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転生したら、どうやら水滸伝の世界に迷い込んだみたいです  作者: 奈津輝としか


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第26話 遼vs.梁山泊 第4戦目⑧

 太陽星である遼の皇弟が討ち取られた頃、一丈青・扈三娘は母夜叉・孫二娘と母大虫・顧大嫂ら女頭領達と共に、遼の公主(ゴンヂュ)答里孛(ダー・リーボゥ)が座す太陰星を目指していた。

 梁山泊の女頭領達は、太陰星にとっては凶星となる計都星を模した銀色に統一された軍装を(まと)っていた。


 一丈青は先に示した通り、母夜叉は言うに()かず、母大虫の「大虫」とは虎の事であり、子を守る獰猛な母虎の渾名(あだな)を付けられた事から分かる様に姐御肌で気が強く、徒手空拳(中国拳法)の達人で夫である孫新よりも遥かに強く、1人で30人以上の野盗を素手で叩きのめした事もあった。

 しかし本当に女頭領でヤバいのは、扈三娘でも顧大嫂でも無い。母夜叉・孫二娘である。


 孫二娘は夫である張青(張清の方では無い)と共に居酒屋を営んでいたが、追い()ぎの頭目だった父から武芸を仕込まれ、居酒屋に来た金目のある旅人を殺して金品を奪い、その遺体で人肉饅頭を作って(あきな)いをしていた。夫の張青は入り婿(むこ)で立場が弱く、妻である孫二娘の言いなりであった。

 ヤバいと言うのは、人肉饅頭を売っていた事や、毒を盛って金品を奪っていた事でも無い。彼女の包丁(さば)きが、神域に達していた事だ。

 包丁を振るう腕が消えて見えるほどの高速であり、それを武器として持ち替えた時、その刃に(かす)めただけで肉は骨から()ぎ落とされた。牛や馬で試し斬りをすると、骨となった事にも気付かずに牛や馬は走り、それを見た旅人は恐怖のあまり泡を吹いて倒れた。

 その神速の包丁(さば)きは、人間相手でも通じるのだ。生きたまま人が(さば)かれ、肉片と骨へと綺麗に解体されていく。同じ梁山泊の仲間達ですら、その有り様を見て吐き出す者が後を()たなかった。実は梁山泊最強は、孫二娘だと言う説もあるくらいだ。


 ある水滸伝と同時代を重ねた中国(香港)映画では、主人公の師匠が敵の総帥に殺され拳法を鍛えて復讐すると言う、よくある功夫(クンフー)ものストーリーだが、これに主人公の友人である張青が出て来る。

 彼は妻(孫二娘)の客桟(旅館的居酒屋)で肉を斬る事には()けた職人なのだが、主人公の師匠や主人公と同等の強さであるライバル、はたまた主人公でさえ勝てなかった敵の総帥相手に突然しゃしゃり出て来くると、肉斬り包丁を一閃して総帥の手や足を骨にし、トドメとばかりに胸から腰まで骨にして倒すのだ。

 思わず「お前かぃ!(主人公が倒すのでは無く)」とツッコミを入れたくなる展開だが重要なのは、この神技が男尊女卑の強い中国では孫二娘から張青に取って代わられている事である。


 公主(ゴンヂュ)である答里孛(ダー・リーボゥ)が率いているのは、自分の侍女2人を副官とする女兵士部隊である。気丈なはずの彼女達も、孫二娘の前に立ち(ふさ)がった仲間が一瞬で肉塊にされたのを目の当たりにし、怒りや憎しみ、悲しみや敵討ちなどよりも恐怖の感情が(まさ)った。

 それでも公主(ゴンヂュ)への忠誠心の厚い太陰星の部隊が、総崩れする事が無かったのは流石である。しかし孫二娘の前に立つと悲鳴が上がり、混乱(パニック)となって逃げ惑う者も多かった。


(相変わらず、とんでもないわね)


 顧大嫂は何人目かの遼兵を倒し、近くで孫二娘の神技を()の当たりにして思った。得物の長さが違うので林冲や董平ら槍棒使いには、近付く事すら出来ずに真価を発揮出来ないかも知れない。それでも万が一にでも彼女の間合いに入れば、瞬時に肉を()がれて骨にされる事だろう。


 副官を任されていた公主(ゴンヂュ)の侍女が、周囲に肉片を()き散らして胸から腰にかけて骨となり崩れると、遂に恐慌状態へと(おちい)った。

 遼国は最初の南下で、北の大宗師によって20万の遼軍が全滅させられた。その遺体の一部は、肉が()ぎ落とされ骨が見えていたと伝え聞く。だからこの時、脳裏に浮かべてしまったのだ。


(北の大宗師とは、この女の事では無いのか?)


