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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

親友は腕の中

自分の欲求を満たす為に文章を書いています。いじめのシーンが入ってしまったのでR15にしました。ごめんなさい。読んで頂けたらうれしいです。

 誰かこの人を何とかして、、、。いつもベッタリくっついて来るんだけど、、、。


「優くん、暑い、、、」

「、、、」

「ね、暑いんだけど、、、」

優くんは返事もしないで、僕の肩に頭をグリグリ押し付けてくる。


 休み時間の度に僕の席にやって来てはまとわりついて来るんだ。周りの女子は優くんに話し掛けたくても話し掛けられないし、遠巻きにヒソヒソ話をしている。どーせ、何であんな野暮ったい男と一緒にいるんだとかそんな話だ。


 休み時間中の僕の定位置は、最近優くんの腕の中だ。後ろからくっついて来て、お腹に手を回してホールドされている。優くんはあまり喋らないのでいつも僕が話してばかりいる。でも、僕は話をするのが得意じゃ無いし、新しい事や楽しい事なんて毎日は無いからすぐに話が尽きちゃうんだけど、、、。


***


「優くん、今日委員会でしょ?」

ホームルームが終わり、みんなが部活に行ったり帰り始めた教室で、僕は優くんに確認する。優くんはちょっと斜め上に視線を上げて考えてから、コクンとうなづく。そっと腕が伸びて来て、僕の腰辺りに手を回す。そのまま引き寄せられて肩に頭をグリグリさせる。ついでに僕の首筋の匂いを嗅いで身体を離すとじっと見つめて来る。

「待ってる?」

コクンとうなづく。

「じゃあ、図書室で勉強して待ってるよ。行っておいで」

優くんは、委員会に行くのが本当にイヤそうに教室を出て行った。



 図書室はまぁまぁの人だった。3年生は受験があるから図書室で勉強する人も結構いる。うちの図書室は図書室内では飲食禁止、お喋り禁止だけど、解放されたドアを挟んだ隣りの部屋は、飲食も勉強に関する事ならお喋りもしていい事になっている。僕はいつも一人だから図書室内の机で勉強しているんだ。こっちの机は1人掛けが多いし、静かだからね。ちなみに隣りの部屋はグループで使える様にテーブルも大きめで4人掛けになっている。


 荷物を置いて鞄を開く、今日は何を勉強しよう。僕の成績は可も無く不可も無くの平均ど真ん中。優くんはいつもあんななのに、学年順位10番位内には入っている。もっとちゃんと勉強したら、1位とか取れそうなのに。勿体無いよね〜。



 問題集とノートを出して勉強をしていると、誰かが隣りに立っていた。知らない人だ。イヤな予感がする。

「こんにちは」

にっこり笑う顔はとても可愛くて、いかにもクラスの人気者って感じだ。

「えっ、、、と」

「ちょっと付き合ってもらいたいな」

嫌だ、、、と言う気持ちがバレない様に下を向きながら椅子を引く。

優くんの委員会が終わるまで後20分位だけど、戻って来れるかな?席にいないと心配しそうだから、メモでも残しておきたいんだけど、、、

「あのさ、待ってるんだけど、早くしてもらえるかな?」

女子怖い、、、

「えっと、人を待ってるから席、離れたく無いんだけど、、、」

「はぁ?ここじゃ話せないから来てって言ってるの。すぐ済むからさ」

図書室内でお喋りしたくないから、僕は諦めてついて行く事にした。


 僕は昔からそうだ、気が弱そうに見えるのか(まあ、実際気が弱いんだけど)、気に入らないタイプなのか、イジメとか陰湿な事が続くわけじゃないんだけど、結構傷付く事をズケズケ言われちゃう。今から何を言われるか、大体想像出来るけど大人しく聞いて早く終わりにしたい。


 図書室を出て一階まで降りて行く。階段脇のちょっと薄暗いスペースに連れ込まれた。

「ねぇ、何でいつも筒井君と一緒にいるの?」「あんたがいつも一緒にいるから近寄れないじゃん」

あー、やっぱりその話か、、、。最近無かったから油断してたな、、、。


 僕と優くんは小学校からの友達で、大抵一緒にいるから女子は僕の存在が気に入らないんだ。僕がもっと優くんみたいにカッコ良ければ、みんな納得するんだろうけど、僕は平均の平均。イヤ、人間的には平均以下かも知れないけど、兎に角こんな僕は優くんに相応しく無いって事。


