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第3話 皇城司

 青面獣・楊志と別れて、俺は何処に行こうかと迷った。梁山泊に向かうのが順当なのだろう。だが今の時期は、科挙に落ちた文人気取りで狭量の王倫が首領だ。晁蓋や宋江が首領ならまだしも、行くにはまだ早過ぎる。


「よし、決めた!」


 俺は()えて朝廷に仕え、高俅の暗殺を目論(もくろ)むのも面白い。朝廷の命令で、梁山泊と一戦交えるのも楽しそうだ。

 結局、東京開封府を目指すなら楊志と一緒に旅を続ければ良かったと後悔したが、まぁ路銀はある。金さえあれば、どうにかなるのは元の世界でも此方(こちら)の世界でも同じだろう。


「おう、ここから先は通行料が必要だ」


 またか、そう思わざるを得ない。匪賊に襲われるのは何度目だろう。彼らも食わねば生きられない。だからと言って悪事を許せる訳でも無い。


「俺の行手を(はば)むと死ぬぞ」


「ぬかせ!」


 斬りかかって来たので身を(よじ)って()わし、一刀のもとに斬り捨てた。仲間が斬られて逆上した匪賊達は、一度に6人ほどかかって来たが、確実に1人一刀で瞬殺した。


「き、貴様は何なのだ!?」


「俺か?桃太郎とでも名乗ろうか?天下の良民を苦しめ、自分達だけの楽天を築こうとする。その様な者は畜生と変わらぬ。畜生道に堕ちた者は、最早(もはや)人では無く鬼よ。鬼を退治するは、桃太郎なり!」


「訳の分からぬ事を!」


 牛刀を振り回して向かって来た男を、剣を跳ね上げて(はじ)き、その流れのまま左下から右肩まで斬り裂いた。前後挟み撃ちする形で囲まれたので、俺は刀を鞘に戻して強く握った。


“スキル『薬丸示現流』を獲得しました!”


「やはりそうか…俺もまた戦いの中で進化する」


 一般的に示現流は頭上に大きく振りかぶり、全身全霊を初太刀ちに込めて相手の刀ごと真っ二つにする。新撰組では、示現流の初太刀だけは何が何でも()わせ!と厳命されていたほどだ。

 この薬丸自顕流は、居合いに全身全霊を込めて横に払う。居合い斬りの構えのまま身を(よじ)り、全身をバネの様にして解放すると間合いに入った者は胴体真っ二つとなるのだ。この使い手で有名な者は、西郷隆盛の用心棒として側に仕えた人斬り半次郎(中村半次郎=桐野利秋)がいる。


 異様な空気を察した匪賊達は、迂闊(うかつ)に近寄ろうとしなかった。生き残った者は、それなりの強者なのだろう。


「覚えていろ!」


 月並みな台詞を吐いて、匪賊達はその場を離れて行った。俺は気配を感じなくなるまで、構えを()かずにいた。


「ふぅ、もう人殺しも平気になって来たな。人を斬って震えていたのが嘘みたいだ。良くない傾向だ。俺はシリアルキラーでは無い…」


 東京開封府に付くと、用意された身分証明書を出して城門を通過しようと試みた。すると衛兵に取り囲まれて、捕えられ走馬承受(警察)に引き渡された。意味が判らないまま、牢屋に入れられた。


「正直に話せば痛い目に合わずに済む。そうで無ければ、この108種類の拷問器具を1つずつ試すまでだ」


 (はりつけ)にされ、まずは鞭で打たれた。


(あれ?痛くない。そう言えば、痛覚耐性があるんだっけ?)


 痛みに耐えているフリをして見せた。


「貴様が腰に差していた刀は、倭人の物だ。つまり通行証は、偽造された物だと言う事だ。言え!都に侵入する目的を!」


「待って、待って下さい!俺は、都で己の腕を買ってもらいに来ました。俺は倭国では国士無双の猛者。例えこの国の禁軍統領でも、俺には(かな)わないでしょう」


「ははは、大きく出たな。禁軍統領よりも強いだと?あいつらがどれほど強いと思っている!!」


「嘘だと思うなら、対決させて下さい。負けたら、その場で殺されても恨みません」


「うーむむむ…」


 長官らしき男は、腕を組んで考え事をしていた。


「童貫様にお知らせしろ!」


 童貫は水滸伝に()いては四奸の1人とされ、史実に()いても六賊に挙げられている悪人であったが、兵法に()って20年近く兵権を握っていた。遼や金と戦う総大将を務めたのも童貫であり、禁軍の総帥として頂点に君臨していたのも童貫である。


 一刻(2時間)も経つ頃、牢内の空気が変わった。そして顎髭(あごひげ)を生やした巨躯(きょく)の男が現れた。童貫は宦官であり、ブヨブヨの身体では無く筋骨隆々としており、妻や多くの妾がいた。更には宦官では、決して生えないはずの髭を生やす怪人であった。


