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転生したら、どうやら水滸伝の世界に迷い込んだみたいです  作者: 奈津輝としか


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第30話 遼vs.梁山泊 西と南の沈黙

 西方太白金星陣に向かって、燃える様な赤い軍装で統一された部隊が怒号を上げて突撃して行った。この部隊を率いるのは、霹靂火・秦明である。


 秦明は梁山泊に()いて、最強の主力部隊である騎兵五虎将の一角を(にな)っている。騎兵五虎将は筆頭の関勝を始めとして、林冲、秦明、呼延灼、董平の5人で、梁山泊の中でも屈指の豪傑達が務めていた。

 梁山泊で騎兵五虎将よりも階級が上位に当たるのは、首領である宋江と副首領の盧俊義、そして軍師である呉用と公孫勝、副軍師の朱武だけである。

 今回の太乙混天象陣を攻める主力として部隊を率いていた。これは宋江が歩兵よりも騎兵を重んじていたからであり、魯智深や李逵ら歩兵部隊が決して彼らの強さに劣っていた訳では無い。

 李逵は盲目的に宋江に心酔している為に、宋江のする事に不満を持つ事があっても逆らう事は無い。正確には不満と言うよりも、宋江を好き過ぎて嫉妬するのである。

 魯智深は首領である宋江の命令は絶対であると忠義心が厚く、武松は直接宋江と義兄弟の(さかずき)を交わした義弟である為、表立って逆らわないが内心鬱憤(うっぷん)()まっていた。


「おいらも面白くは無いが、騎兵よりも大活躍して見せて、その鼻っ柱を折ってやれば良いんだ」


 珍しく李逵がまともな事を言い、武松は「もっともだ」と感心し、モヤモヤと胸の奥で(くすぶ)っていた己を恥じた。武松は李逵の事を、ただ力が強いだけの愚か者だと思っていた。だがこの一件以降、武松は李逵に対して一目置く様になった。


 張清は副将格の丁得孫と龔旺を従えて、西方太白金星陣へ突入した。今回の決戦は、張清にとっては復帰戦となる。先の玉田県攻めで天勇山(ティエン・ヨンシャン)の隠し矢をまともに受け、首を射抜かれて生死を彷徨(さまよ)った。

 生死を彷徨(さまよ)いながら、夢の中で1人の美少女と出会い、師事されたので石(つぶて)の技を伝授した。この夢に出て来た美少女は実在し、田虎配下の女将軍・瓊英であったと知るのは梁山泊が田虎戦に入ってからだ。

 そんな訳で既に天勇山(ティエン・ヨンシャン)は死んでいるが、張清にとってこれは単なる復帰戦などでは無く、遼国への復讐戦でもあった。その為、最初から意気込みが違った。


 張清は梁山泊に加わる前は東昌府の兵馬都監であり、梁山泊が攻めて来た時に徐寧、燕順、韓滔、宣贊、呼延灼、劉唐、楊志、朱仝、雷横、関勝ら並いる豪傑達を相手に、手傷を負わせて退(しりぞ)けた石(つぶて)の達人である。

 武器とする石(つぶて)は、野球の硬球くらいの大きさの石をツルツルになるまで磨き上げ、その磨かれた(たま)を腰に下げた筒状の入れ物にストックしている。その腕前は百発百中であり、狙った獲物を外した事が無い。こんな物が顔面に直撃すれば、タダでは済まない事は容易に想像がつく。


 固く閉ざされた門が開き、中から参水猿の周豹(ヂョウ・バオ)、奎木狼の郭永昌(グゥォ・ヨンチャン)が飛び出して来た。張清は軽くスナップを()かせて、得意の石(つぶて)を放った。一投に見えたそれは2球であり、ほぼ同時に2人に命中した。