「あんたみたいなフツーの子、筒井君には相応しく無いの、どっか行ってくれない?」

うーん、どっか行けって言われても、くっついて来るのは優くんの方なんだよね、、、。

「、、、黙ってないで何とか言ったらどうなの?」

「、、、」

「やっぱりさ、筒井君みたいにカッコ良い人の横には、花蓮みたいな可愛い子が似合うんだよ。あんたじゃ無いの」

(この人、花蓮って言うんだ、、、。?それとも友達の名前かな?)

「とにかくさ、いつも一緒にいるのやめてくれない?」

「、、、」

「ねぇっ、聞いてるの?何とか言いなよ!」

「あんたが筒井君の横にいるから、花蓮と筒井君が付き合えないんだよ!」

「ごめんなさい」

ついつい謝ってしまった、、、。

「明日からは筒井君と一緒にいないでよ!わかった?」

「、、、」

「ひっ!」

ひっ?

何事かと思って顔を上げると優くんがにっこり笑って立っていた。花蓮さんは僕に言うだけ言って立ち去ろうとして、優くんの存在に気づいたみたいだ。優くん、いつからそこにいたの?僕、下を向いていたから全然気づかなかったよ。


「タケ、こっち」

呼ばれて優くんに近寄る。

「何話してたの?」

「えっ、、、と、優くんと一緒にいないでって言われて、、、」

花蓮さんの空気が変わった。それ以上絶対言うなって空気が流れて来る。

「何で?」

僕がどう説明しようか考えていたら、花蓮さんが口を挟んで来た。

「だって、ほら、筒井君カッコ良いから、そんな子が隣にいても似合わないじゃない?」

「、、、お前、うるさい」

優くん、怖い

「花蓮みたいなかわいい子の方が似合うと思うよ!」

「ねぇ、お前、何なの?」

「え、、、」

「お前なんて知らない。俺がたけると一緒にいたいの」

「健が俺といたいんじゃなくて、"俺"が"健"と一緒にいたいの。わかる?」

「行くよ、タケ」

「あ、うん」

視線の端で花蓮さんがスカートを、ギュッと掴むのが見えた。顔を上げると花蓮さんは顔を真っ赤にして今にも泣きそうな、怒っている様な顔をして足元を睨んでいた。

「タケっ!」

優くんに手を握られ引っ張られる。優くんも怒っているみたいで、僕は引っ張られるままついて行った。


 図書室はすっかり人が少なくなっていた。僕はノートを広げていた机に戻ると、荷物を片付けようと手を伸ばした。もう一度優くんに手を掴まれ、本棚の影に連れて行かれる。優くんは僕の手を離すと両手を広げて

「ん」

と言う。僕は仕方なく優くんの腕の中に入る。優くんは僕を優しくギュッとして肩に頭を乗せる。しばらくそうした後、頭をグリグリ押し付けて僕の首筋の匂いを嗅ぐ。

「心配した」

「僕がイジメられてると思ったの?」

コクンとうなづく。いつもの優くんに戻ったみたいだ。

「来てくれてありがとう」

また、コクンとうなづく。

「もう大丈夫だよ。あの頃みたいに子供じゃ無いし、ちゃんと自分で対処出来るから」

 小学生の時も、中学生の時も似た様な事はあった。集団で囲まれて、さっきみたいに優くんには相応しく無いからどっかに行けって言われたり、お前みたいにカッコよく無いやつが一緒にいるなと責められたり。その度に僕は落ち込んで、優くんから離れたりしたんだ。しばらく一緒にいるのをやめて、話すのを禁止して、優くんを避けていた事もあった。優くんはあの頃、寂しそうに僕を探して一緒に遊ぼうとしてくれた。優くんも何と無く理由がわかったみたいで、決して怒る事は無く、少しづつ距離を近づけていつの間にか元通りになった。優くんは僕から離れて行かなかった。


