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転生したら、どうやら水滸伝の世界に迷い込んだみたいです  作者: 奈津輝としか


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第28話 遼vs.梁山泊 北の沈黙

 太陽星である皇弟耶律得重ヤリュー・デュェァヂョンを討ち、太陰星で公主(ゴンヂュ)答里孛(ダー・リーボゥ)は捕らえた。勝機を得たりと董平、林冲、秦明、呼延灼、関勝らが本陣へと突撃をした。

 兀顔光(ウーイェン・グゥァン)相克(そうこく)にさせまいと、陣を()えず変え続けた。

 梁山泊軍は遼軍の陣形の周囲を駆け回り、相克(そうこく)を狙っていた。しかし流石は不敗を誇る太乙混天象陣だ。一分の隙も見出す事が出来なかった。相克(そうこく)ことわりにならない限り、この陣を破る事は不可能だろう。

 その間にも群がって来る遼兵を董平が左右に持つ双槍で突き、秦明が狼牙棒で兜ごと遼兵の頭を叩き割り、関勝が青龍偃月刀を振り回して蹴散らし、遼兵を寄せ付け無かった。

 朱武が冷静に戦況を見極め、遂に右手に持つ旗を(かか)げた。軍太鼓が打ち鳴らされ、轟天雷・凌振が雷車に乗せた子母砲、連珠砲などの大砲で狙いを定め、太乙混天象陣へ撃ち込んだ。

 轟音と共に周囲にいる林冲や呼延灼を()けて、寸分の狂いも無く遼の陣へと大砲が次々と撃ち込まれていく。盾兵が密集して陣を固く組んでいた所へ爆撃されると、盾や鎧の意味は無くなって手足は吹き飛び、或いは人の形を残さず粉々に肉片を飛び散らせた。

 遼兵は悲鳴を上げて、大混乱に(おちい)った。事ここに至っては、太乙混天象陣の動きが止まり、遂に遼軍は相克(そうこく)(ことわり)を許してしまった。


「よし、今だ!相克(そうこく)となった機会(チャンス)を逃さず突撃しろ!!」


 朱武は歓喜して興奮で手が震え、聴こえるはずも無いのに林冲達に向かって叫んだ。先の(いくさ)の大敗の原因は、自分にあると思っていた。しかし、汚名を(そそ)機会(チャンス)が遂に訪れたのだ。普段冷静な朱武が、興奮するのも無理は無かった。


 兀顔光(ウーイェン・グゥァン)は周囲の空気の流れが変わるのを肌で感じ取り、背中に冷たい汗が流れた。総大将である都統軍の緊張は、瞬時に遼兵達にも伝播(でんぱ)した。


「まだだ。相克(そうこく)となっただけだ。まだ遼軍(われら)は終わらんよ」


 固く()ざされていた太乙混天象陣の門が開き、董平は北方玄武陣へと突撃を開始した。すると七門が開き、中から壁水揄・成珠那海(チォンヂュ・ナーハイ)が飛び出して来た。


「雑魚が、俺が相手だ!」


 九紋龍・史進は三尖両刃刀を片手で振り回して見せ、 成珠那海(チォンヂュ・ナーハイ)が繰り出した槍を軽く弾いて頭から真っ二つにした。

 その様子を見た室火猪・祖興(ズー・シン)が戦斧を振り回しながら史進に向かって行ったが、その進路上に錦毛虎・燕順がいた。祖興(ズー・シン)が邪魔だとばかりに戦斧で薙ぎ払ったが、燕順は赤毛の髪を(なび)かせて(かろ)やかに()わすと、朴刀を一閃して祖興(ズー・シン)の首を落として見せた。


「お見事!」


 その鮮やかな手並みに、思わず史進も燕順を褒め称えた。燕順はかつて、清風山の首領だった。腕っぷしにも自信がある。ただ梁山泊には、化け物が揃い過ぎているだけなのだ。

 それもその名を天下に轟かせる中華屈指の豪傑達がだ。彼らに比べれば、自分程度の武術など埋もれてしまい、腕に自信があるなどとは恥ずかしくてとても言えない。

 その豪傑のうちの1人である史進から褒められて、嬉しく無い訳がない。戦場にありながら不謹慎にも、思わずニヤニヤが止まらなかった。ふと目線の先には、欧鵬と馬麟が更に敵陣深くへと突入して行くのが目に入った。


「あっ!」


 燕順が危ないと叫ぼうとした時、欧鵬が馬麟に目配(アイコンタクト)し、素早く馬麟がしゃがむと同時に欧鵬が槍を投げつけた。馬麟の背後から危月燕・李益(リー・イー)が、斬りかかろうとしていたのだ。欧鵬が投げつけた槍は、李益(リー・イー)の喉を貫いていた。

 今度は馬麟が左右に持った銅刀を抜いて欧鵬に向かって走り出し、欧鵬も武器を手放して無防備に(さら)している為、馬麟に向かって走り出した。


「うるあぁぁぁ!」


 欧鵬の背後に迫る虚日鼠・徐威(シュ・ウェイ)の胴を右で薙ぎ払い、左で首を()き斬った。


「助かったぜ、馬麟」


「なぁに、お互い様だ」


 2人は笑い、戦友として更に義兄弟の絆を深めた。


 北方玄武陣を突き進むと、梁山泊の兵が大男によって蹴散らされていた。そこへ穆春が駆け付けた。この大男の大将は穆春の姿を見て、牛金牛・ 薛雄(シュェ・シィォン)と名乗った。それと同時に大刀を頭上に振り(かざ)して突進して来た。