 周豹(ヂョウ・バオ)は胸に直撃を受けて()()り、郭永昌(グゥォ・ヨンチャン)はまともに顔面に受けて、その衝撃で視界が一瞬真っ暗になった。

 龔旺がその隙を逃さず周豹(ヂョウ・バオ)へ槍を投げ付けると、喉を串刺しにして馬上から落とした。丁得孫も飛叉(刺又(さすまた)の投げ槍)を得意とし、郭永昌(グゥォ・ヨンチャン)へ投げ付けると外す事なく胸を貫いて絶命させた。3人の息ピッタリの連携で、あっという間に敵将2人を葬り去った。


 雷横が昴日雞・順受高(シュン・ショウガオ)を、周通が畢月烏・国永泰(グゥォ・ヨンタイ)を討ち取り、魏定国が觜火猴・潘異(パン・イー)を斬り伏せ、単廷珪が胃土雑・高彪(ガオ・ビィャォ)を生け捕りにした。


 張清が太白金星陣の大将である烏利可安(ウーリー・クェァアン)を討ち取ろうとして来た時には、秦明と烏利可安(ウーリー・クェァアン)がまさに一騎討ちをする所であった。砂埃を巻き上げて、両者の騎馬が交差した。


「げふぅ」


 グシャリと嫌な音を立てて烏利可安(ウーリー・クェァアン)の胸当てが変形し、馬上から5m以上も吹き飛ばされ、落馬して地面に叩き付けられた時には既に絶命していた。

 秦明が勝利の雄叫びを上げると、梁山泊兵は歓声を上げて遼兵に襲いかかった。太白金星陣の遼兵は、大将が討たれて呆然としている所を襲撃され、一方的に殺戮(さつりく)された。


「遼兵は皆殺しにしろ!」


 秦明は投降を許さず、指揮する者がおらず狼狽(うろた)える遼兵を惨殺して回った。


 南方熒惑火星陣へ、黒の軍装で統一された梁山泊軍が突入した。この黒色の軍を率いているのは呼延灼である。その後ろに、楊志、索超が副将として豪華な顔ぶれが続いた。


 この遼軍は赤の軍装で統一されており、黒対赤の軍装が入り乱れてぶつかり合った。楊志の前に、1人の敵将が向かって来るのが見えた。鬼金羊・王景(ワン・ジン)である。

 騎馬が交差すると、王景(ワン・ジン)の刀剣が真っ二つに斬られていた。楊志は素速く馬首を巡らせて、王景(ワン・ジン)を鎧ごと袈裟斬りにした。これぞ伝家の宝刀、「吹毛剣」である。


 ご先祖様である楊業から受け継がれた家宝の宝刀であり、刃を上にしていた所へ偶然にも一本の髪の毛がその上に落ち両断した為、その切れ味を確かめる為に髪の毛を抜いてその刃に吹き付けると、果たして両断して見せた事から名付けられた刀剣である。その恐ろしいまでの切れ味は、並みの剣や鎧であれば泥や飴の様に斬る事が出来た。


 楊志をライバル視する索超は、自分も「負けていられるか」と奮起し、金蘸斧を振り回して遼兵を()ぎ倒した。索超を迎え討つ姿勢を見せたのは、星日馬・下君保(シァ・ジュンバオ)だった。

 下君保(シァ・ジュンバオ)は、一際(ひときわ)長い()の槍を携えていた。索超は、射程(リーチ)が圧倒的に不利な状況でも臆する事は無かった。(むし)ろ、笑みさえ(たた)えていた。

 楊志は横目で索超を一瞥(いちべつ)したが、心配の必要は無いと感じて先へと進んだ。


「ずおりゃあぁ!」


「舐めんなぁ!」


 下君保(シァ・ジュンバオ)が繰り出した長槍を、索超は身体を(よじ)って()わし、頭から真っ二つにしようと金蘸斧を振り下ろした。下君保(シァ・ジュンバオ)は反応して後ろに下がったが、()けきれずに左肩から胸まで金蘸斧を食い込ませて落命した。