***


 委員会が終わって、やっとタケの所に戻って来たのに、タケがいない、、、。トイレかな?辺りをキョロキョロして取り敢えず椅子に座る。机に広げられたタケの字を眺める。小さい字だ。線も弱々しくて自信無さ気な字。俺と一緒にいるとタケはいつも女子に陰口を言われる。小学校でも中学生の時もあった。その度にタケは俺から離れようとする。俺はタケが好きだ。気に入っている。タケは静かで、余計な事を言わない。声の感じも耳触りが良く、いつまでも聞いていたいと思う。上手く話を盛るとか、オチを考えて話すとか苦手みたいで、いつもフツーの話をフツーに話す。2人で馬鹿笑いするとかそんな事は今まで一度も無いけど、タケと一緒にいる時間は気を使わなくて、楽で安心出来るから好きだ。

「あの、、、」

図書委員のメガネの子が声を掛けて来た。

「その席にいた人、さっき女の子が来て連れて行きましたよ。ちょっと様子が変だったけど、、、」

またか、、、。タケ、呼び出されちゃったんだ。最近は気を付けて、いつも一緒にいる様にしてたのに。

「廊下に出て、下に降りて行ったみたいですよ」

俺はお礼を言って図書室を出た。急いで階段を降りて行くと、一階の階段脇から話し声が聞こえる。もう、雰囲気でいつものアレだとわかった。


 知らない女がギャンギャン喚いていた。タケは下を向き、早く時間が過ぎれば良いのにと思っているみたいだ。二人は俺が近づいても気が付かない。急に女が振り向いたからぶつかりそうになった。女は小さな悲鳴を上げた。



***



 図書室に戻って、タケを本棚の影に引き込む。両手を広げて待っていると、タケは仕方ないなと言う感じで近寄って来た。良いじゃ無いかこれ位、さっきのご褒美だ。俺はタケの匂いが好きだ、だから出来るだけ近くにいたい、頭をグリグリ押し付けてタケの匂いを嗅ぐ。はぁ〜、癒される。

「優くん、誰か来ちゃうよ。ねぇ、見られたら恥ずかしいからさ、ね?」

と言ってモゾモゾ動く。



***


 私には学校内に推しキャラがいる。今日はたけちゃんが一人で図書室に来たので、受付カウンターの中で妄想に励みます。待ち合わせかな〜。ゆうくん待ちで勉強か〜。早く来て上げてゆうくん。

 私が溜まった返却本を棚に戻しに席を外すと、いつの間にか可愛い女子がたけちゃんの席に近づいている。図書室内は大きな声が禁止なのでよく聞き取れないけど、彼女が来たら不穏な空気が流れ始めたので事件の予感。二人が図書室を出て、階段を降りて行くのを扉の影からチェックした。10分位経ってもたけちゃんは帰って来ない。そのうち、ゆうくんが図書室に入って来た。室内を見渡し、ノートの広がった誰もいない机に近づく。(ゆうくん、たけちゃんは知らない女に拉致られてしまいましたよ。早く助けに行ってあげないと)と心の中で囁く。なんてふざけている場合じゃ無いか、さっきの雰囲気はあんまり良くなかったもんね。普段なら推しは遠くから眺める派だけど、勇気を出して話し掛ける。

「あの、、、」


 ゆうくんは私にお礼を言うと急いでたけちゃんを探しに行った。ああ、追い掛けたい。追い掛けて成り行きを見守りたい。でも、私には図書室の受付業務があるんだよ〜。受付席に戻り、机に頭を付けながら悶々とした。

 閉館時間まで30分を切るとチラホラ荷物をまとめて帰り始める人もいる。大分人がいなくなった頃、ゆうくんとたけちゃんが手を繋いで帰って来た。手!。はぁ〜、誰かこの二人に何があったのか教えて下さい。私は受付カウンターギリギリの所から仕事をしているフリをして、二人の様子をチェックしていた。

 たけちゃんが荷物を片付けようとした手を掴み、ゆうくんが本棚の影に引っ張り込む。ぎゃー!何が起こるのー!見に行きたいけど、静かな図書室では椅子から立つ音さえ響いてしまいそうで見に行けない。ボソボソと何か話している様だけど、内容までは聞こえない。本当は私語禁止だけど、それどころじゃ無いのよー!もう、いいや。今日はこれをネタに夜妄想するから、、、。


