫉妬は恐ろしいのだ。
両手両足を失った俺は、その場で孔明のコスプレ男に凌辱されて連れ去られた。




