第15話 遼vs.梁山泊 第2戦目
「陛下、確かに梁山泊は脅威ですが、彼らは朝廷に帰順したばかりで功績を挙げた為に、宋国の奸臣達から嫉みを買い、冷遇されていると聞き及びます。されば、宋国よりも厚遇すると約束して遼国に取り込んでは如何でしょうか?」
欧陽侍郎は梁山泊を、遼に寝返らせると言う策を献策した。遼国第1の将である都統軍・兀顔光は、愚策と罵って反対したが、結局欧陽侍郎の献策が採用された。
梁山泊の好漢達は招安して官職を授かったが、基本的に梁山泊に住んでいた。そこへ遼国からの使者が現れた。
「報(報告)、宋首領か呉軍師はどちらへ?」
梁山泊の東の対岸で居酒屋をしている旱地忽律・朱貴から、遼国の使者が来たとの矢文が届いたのだ。
宋江は使者を追い返そうと思って呉用を見ると、目配せをして来たので軍師の策に乗る事にして使者を通す事にした。
「宋首領に拝謁致します」
遼の使者は、献策した欧陽侍郎が自らやって来た。
「ご使者殿、まさに渡りに船とはこの事ですな。宋国に帰順したものの朝廷には奸臣どもが蔓延り、我らの活躍に嫉妬して官位を授かったものの未だ梁山泊に閉じ籠っている始末。遼国が我らの待遇を保証して頂けるなら、喜んで招安に応じましょう」
呉用は遼国の使者に答え、宴会をしてもてなした。
「軍師殿、そろそろ策を教えてはもらえないか?」
酔い潰れた遼の使者を寝所に行かせると、宋江は呉用に尋ねた。
「はい、これは帰順したフリをして油断させ、覇州を奪い取る策です」
「覇州を奪るとな!?流石は軍師、その神算鬼謀には舌を巻くばかりだ」
この状況を利用して、遼国から領土を奪い取るなど考えもつかなかった。
「朱武を呼べ!」
神機軍師・朱武は、かつて少華山で山賊をしており、魯智深が史進を迎えに来た折に共に梁山泊に入山した。正軍師である呉用、公孫勝に次ぐ副軍師的な立場となり、主に呉用が戦略と謀略に長けていたのに対して、朱武は戦術を得意として陣形なども網羅していた。その為、軍を率いての戦場に於ける軍師は朱武が担っていた。
尚、公孫勝は軍師と言っても妖術使いであり、例えるなら日本の戦国時代で織田信長が天下統一しようとしている軍団に魔法使いがいる様なもので、そんな者は物語のパワーバランスを崩すチート能力者でしか無い。つまり、存在そのものが反則級の強さであり、南の大宗師・羅真人(仙人)の弟子である為に、九品の武芸者以上の強さを誇っていた。
その夜、呉用と朱武は遅くまで入念に計画を擦り合わせた。
欧陽侍郎が帰った10日後に、梁山泊は覇州に向けて出発した。それから30日かけて、ようやく覇州の文安県城に着いた。
「ようこそ、お待ち致しておりました」
覇州は、遼国に於いてその人ありと謳われた老将・康里定安が守っていた。彼は遼の皇帝と姻戚関係であり、国舅であった。
覇州の文安県城は、大軍が常駐する検問と城門は頑丈な鉄扉であり、この城塞への唯一の入口が吊橋になっていると言う三段構えの難攻不落の城であった。
宋江は限られた将兵を連れて、城内に入城した。康里定安は宋江がこちらの提案に乗って、少しばかりの配下しか連れて来なかった事に対して気を緩めた。
宋江が何か企んでいても僅かな兵では何も出来ないだろうし、仮に何かをしようとするなら、捕らえて捕虜にすれば梁山泊は手出し出来なくなる。首領である宋江を人質にして、梁山泊を降伏させる事も可能だろう。
城内に入ると、宴会場に案内されてもてなされた。酒を飲み肉を喰らい酩酊して来た頃、城外が騒がしくなった。
「報!(報告!)、梁山泊の副首領を名乗る男が兵を率いて、宋江殿と呉用殿を罵っております」
「何?盧俊義が来ただと!?困った奴だ」
そう言ってよろめきながら、城門の上まで身体を支えられて行った。康里定安も付いて行き、盧俊義を城門から見下ろした。
「おう!そこに見えるは、恥知らずな売国奴か!?」
盧俊義は、梁山泊の旗印である『替天行道』と『忠義双全』の旗を振り、「二君に仕える不忠者!」と叫んで罵った。
「うぬぬぬっ…あやつめ、許せん!八つ裂きにしてくれるわ!」
宋江は、康里定安に頼んだ。