***


 僕と優くんは小学校が同じだから、当然帰り道も同じだ。でも、優くんは通学中は絶対に僕に触れたりしない。教室ではあんなに密着する割に、学校を一歩出ると1ミリも触れないのだ。まぁ、座席に隣同士で座ったら流石に触っちゃうけどね。

「優くん、今日はありがとう。僕の事、探したの?」「よくあの場所がわかったね」

「図書室のメガネ」

「あ、受付の?」

「ん」

「あの子が教えてくれたの?」

「ん」

「そっか〜。今度あの子にお礼を言わなくちゃね」

あの子が優くんに話してくれなければ、しばらく花蓮さんに、睨まれる所だった。花蓮さんだけならまだ良いけど、花蓮さんの友達とかファンとかいたら困るからね。

「図書室のメガネ、知り合い?」

「ん〜、顔は知ってるし、図書委員の子だからちょっとは話した事あるけど、知り合いって言うと違うかな?」

「あの子、可愛い?」

「???」

「僕、あんまり人の顔見ないけど、かわいかったと思うよ」

人の好みはそれぞれだもんね。僕は女の子の顔、みんなそんなに違うとは思わないけど、あの子の顔が好みな人にはすごく可愛いだろうし、興味無い人だっているだろうし、可愛いの基準は難しいよ。

優くんはそれだけ話すといつもの様に静かになった。



 今日も優くんは安定のべったりで、クラスのみんなも大分慣れて来たらしい。たまに、極一部の女子がヒソヒソ話をしているけど、僕にはどうしようも無いし、、、。



「優くん、帰りに図書室寄りたいんだけど」

優くんがコクンとうなづく。

 放課後、荷物を持って二人で図書室に向かう。途中にある自販機の前で立ち止まり

「あのさ、あの図書室の子にお礼にジュースとか買いたいんだけど、何がいいかな?」

と、相談すると優くんは微妙な顔をした。僕は自販機に向き合い、女の子の好きそうな物を探した。でも、人の好みは難しいからな。甘党もいれば、お茶が良い人もいるし、コーヒー一つにしても甘さ強めから、微糖、ブラック。そもそもコーヒーが飲めなくて紅茶派とか。う〜ん、困ったな。

「ねぇ、何がいいかな?」

優くんが僕の後ろから肩に顎を乗せて指を指す。イチゴオレ、、。

「それ、優くんの好きなジュースでしょ?」「まぁ、いいか」

僕はイチゴオレを買う。そしてもう一つ同じ物を買うと優くんに上げた。

「優くんも欲しいんでしょ?」

優くんはイチゴオレを受け取ると僕を抱きしめ、肩に頭をくっつけてグリグリする。



 図書室に行くと彼女はいた。いつも大抵図書室にいる。委員の仕事が無くても勉強したり、本を読んだりしているのだ。よっぽど図書室が好きなのかな?

 今日も受付にいるから、ちょっと意外だと思って小さく声を掛けた。

「今日も受付ですか?」

すっと顔を上げた彼女はちょっとびっくりした顔をした。

「えっと、昨日筒井君に声を掛けてくれましたよね?」

彼女は小刻みに顔を縦に振る。さすが図書委員、お喋り禁止だからかな?

「あなたが筒井君に声を掛けてくれたので、僕、助かったんです。何が好きかわからなかったけど、良かったらこれ、飲んで下さい」「昨日は本当にありがとう」彼女はペコリと頭を下げてジュースを受け取ってくれた。



***


「今日も受付ですか?」

と言われて顔を上げると推しのたけちゃんがいる、、、。夢かな?

「えっと、昨日筒井君に声を掛けてくれましたよね?」

もうね、びっくりしすぎて言葉なんて出ないのよ。頭を小刻みに振るしか無い。

「あなたが筒井君に声を掛けてくれたので、僕、助かったんです。何が好きかわからなかったけど、良かったらこれ、飲んで下さい」「昨日は本当にありがとう」

たけちゃんが喋ってる、、、たけちゃんが、たけちゃんが、、、。

しかも、イチゴオレ!自販機でイチゴオレ買ってるたけちゃん見たかったー!