 (うな)りを上げて振り下ろされた大刀を、穆春は本能的に受けずに()けた。()けて正解だった。それは地面を割り、周囲に砂埃(すなぼこり)を巻き上げた。受けていれば、朴刀ごと真っ二つにされていたであろう。

 必殺の一撃を()わされた薛雄(シュェ・シィォン)は、間髪入れずに大刀を横に()ぎ払った。しかし穆春はそれよりも早く、身軽に身体を(ねじ)って()けた。


「ええぃ、ちょこまかと!逃げるしか能が無いのか!男らしく正面からかかって来い!梁山泊では、貴様程度のカスでも将校になれるのか?」


「何だと、テメェ!」


 カッとなった穆春は、無謀にも 薛雄(シュェ・シィォン)に向かって突っ込んで行った。


「馬鹿めっ!」


 下から(すく)い上げる様にして袈裟斬りにしたはずだったが、薛雄(シュェ・シィォン)は穆春の姿を見失った。


「何!?何処へ消えた?」


「ここだ、薄鈍(うすのろ)がっ!」


 穆春は薛雄(シュェ・シィォン)の背後に回り、短刀で喉を()き斬った。噴血を上げ、薛雄(シュェ・シィォン)は前のめりに倒れて絶命した。



 梁山泊軍の主力の1人である董平は、数で勝る遼兵によって(はば)まれていた。そこへ鄧飛が駆け付け、鉄鏈を振り回して遼兵を薙ぎ倒した。そのお陰で、(わず)かながら道が出来た。そこを董平と朱仝が駆け抜けた。


「頼んだぞ董平、朱仝!」


 鄧飛が駆け抜ける2人を見送ると、刃が襲いかかって来たので、空中で身体を回転させて()わした。まるで走り高跳びのベリーロールを、着地までの間に十数回も回転しているかの様であった。


「うぜぇな!」


 鄧飛が襲いかかって来た相手に向かって言った。女土蝠・愈得成(ユー・デュェァチォン)が名乗ろうとしたが、右腕に鉄鏈が絡まっている事に気付いた。


「いつの間に…?」


 鄧飛は空中で身体を回転させて刃を()けながら愈得成(ユー・デュェァチォン)の腕に鉄鏈を絡ませていたのだ。鉄鏈とは鉄鎖であり、その先に分銅の様な物が付いておりイメージしやすくすると、鎖鎌の鎌が付いて無い方の側が両端ともになっていると言う感じだ。

 鄧飛が鉄鏈を強く引き寄せると、愈得成(ユー・デュェァチォン)がバランスを崩して地面に転がった。そこへ梁山泊の兵達が殺到して、槍で突かれ剣で切り刻まれて絶命した。


 董平らが駆けていると、斗木獬・蕭大観(シァォ・ダーグァン)が立ち(ふさ)がった。朱仝は大刀を(しご)いて、蕭大観(シァォ・ダーグァン)に向かって行った。


「お主は先に行け!」


 美髯(びぜん)(なび)かせて朱仝は董平に、先へ行くように(うなが)した。董平は遂に、北方玄武陣の大将である曲利出清(チュリー・チュチン)と対峙した。


「ここの大将はお前だったか。王文斌殿の敵討(かたきう)ちだ!」


「笑わせるな。中原(中華)の武術の程度が知れているわ。遼国(われら)の敵では無い!」


「ほざくな!」


 董平はカッとなり、 曲利出清(チュリー・チュチン)に双槍を振り(かざ)して打ち掛かった。曲利出清(チュリー・チュチン)も両刃刀で打ち払い弾いていたが、董平の流れる様に繰り出される双槍に押され始めた。


(梁山泊がこれ程のものとは…)


 曲利出清(チュリー・チュチン)が思わず舌を巻いた。双刀は聞けども、双槍など聞いた事もない。どんな曲芸を見せてくれるつもりだ?とタカを(くく)っていた。しかし、それがどうだ?この董平と言う男が見せた双槍の武術は完成され、一級品と呼べる代物(シロモノ)だ。

 目の死角ギリギリに槍の影が見え、両刃刀で受けた。しかし董平が左手を伸ばして繰り出した刺突を()わせずに、まともに胸に受けた。


「ごふっ」


 曲利出清(チュリー・チュチン)は血の泡を吹いて、馬上から落馬して絶命した。


「見ていてくれたか王文斌殿。仇は討ったぞ!」


 北方玄武陣の大将を討ち取り、生き残った遼兵は武器を捨てて投降した。梁山泊軍は太乙混天象陣の一角、北方玄武陣を沈黙させた。


「観念せよ。お主らの大将は討たれたぞ」


「誰が降伏などするものか!我が忠誠は遼国にある。降伏させたくば殺せ!」


 朱仝は関羽に憧れていた。義侠を貫いた人物だからだ。尊敬し、自身も()くありたいと思っていた。蕭大観(シァォ・ダーグァン)の命を捨てて国に忠節を尽くす姿に感動を覚えた。


「敵ながら天晴れ。殺すには忍び無し!」


 大刀で当て身を喰らわせて、蕭大観(シァォ・ダーグァン)の気を失わせて捕らえた。それを見ていた鄧飛が、鉄鏈を自分の身体に巻き付けながら言った。


「優し過ぎるぜ、あんたは。それがまた良い所だがな」


 朱仝はその問いに満足気に、自慢の美髯(びぜん)()でた。

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