 この女は、生きたまま人間を肉片にし、眉一つ動かさないどころか笑みさえ浮かべている。とても同じ人間とは思えなかった。

 公主(ゴンヂュ)は敵将である扈三娘と一騎討ちを始めて、部隊から離れてしまっている。もう1人副官を務める侍女が公主(ゴンヂュ)の援護に向かおうとしたが、混乱する部隊が邪魔で助けに行けなかった。


 答里孛(ダー・リーボゥ)も扈三娘も、水滸伝中屈指の美少女である。2人とも白よりも白い肌を見せ、キッと(ゆが)ませた紅が一層際立たせて浮かび上がった。

 公主(ゴンヂュ)が七星宝剣を(ひらめ)かせると、扈三娘は左右に持つ日月の両刀で(はじ)き返した。美しい彼女らの一騎討ちは、舞いでも見せられているかの様であり、見る者を思わず見惚(みと)れさせた。

 勝手知ったる見ている者達の思惑は知らず、彼女達は必死であった。両者の腕はほぼ互角であり、間合いを詰めるのも一苦労で、1寸詰めれば1寸の死を予感させた。お互いに間合いに入りたいが、力も速さも互角であり、相打ちとなる恐れがあった。


「はぁ、はぁ、はぁ…」


 しかし武芸は同等でも、次第に馬術の差が出て来た。北方騎馬民族である遼は、幼い頃より馬と共に生活する。人馬一体となった公主(ゴンヂュ)の攻撃は鋭さを増し、逆に扈三娘は押され始めた。


「そりゃ、そりゃ、そりゃ!どうした?防ぐだけで精一杯か?」


 扈三娘はそれに答えず、無言で答里孛(ダー・リーボゥ)の剣を(しの)いでいた。振り下ろされた剣を弾き、突かれると受け流し、斬られると()ぎ払った。

 互角どころか馬術の差でむしろ押していたはずの公主(ゴンヂュ)に異変が起こったのは、2人の一騎討ちが100合を超えた辺りからである。見る間に答里孛(ダー・リーボゥ)の動きが、悪くなって来たのだ。

 北方騎馬民族とは言え、公主(ゴンヂュ)として()()くと皇宮で何不自由ない暮らしを送っていたのである。(かた)や扈三娘は、土地の豪族の娘として金には不自由ない暮らしを送ってはいたが、他の婦女子のする針刺繍を嫌って山谷を駆けり、武芸の稽古に没頭していた。だから扈三娘は体力には自信があった。


(本物のお嬢様である答里孛(ダー・リーボゥ)なんかに、遅れを取る訳にはいかない)


 相手の手数が増えれば、必ず機会(チャンス)が訪れる。そう予測して一騎討ちを組み立てた。だが彼女は、公主(ゴンヂュ)のクセに意外にしぶとかった。なかなか疲れを見せない事に、焦りを感じ始めていた。


「それも終わりね」


 勝利を確信した扈三娘は、思わず()みが(こぼ)れていた。剛を煮やした答里孛(ダー・リーボゥ)の突きには、もはや鋭さが消えていた。扈三娘はその手を巻き上げる様にして取り、捕縛鎖で(から)め取った。


「天寿公主(ゴンヂュ)答里孛(ダー・リーボゥ)を一丈青・扈三娘が捕らえたりぃ!」


公主(ゴンヂュ)を殺されたく無かったら、降伏しな!」


 顧大嫂が遼兵に()え、降伏するのは公主(ゴンヂュ)の為に仕方なくだと名目を与えた。孫二娘の神技に恐怖し、その上に公主(ゴンヂュ)まで生け捕られて戦意を喪失した遼兵は、全員が武器を捨てて投降した。


 

 

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