 頭を下げるしか出来ない私はそのままたけちゃんを見送ると、ゆうくんが図書室入り口でイチゴオレ、、、飲んでるー!、、、やばい、ゆうくんと同じイチゴオレとか死ぬな、、。もう、家宝にするしか無いな。



***


何だか、優くんの機嫌が悪い。何だろう???

「優くん、どうしたの?何かあった?」

さっきジュースを上げた時は機嫌良さそうだったのに、どうしたんだろう?うーん、わからない。

「あのメガネ」

「受付にいた?」

「タケの事好きかも」

「僕の事、好き?いやいやいや、そんな事絶対ないよ?優くんの事好きになる子はたくさんいるけど、僕の事好きになる子なんていないよ」

優くんは近くの教室のドアを開け、僕を引っ張り込んだ。後ろ手でドアを閉め、いつも通り肩に頭を押し付けてグリグリしてきた。抱きしめた腕にギュウッと力を込めて来た。

「俺はタケが好きだけど」

「僕も優くん好きだよ」

優くんはもう一度腕に力を入れて、小さくため息をついた。そして僕の指にそっと優くんの指を絡めて静かにドアを開けた。


***


俺はさっきからイライラしている。何だかよくわからないけど、何か面白くないらしい。


***


体育の授業が終わり、廊下を歩いていたらあの子がいた。そう言えば名前知らないな。

「こんにちは。食堂に行くの?」

声を掛けるとあの子はビクッとしながら振り向いた。名札をチェックすると「佐藤ち」って書いてあった。

「佐藤ち、さん」

「ちよこです、、、」

「チョコ」

「うっ」

「本当だ、チョコだ」

「よく言われます」

優くんの方を見たら何だか顔が赤い。あれ?あんまりこんな表情の優くん見た事無いな。

「あの、食堂混んじゃうので行っても良いですか?」よく見れば佐藤さんも耳が赤いかも、、、。あれ?二人ってもしかして、、、、。両思い?



タケにも佐藤さんにも絶対聞こえた、、。ついうっかり"チョコ"なんて呟いてしまった。名前がちよこだから、"チョコ"なんて安直すぎて恥ずかしい。しかも、そこそこ大きい声だった、、、。



ねぇ、待って!毎日校内推しキャラと話せるなんて、私、そろそろ死ぬのかな?死んで転生しちゃうのかな?今日は二人揃っていたし、しかも名前覚えられちゃう上に、ゆうくんに"チョコ"なんて言われちゃうし!実は千代子→チョコ呼び大好きなんだよ〜!。今頃、「佐藤千代子ちゃんだって、チョコちゃんだね。」「可愛いね〜!」「佐藤も砂糖みたいで甘々だねぇ〜」なんて二人で盛り上がってるかも、、、。はぁ〜、最近は妄想ネタ過多で幸せ過ぎるわ〜。ヤバいな私。、、、しかも体操着、、、想像力膨らむわ、、、。


***


 僕は、優くんと佐藤さんが両思いだったらどうするべきか考えていた。優くんは僕の前ではあんまり喋らないけど、実はちゃんとコミュニケーションは取れるのだ。ただ、頭の中で色々考えているから言葉に出すのが面倒くさいらしくて、必要が無ければ余り会話とかしたくないらしい。、、、あれ?ちょっと待って?それって、僕との会話が必要無いって事かな?、、、むぅっ、傷付くな、、、。まぁ、それは置いておいて、先生に対してとか、授業中、委員会ではちゃんと話すし信頼もある。佐藤さんの事はまだわからないけど、優くんが好きになる位だから絶対良い人だと思う。先日の事もあるしね。それにそう言えば、僕に佐藤さんの事可愛いか聞いていた位だから、やっぱり気になる存在なんじゃ無いかな?僕が優くんに出来る事って何だろう?一緒に図書室に行く事かな?



