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転生したら、どうやら水滸伝の世界に迷い込んだみたいです  作者: 奈津輝としか


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第25話 遼vs.梁山泊 第4戦目⑦

 梁山泊の陣営から後ろ手に縛られた若武者の姿が現れると、遼国の陣営からは両手首を鎖で拘束された巨漢が姿を見せた。李逵は遠目から見る限り、特に拷問を受けて無さそうで安心した。


「両者、前へ一歩!」


 ドドーンと太鼓を打ち鳴らされ、それに合わせて捕虜の2人が前に出た。これから打ち鳴らされる太鼓のリズムに合わせて中央まで進み、そこからは全力で自軍の陣営へと駆け込む。

 交換した捕虜を逃すまいと中央で交換が成立すると同時に、その背後を狙って矢を射かけて仕止めるのが暗黙の了解である。(すなわ)ち、捕虜交換の終了と同時に(いくさ)が始まるのである。この捕虜交換の現場には、(すさ)まじいまでの緊張と押し寄せる殺意が渦巻いて爆発寸前であった。


「うおぉぉぉ!」


 中央で兀顔延寿ウーイェン・イェンショウとすれ違った李逵は一瞥(いちべつ)すると、「待ってろよ!直ぐに皆殺しにしてやっからな」と(ささや)いて、ドシドシと重そうな巨体を揺らしながら自陣へと懸命に走った。

 若くてスタイルも良い兀顔延寿ウーイェン・イェンショウは、(かろ)やかに遼国の陣営へと駆け戻った。それと同時に、遼の弓兵が矢を放つ。


「うぐっ…くくく、こなクソがぁ!」


 李逵の方はと言うと、まだ自陣には程遠く、遼の弓兵が放った矢がその背に数本が突き立った。


 李逵を救う為に、盧俊義が槍を(しご)いた。李逵がいなければ、捕虜となっていたのは己だったかも知れない。副首領である自分が、捕虜となっていれば生きてはいまい。李逵は自分の身代わりとなったのだと思っていた。だからこそ、何を捨て置いても李逵を(たす)ける。

 そう息巻いた盧俊義の目に映ったのは、李逵の背後から土煙をあげて向かう一軍であった。まさかこのタイミングで、遼国の援軍か?と目を()らすと、その旗印には「大宋国」と「王」の文字があった。


「官軍だ!我が大宋国の援軍だぞ!」


 やってくれた。宋国最後の良心と呼ばれた宿元景が、徽宗皇帝を動かして援軍を寄越してくれたのだ。官軍を率いて駆け付けた将は、王文斌であった。

 彼は李逵と遼軍の間に割って入ると、そのまま遼の陣へと馬首を巡らせて突撃を開始した。李逵はこのどさくさに(まぎ)れて、陣営に戻って来られた。


 王文斌が遼軍に迫ると、太乙混天象陣の北陣が開いて玄武水星・曲利出清(チュリー・チュチン)が飛び出して来た。


「宋将、この玄武水星・曲利出清(チュリー・チュチン)が相手だ!」


「賊将の分際で名乗るな!!」


 王文斌が怒号をあげて槍を突き、曲利出清(チュリー・チュチン)は剣で穂先を払い退()けて見せた。この時、王文斌は北陣を任される遼将の技量が、己を遥かに上回っている事に気付くべきであった。

 鋭い連突を繰り出して、遼将を追い詰めているかに見えた。しかし王文斌は、紙一重で()わされる事に焦りを感じていた。突けども突けども、遼将は馬上でありながら舞う様な剣技で寄せ付け無かった。

 王文斌は(いきどお)っていた。愛する宋国の大地を、薄汚い北の馬が踏み荒らす事など決して許せるものでは無かった。


「すわっ!」


 最速の突きを曲利出清(チュリー・チュチン)の背に向けて放ったはずであった。その瞬間、遼将は此方(こちら)の位置を確認せずに右手首に持った剣だけを跳ね上げた。


「ごふっ」


 王文斌は何が起こったのかも分からず、左脇腹から右肩まで斬り上げられ、血飛沫(ちしぶき)()いて落馬した。


「王文斌!」


 盧俊義が()え、宋兵が王文斌を救おうと駆け寄ったが既に事切れており、遺体を運んで脱出した。それとほぼ同時に、遼軍が動いた。不敗を誇る太乙混天象陣が、軍太鼓の合図と共に動き始めたのだ。


 名将である事の条件の一つに、「機を見るに敏」とある。(わず)かな異変をも見逃さず、勝機を察する能力である。この点においては、兀顔光(ウーイェン・グゥァン)が優れた統帥である事は疑いようも無い。


 その兀顔光(ウーイェン・グゥァン)が、目を見開いて梁山泊の陣を見た。不謹慎にも、思わず()みが(こぼ)れた。梁山泊軍は、それまで敷いていた九宮八卦陣では無く、太乙混天象陣に似せて5色の軍装で統一していたのだ。


 陰陽五行の(ことわり)を用いて、この太乙混天象陣に相生相克の(ことわり)をぶつけて破ろうと考えたのであろう。「思い付きは悪く無いが、考えが浅い」この無敵の太乙混天象陣を破ろうと、同じ策を用いた者は過去に少なからずいた。