「うおぉぉ!!」


 勝利の雄叫びを上げた索超は、次なる獲物を求めて駆けった。


 鄒潤は、井木犴・童里合(トン・リーフェア)と対峙していた。童里合(トン・リーフェア)と言う男の渾名(あだな)も井木犴だと聞いて、郝思文の姿を脳裏に描いた。郝思文の渾名(あだな)もまた、井木犴であったからだ。


「へへへ、郝思文が言ってた奴はコイツの事か」


 郝思文は捕虜となっていた兀顔延寿ウーイェン・イェンショウから、遼国にも自分と同じ渾名(あだな)を持つ者がいる事を聞いていた。


「同じ渾名(あだな)を持つ者は、2人もいらねぇ」


 郝思文はこの同じ渾名(あだな)を持つ者を、自分の手で倒したいと意気込んでいた。


「へへへ、悪いな郝思文。お前の獲物は、俺が貰ったぞ」


 童里合(トン・リーフェア)は、戟を振り回して突いて来た。鄒潤は大斧で受け流して斬りかかった。童里合(トン・リーフェア)は冷静に受けると、鄒潤は力任せに押し返そうとした。その力を利用されて横に受け流され、バランスを崩した所へ童里合(トン・リーフェア)の戟が襲った。鄒潤は()わす事が出来ず、左肩を貫かれた。


「ぐうっ」


 痛みで眉を(しか)めたが、童里合(トン・リーフェア)は手を緩める事なく戟を何度も振るい、鄒潤の身体は朱に染まった。

 鄒潤の叔父である鄒淵は、軫水蚓・班古児(バン・グーェァ)を斬り捨て、心配して鄒潤に加勢しようとしたが思い(とど)まった。押されてはいるが、甥の目はまだ死んではいない。ここで加勢などすれば、甥の面目は潰れ激怒するに違いない。

 鄒淵と鄒潤は叔父と甥の関係だが、1歳しか歳が違わず、まるで兄弟の様な関係であった。基本的に鄒潤は叔父の鄒淵のする事に従うだけであり、梁山泊に入山したのも鄒淵が入山する意思を示したからであった。

 そんな鄒潤だが、時折り己の信念や意地を見せる時がある。その時は鄒淵は黙って温かく甥を見守っていた。今がその時であった。


「死んだら骨は拾ってやる。その時は、俺がお前の仇を討つ」


 鄒淵は、甥の一騎討ちを見守った。


「うおらぁ!」


 童里合(トン・リーフェア)の戟を受けて、防戦一方だった鄒潤がここで前に出た。重量感のある大斧を振り回しながら前進して行く。身体中に斬り傷を受けても臆する事なく、前へ前へと童里合(トン・リーフェア)に向かって行った。


 童里合(トン・リーフェア)は、自分が鄒潤を恐れて後ろに下がっている事に気付き、愕然とした。


「こんな山賊上がりなんぞを、この俺が恐れていると言うのか?」


 鄒潤の気迫に押され、(ひる)んだ所へ大斧が飛んで来た。「武器を自ら捨てるなど正気か?」そう思い、大斧を払った隙を突かれて間合いに入られ、両腕を掴まれた。その力は強く、引き離す事が出来なかった。


「へへ、捕まえちまったら、もうこっちのもんだ。覚悟しな!」


 そう言うと鄒潤は、童里合(トン・リーフェア)の顔面に向かって頭突きを喰らわせた。童里合(トン・リーフェア)の鼻は砕かれ、前歯が数本へし折れて顔は出血で真っ赤に染まった。


「それ、もう1発!お寝んねするには、まだまだこれからだぜ!」


 2発、3発と頭突きを受けて、童里合(トン・リーフェア)は白目を()いて意識を失った。しかし容赦なく頭突きは続けられ、そのまま童里合(トン・リーフェア)は息絶えた。