「国舅殿、兵をお貸し下さい。盧俊義の奴を、引っ捕らえて参ります」
「あ、いや、それには及ばぬ。葉清侍郎、金福侍郎!」
「はっ!ここに」
「盧俊義を捕らえて参れ!」
「畏まりました!」
国舅はまだ宋江の事を信じておらず、兵を貸して内から呼応される事を恐れて、丁重に断ったのだ。盧俊義は遼将2人の相手をし、初めこそ互角以上に渡り合っていたが、疲労が見えて堪らずに逃げ出した。
「ははは、口ほどにも無い奴め」
葉清侍郎と金福侍郎が戻って来ると、宋江は声をかけておだてた。
「いやはや国舅殿に、この様な猛将が守っておられるとは。この文安県城も難攻不落であり、安泰ですな」
「遼国が誇る2人の猛将に一献捧げます」
宋江はそう言うと、杯に注いだ酒を飲み干した。国舅も気をよくして、終始笑顔で酒盛りを続けた。
「ところで国舅殿。実は梁山泊には、遼国の招安に対して賛成派と反対派がおり、魯智深が率いる第2陣が明日には到着するはずなのです。彼の忠誠は、私が保証致します。迎え入れる事をお許し下さい」
「ははは、それは良い。それは良いぞ。頼もしい限りですな」
宋江らを労い終わると、寝所に案内して休ませた。康里定安は、魯智深らを受け入れると言ったものの不安を感じた。
「国舅殿、宋江の言った言葉を信じるには早過ぎます」
「儂もそう思う。だがもう承諾してしまった。断れば、儂の面子にかかわる。どうしたものか…」
「それなら良い方法が御座います。理由を付けて魯智深ら梁山泊の頭領達と、梁山泊の兵を隔離してしまえば良いのです」
「なるほど、率いる兵がいなければ何も出来ないと言う事か」
康里定安は、ほくそ笑んだ。
翌日の晩、城外の騒がしさで報告を受けた。魯智深と盧俊義の軍が争い、魯智深の方が形勢が悪いのだが、吊橋が上げられている為に城内に逃げ込めずにいた。
「国舅殿、どうか魯智深を助けて下さい」
再び葉清侍郎と金福侍郎が呼ばれて、「盧俊義軍を蹴散らして来い!」と命令を受けた。2人は1度勝っている相手なので、余裕だとばかりに意気揚々と出陣して行った。
重い鉄扉が開いて吊橋が降りると、遼将2人は盧俊義に向かい、その隙を突いて魯智深は城内に逃げ込んだのだ。しかし魯智深軍は、城内に入ると放火して周り、城内の遼軍に襲いかかった。
「な、これは…!?よくも図ってくれたな!」
康里定安は怒って宋江を捕えた。
「ふははは。お前は俺を宋首領だと思っているだろうが、マヌケにも敵の巣窟にノコノコと現れるはずが無いだろう?」
宋江だと思っていた男は、宋江によく似た影武者であった。
「馬鹿な…」
城門から見下ろすと、果たして宋江と呉用がこちらを見ていた。
「クソっ、馬鹿にしおって!!」
怒り狂った康里定安は、その場で影武者の宋江と呉用を殺害した。そこへ魯智深らが突入して来た。
「石勇、コイツは俺の獲物だ。白勝と合流して城内を征圧しろ!」
「へぃ、分かりやした」
石勇が去るのをチラ見して、直ぐに康里定安に向き直った。
「はっはぁ!」
魯智深は錫杖を振り回し、燭台や机、石像など当たった物を全て打ち砕く破壊力を見せた。康里定安も老いて益々盛んな老将であったが、髪は白髪に染まり既に齢七十を超えており、梁山泊が誇る怪力無双の剛腕に敵する事が出来ず終始押されていた。
「待て、降伏しよう。ただし1つだけ条件がある。これ以上、遼の民も兵士も傷付けないと約束してくれ」
「…良いだろう。ここは燕雲十六州の土地、かつて中原(中国)の領土であり、ここに暮らす民は我が中原の民だ。傷付ける道理は無い」
こうして呉用の奇策によって、覇州は陥ちた。欧陽侍郎は、燕京に逃げ戻って覇州陥落の報告をした。天祚帝は激怒して、「欧陽侍郎の首を刎ねよ!」と怒鳴った。
兀顔光がそれを諌め、一軍を率いて梁山泊を殲滅して見せると息巻いたが、副統軍である賀重宝が、「都統軍(兀顔光)が出るまでも無く、自分が治める幽州の青石峪と言う断崖絶壁の地に誘い込んで殲滅して見せる」と献策して採用された。
「くっくくく…梁山泊など何する者ぞ。我が妖術の前では、敵う者など無し」
賀重宝は、黒い鵞鳥の羽で作られた戦袍を広げて高笑いをした。