 それにも徹底して対策が(ほどこ)されており、対策は万全だ。たかが1日や2日で考えた急(ごしら)えの付け焼き刃の陣など、如何(いか)程の物か知れていると言うものだ。


 だが決して油断などしない。獅子は、一兎を追うにも全力を尽くすものだ。相手が弱いと見くびって、全力を出す事が恥では無い。弱い相手を見くびって、全力を出さずに勝てない事の方が恥なのだ。そこを()き違えてはならない。


 陰陽五行説の相克(そうこく)(ことわり)とは、「土は水に()ち」「水は火に()つ」「火は金に()ち」「金は木に()つ」「木は土に()つ」と言う説法である。



 朱武自身も、急(ごしら)えの陣などで勝てるとは思ってはいない。基本である九宮八卦陣を崩す事なく、陰陽五行の(ことわり)(もと)づいて組み直したのである。

 それにこれは、1日や2日で考えた事などでは無い。少華山の山寨に(こも)っていた時から、あらゆる陣形について研鑽(けんさん)し、試行錯誤して来たものである。

 言わば、己の人生の全ての心血を注いで来た集大成の陣形であった。相克(そうこく)(ことわり)で相殺すれば、例え太乙混天象陣であろうとも必ず破れる自信が朱武にはあった。

 だが、そんな事も兀顔光(ウーイェン・グゥァン)であれば、百も承知しているに違い無い。此方(こちら)の意図を読み、相克(そうこく)とならない様に陣を変化させて来る事だろう。


「しかし…」


 チラリと朱武は、公孫勝に目配せを送った。此方(こちら)には、天候さえも変える事が出来る者がいる。南の大宗師である羅真人の弟子、公孫勝は既に宗師と呼べる力量を持っている。これは九品の強さを誇る林冲や関勝が、5人がかりでも勝てない強さだ。

 羅真人は強大な力を弟子に授けたが、この力は1日に何度も無限に使える訳では無く、せいぜいが1日に1度限りであり、3度も使えば命を落とすと(さと)していた。


 公孫勝が剣を抜いて天に(かか)げ呪文を唱え始めると、それまで無風であったが木の葉が舞い足元の小石が転げ出し、やがてそれは砂塵(さじん)を巻き上げて遼軍の陣へと吹き込んで向かい風となった。


 遼軍は砂埃(すなぼこり)で視界を(さえぎ)られ、先程までの快晴が嘘であるかの様に空は黒雲に(おお)われた。


狼狽(うろた)えるな、まやかしだ!梁山泊が来るぞ!!」


 まやかしだと兀顔光(ウーイェン・グゥァン)は叫んだが、視界を(さえぎ)る様にして己の顔に当たる砂礫(すなつぶて)も風も間違いなく本物である。こんな物は、幻術の限度を超えている。これが本当に同じ人間の仕業(しわざ)とは、到底思えなかった。


 遼軍の混乱に乗じて、梁山泊の馬蹄が響く。梁山泊は追い風に背を押されて、怒涛(どとう)の勢いで遼の前軍に突撃して来た。


(シャア)!(突撃!)」


 梁山泊の騎兵部隊が、向かい風によって機動力を失った遼の騎馬隊へと、次々と槍を構えたまま体当たりを喰らわして行く。北方騎馬民族出身である遼の主力部隊は、何と言っても騎馬隊である。それを向かい風によって弱体化し、その隙に歩兵部隊を送り込む作戦だった。


 遼の太陽星・耶律得重ヤリュー・デュェァヂョンが座す陣へ、魯智深と武松を中心とする歩兵部隊が向かっていた。彼らは太陽星への相克(そうこく)とする為に、日と逆行する羅睺星を模した花模様の刺繍をした軍装で統一されていた。太陽星にとっては凶星となる星である。


 耶律得重ヤリュー・デュェァヂョンにとって不幸だったのは、砂埃(すなぼこり)で視界を(さえぎ)られた事でも、己が騎乗する騎馬が向かい風で思う様に動かせなかった事でも無い。それは、梁山泊が誇る豪傑2人を同時に相手にした事であった。


「何奴?この儂は遼の皇弟、耶律得重ヤリュー・デュェァヂョンである」


「はっはぁ。思わぬ大手柄。御仏に感謝する。降伏するなら命までは()らぬ」


「はっ?何を世迷言を。坊主が大人しく読経でもしておれば良いものを…」


 その瞬間、耶律得重ヤリュー・デュェァヂョンは宙を舞っていた。何が起こったのか理解出来ず、ただ地面に投げ出されて転がると、坊主の禅杖が振り下ろされて己の頭を砕く嫌な音を聞いた。


 遼の皇弟が魯智深に気を取られている隙に、武松が死角から飛び込んで騎馬の前脚を蹴り折ったのである。武松は虎殺しの異名を持つ豪傑であり、近隣住民を何十人も食い殺した虎に酔い潰れて遭遇し、そのまま酔拳で殴り殺したのだ。

 素手で巨大な虎をも殺した武松なら、如何に強靭な騎馬の脚と言えども、()し折る事が可能だったであろう。


 太陽星である遼の皇弟、つまり遼国のNo.2がいきなり討たれたのである。大混乱に(おちい)った太陽星を司る遼兵は、逃げ惑い壊走した。


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