 鄒潤の得意技は頭突きであり、生まれつき頭に硬い(こぶ)があり、その頭突きで大木をもへし折った事もあるほどだ。


「へへへ、お前の獲物を取っちまって悪いな郝思文。証拠に首を持って行って自慢してやろう。さぞかし悔しがるだろうな?酒が美味(うめ)えぞ今夜は」


 腰から短刀を取り出して、童里合(トン・リーフェア)の首に手を掛けた。


 毛頭星・孔明は、大きく肩で息をしていた。数多くの豪傑を(かか)える梁山泊の中で、自分の腕は大きく劣る事を理解していた。遼将では無く、数十人の遼兵を相手にするだけで精一杯であり、既に息が上がっていた。


「情けねぇ」


 少しでも強くなろうと、史進の最初の師匠であった李忠に恥を忍んで教えを()うた。李忠は教師として教鞭に立った経験もあり、教えるのが上手かったからだ。基本から習い、努力したがダメだった。

 前より少しマシになった程度だ。少しだけ腕が上がると、楊志や武松がどれほど高みにいるのか嫌と言うほど理解出来た。彼らの強さは、自分からすれば次元が違う。例え自分が百人いたとしても、あっという間に全員が殺されるだろう。そう思わせるレベル差を痛感させられた。


 肩で息をしている所へ、張月鹿・李復(リー・フー)が現れた。


「邪魔だ退()け!」


 李復(リー・フー)は孔明を雑魚扱いし、一撃で葬り去ってくれると息巻いた。槍を振り回して重く速い一撃だった。孔明の兜が宙を舞い、馬上から落ちた。


「雑魚など一蹴よ」


 そう思った李復(リー・フー)は、自分の腹を貫いている槍を見た。


「何だコレはぁぁ!!」


 李復(リー・フー)は身体に突き立った槍ごと落馬し、絶命した。孔明は落馬の衝撃で背中を打ち、痛そうに起き上がって兜を拾った。


「見たか、俺を舐めてんじゃねぇぞぉ!」


 明らかに自分よりも格上の相手だった。基本を何度も何度も繰り返して稽古をして来た。日頃の稽古は嘘を付かない。努力した自分を褒め、勝利を噛み締めた。


 呼延灼は遂に、大将である熒惑火星・洞仙文栄ドンシィェン・ウェンロンと対峙した。そこへ柳土獐・雷春(レイ・チュン)と翼火蛇・狄聖(ディ・シオン)が、加勢に駆け付けた。


「雑魚の相手は我らにお任せ下さい」


 そう言ったのは、呼延灼の官軍時代から付き従う副将の韓滔と彭玘であった。呼延灼は、洞仙文栄ドンシィェン・ウェンロン(にら)んだまま無言で(うなず)いた。


 互いに騎馬を走らせると、勝負は一瞬でついた。韓滔は棗木槊で雷春(レイ・チュン)の胸を貫き、彭玘は三尖両刃力で狄聖(ディ・シオン)を一刀で斬り捨てた。


 配下の将を目の前で殺された洞仙文栄ドンシィェン・ウェンロンは動じる事無く、眼前の呼延灼から目を()らさなかった。達人は達人を知る。呼延灼から立ち昇る闘気(オーラ)が、只者では無い事を知らせていた。


 互いに(にら)み合ったまま一歩も動かない。だが両者は既に数十合も打ち合っていた。囲碁や将棋の名人が、数百手先まで読んで勝負するのと同じである。彼らの中では、激しい攻防戦が続いていたのだ。


 周囲に張り詰める様な緊張感と重苦しい空気が漂い、梁山泊兵と遼兵は固唾(かたず)を飲んで見守っていた。


「すわっ!」


 両者は、ほとんど同時に駆け出した。騎馬がすれ違うと、呼延灼の肩当てが飛んだが、洞仙文栄ドンシィェン・ウェンロンは呼延灼の八陵鋼鞭で頭を打ち砕かれて絶命した。

 その瞬間、梁山泊兵から大歓声が起こり、遼兵は精根尽きて武器を捨てて投降した。


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