「お前が倭人か?」


 童貫はジロリと一瞥(いちべつ)して来た。


「ああ、俺が倭人だ。倭国無双の俺より強い者などいない。俺の腕を買って欲しくて都に来た」


「くくく、ははははは」


 童貫は、俺の大言壮語だと思ったのか大笑いをした。だが、そうでは無かった。


「皆、ここから出ろ!儂が自ら取り調べる」


 牢番を含めて、童貫の付添人も退室して行った。


「それで変装しているつもりなのか?」


 童貫は、着物の隙間から手を差し込み、太ももに指を()わせて性器に触れた。


「あっ!う、止め…」


 指で秘部を(こす)られ、指の第1関節をリズム良く出し入れされると、心とは裏腹に気持ち良くてイってしまった。まだ処女なのに、こんなオッサンに指でイカされて泣いた。


「ふふふ、まだ気娘(処女)だな?今度は俺のモノを()れてやろう」


「お願いします。許して下さい!」


「ダメだな。たっぷり可愛がって俺を裏切れなくしてやる。そしてお前を徽宗の愛人として送り込んでやる!」


「挿入したら死にます」


「ははは、倭人が…本気の奴は口に出す前に実行しておる。中華の女なら、着物の隙間から手を入れられた時点で、辱めを受けるくらいなら死ぬと騒いでおるわ」


 俺は犯されたく無くて、泣きじゃくった。


「倭国で国士無双と言うのは本当か?」


 俺は(うなず)いた。


「それが本当ならお前には価値がある。牢から出してやろう。その代わり、儂に忠誠を誓え。誓わぬなら、誓うまで犯してやろう」


「誓います!誓いますので、(Hな事は)もう許して下さい」


 童貫は再び配下を呼び、俺を(はりつけ)から解放した。両手首に縄の跡が食い込んでいたが、痛覚耐性の効果で痛みは感じ無かった。


「だが自分の言葉を証明して見せろ!」


 俺は童貫の屋敷に案内され、食事もそのままで直ぐに眠りについた。


「起きろ!いつまで寝ている」


 古代中国では皇帝の朝は早く、4時から5時に起床して剣術、弓術、馬術などを調練し、それから勉強をした。これらは朝食前に行われるのが通例で、朝食後に会議を開いて職務の報告を受けていた。これを受けて高官達も早起きであった。


「5時で遅いのかよ?」


 俺は寝惚け(まなこ)(こす)り、顔を洗いに行った。国宝級の刀は2本とも返してもらえた。今日は徽宗皇帝の前で、御前試合をする事となった。倭国の使者として遣わされたが嵐で転覆し、身一つで都に来たと言う設定だ。

 何も献上する物が無い為、健気にも禁軍統領達と御前試合を行い、宋国に忠誠を誓うと言うシナリオだ。しかし成功させるには、俺が倭国で国士無双だと言う強さを披露するしか無い。


「覚悟は良いな?敗北は死だと思え!」


 童貫に(にら)まれて、耳元で(ささや)かれた。


「天地に礼!」


陛下(ビーシャア)に礼!」



「互いに礼!」


 (ひざまず)いて3度拝謁を行い、対戦相手を見た。王進や林冲と同じく、槍棒を構えていた。剣よりも槍が有利とされているが、宮本武蔵は宝蔵院流槍術の高弟と立ち会って木刀で倒している。


「大丈夫、俺なら大丈夫なはずだ。最初から全力で行く。『天眼』『二天一流』」


 剣を2本とも抜いて構えた。この男も禁軍教頭の1人で、袁季と言った。開始の合図と共に、槍棒のリーチを活かして突いて来た。それを(はじ)くと、袁季は間合いを取って離れた。それを幾度と無く繰り返す所を見ると、かなり用心深い性格の様だ。

 徽宗皇帝が観ているのだ。倭国で国士無双だと言ったからには、普通に勝つだけではダメだ。他を寄せ付け無いほどの、圧倒的なパフォーマンスが必要だ。俺は構えたままにじり寄り、袁季も構えたまま微動だにしなかった。

 俺に隙が無くて向かって来れないなら、隙を作ってやった。それを逃さず槍棒で突いて来た所を右手の刀で軌道を()らし、左手の刀で背中を打った。


「安心しろ、峰打ちだ」


 徽宗皇帝は興奮して喜んでいる様子で、童貫も満足そうだった。他の禁軍教頭は憤っていた。


「チッ、見え見えの隙に誘われるとはな」


「ここにいる禁軍教頭の中では1番弱いからな」


「では次は俺が相手をしよう!」


 そう名乗りを挙げて進み出たのは、金鎗手・徐寧だった。彼は呼延灼将軍に対抗する為に、無理矢理に梁山泊入りさせられた。二龍山や梁山泊の討伐軍を指揮する呼延灼将軍の連環馬に苦しめられ、連環馬を破れるのは徐寧の鉤鎌鎗法だけであり、その為に彼の家宝を盗んで取り戻そうと追って来た所を梁山泊に捕らえられ、元同僚であった林冲に説得されて梁山泊入りする。何はともあれ彼は梁山泊で、騎兵軍八虎将兼先鋒使の1人となる豪傑だ。


「すわっ!」


(シャア)!」


ガギーン!


 金属がぶつかり合う鈍い音が響き、間合いを詰める為に瞬歩で近付くもリーチの優位を埋めさせまいと、徐寧は間合いを詰め様とはせずに、俺の攻撃範囲外から連続で攻撃を繰り出した。

 しかし俺は、その全ての攻撃を受け流し、或いは弾いて間合いを詰め様と試みた。だが徐寧はそうはさせまいと抵抗し、近づくのは容易では無かった。


「仕方がない。殺す気で無ければ倒せない相手だ」


 俺は両刀を鞘に収め、居合い斬りの構えを取った。薬丸自顕流の全身全霊の一撃を放つ為に、全ての力を込めた。


「凄まじい殺気だ。だが、やられはせんよ」


 徐寧は気合いを込めて、槍を振り下ろした。俺はその瞬間、振り下ろされた槍を居合い一閃して真っ二つにし、返す刃で胴を払った。徐寧は音も無く前のめりに崩れ落ち、意識を失った。


「勝負あり!太医、太医を呼べ!」


 徐寧の肋骨は折れていたが、命に別状は無かった。俺は胸を撫で下ろした。徐寧が死ぬと、梁山泊は呼延灼に勝てなくなる。呼延灼が梁山泊に入らなければ、その後の話しも大きく変わって来る。


(ハォ)!見事、見事じゃ!」


 徽宗皇帝は喜び、その様子を見た童貫は俺を呼んだ。俺は皇帝に拝謁した。


「倭国で国士無双と言うのは間違いでは無さそうだな?そちの名は何と申すか?」


「申し訳ございません。船が転覆し、気が付いた時は、自分の名前も覚えておりませんでした」


「何と、記憶喪失か?異国の地で記憶すら失うとは、さぞかし心細い事であろうに、よくぞ朕に謁見を申し出た。童貫、褒美を与えたいが何が良かろうか?」


陛下(ビーシャア)、その前にこの者に問う事が御座います」


 童貫は俺の方に向き直り、問い詰めた。


陛下(ビーシャア)に偽る事は、死罪である。隠し事があるなら、包み隠さず申せ!」


「はい、私はこの様な格好をしておりますが、実は女子(おなご)で御座います。されど、倭国に()いて国士無双と言うのは偽りでは御座いません。何卒(なにとぞ)お察し下さいませ」


 俺は陛下に平伏して、慈悲を乞うた。


女子(おなご)の身では、危険な目にも合ったであろう。勅令を申し付ける。名を花娘子とし、皇城副使に任命する」


陛下(ビーシャア)より勅命である!」


 俺は平伏して大監が勅令を読み上げるのを聞いた。


陛下(ビーシャア)の聖恩に感謝致します!」


 徽宗皇帝は満足そうにして、俺を側に立たせた。皇城司は、皇帝直属の護衛兼秘密警察である。そのNo.2にいきなり抜擢されたのだ。三衙(警察)の権限を受け無い為、何をしても皇帝の命令が無い限りは罰せられる事は無いと言う役職だ。

 それから皇帝は、俺の手を取って皇宮内を説明して回った。庭先から花石鋼を使った芸術作品が並び、更には絵画や書などが飾られた部屋を案内された。

 実は俺も絵を描くのが好きで絵画にも興味があり、陛下(ビーシャア)に尋ねたり褒め讃えたりを繰り返すと、えらく気に入られた。ずっと手を繋がれて、そのまま夜のお供を命ぜられた。

 相手が皇帝なので、断ったり抵抗すれば死罪となるだろう。俺は観念して、陛下(ビーシャア)に身を委ねた。

 初めては痛いと聞いていたが、痛覚耐性で痛みは感じ無かった。初めて男性のモノが挿入(はい)った感覚は不思議な感じだったが、段々と気持ち良くなって来た所で膣内(なか)に射精された。行為が終わるまで1時間、その後も愛撫を続けられて挿入された。


“体内に射精された精子を分解出来ますが、しますか?”


「YESだ」


 膣内(なか)出しされても、妊娠しないのは助かる。徽宗皇帝は退位した後、金国との約定を破った報復で連れ去られるのだ。その時、全ての妃嬪と女官達も一緒だ。徽宗の子供なんて生んだら、妃嬪の列に加えられてしまう。そんなのはゴメンだ。

 俺は徽宗皇帝専属の護衛となり、皇帝からは妃嬪の様に扱われ、毎晩の様に抱かれた。その為に俺の権力は、童貫や宰相である蔡京をも超えた。


「高俅は大尉だよな」


 今や宋国一寵愛を受けているのは、俺だ。どうやって高俅を破滅させてやろうかと思案を巡らせた。


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