 いつも通り、休み時間になると優くんは僕の所に来て窓際に移動する。後ろから抱き締めて一緒に校庭を眺めていた。梅雨が明けて日差しが変わり、今日も暑くなりそうだと思いながら下を見ると佐藤さんがいた。次は体育の授業らしく、生徒達がパラパラとグランドに出て来ている。僕は佐藤さんにこんな姿を見せたく無くて、優くんの腕を解こうとした。優くんは何も言わず、腕が外れない様に力を込める。

「あ、、、のさ。」

優くんはグランドを見たままだった。

「こーゆうのね」

あ、佐藤さんがこっちを見た。

「こーゆうの、良くないと思うんだ!」

「ん?」

「だから、休み時間の度にこーやって、、、何て言うか、、、密着?、、するの。あんまり良くないんじゃないかな?」佐藤さんが見たら嫌な気分になると思う。

「イヤなの?」

「えっと、優くんの事好きな人が見たら悲しむかな、、、って、、、」

優くんは返事をしない。佐藤さんに目を向けると走って集合していた。優くんはため息をついた。

「それに、優くんだって自分の好きな人にこーゆうの見られたくないでしょ?」

「タケ、、、」

と、言った所で時間切れだ。チャイムが鳴って、優くんは眉間に皺を寄せながら自分の席に戻って行った。



***


 いつもの日課、校内推しキャラ、たけちゃんandゆうくんのバックハグチェックをしていたら、ゆうくんがこっちを見ていた。やべぇ、バレた。今までは私の存在を知らなかったから気づかれなかったけど、今日はとうとう認識されてしまった。もー!体育の度に堪能してたのに、ダメぢゃん!この時間は絶対二人を拝めていたのに、残念だー!気の所為か体育の授業に身が入らず、私はランニングの途中でコケて捻挫をした。


***


 昼休み、いつもは教室で食べるのに、珍しく体育館裏に連れて行かれた。最近はずっと天気が悪かったから、久しぶりに晴れたし気分転換したかったのかな?

「さっきのアレ、何?」

「俺の事好きな人が見たら悲しむとか、俺の好きな人に見られたくないとか意味わかんないんだけど」

お弁当を開ける前に、いきなり始まった。

「大体、今まで俺の事好きなヤツって、タケの事邪険にするからキライだって言ってるでしょ?」

「俺の好きな人って誰だか知ってるの?」

何で?何でいきなりキレられちゃうの?

「えっと、優くんの事好きな人がみんなみんな僕に意地悪するわけじゃ無いと思うよ。中には優しい人もいるし、優くんとその人が両思いなら、僕、応援したいんだ。」

「だから、俺の好きな人って誰なんだよ」

「佐藤ちよこさん、、、」

「ちがうっ!」

「え?」

え?違うの?

優くんは、はぁ〜と大きな溜息を吐きながら頭を抱えた。えええ〜?絶対佐藤さんの事好きだと思ったのに〜。

「来て」

優くんは腰を下ろしたまま、足を開いて僕が入る場所を作った。僕はそこに膝を着くように向かい合う。

「違うでしょ」

あ、ん?

「はい、回れ右して」

ああ、後ろ向きって事?

向きを変えてお尻を着いて座った。

優くんがいつもみたいに後ろから抱きついて、肩に顎を乗せる。はぁ〜、と2回目の溜息を吐いて僕の肩に頭をグリグリする。

「なんで佐藤さんなの?」

「だって、この間顔が真っ赤になってたから」

「この間?、、、あ、弁当食べな?時間無くなる」

「あ、はい」

僕はゴソゴソ弁当を開ける。

「唐揚げ頂戴、、、」

「いいよ」

僕は唐揚げをお箸に刺して、身体を捻り優くんの口に入れた。

「俺、いつ赤くなってた?」

「佐藤さんの名前の時」

(名前?、、、あーあれか、、、)

「ちよこがチョコってヤツ?」

「うん」

「あれはくだらない事言って恥ずかしかったからだよ」

「そうなの?」

「じゃあ、両思いってのは佐藤さんの事なの?」

僕は卵焼きを口に入れた後だったから、うんうんと2回うなづいた。

「佐藤さんの好きな人はタケだろ?」

それは違うと思う。あの時、佐藤さんも耳を真っ赤にしていたから。僕はお箸を持った手を顔の前で振り否定した。

「俺にも卵焼き頂戴」

「はい」

2回目のあーんで卵焼きを優くんの口に入れる。

「あの時、佐藤さんも耳が真っ赤になってたから、なんかそうなのかなって」

「俺は、佐藤さんはタケの事が好きだと思う」

「何で?佐藤さんが僕を好きになる理由が無いよ」

「ジュース、上げたろ?。あの時、何と無くタケの事好きなのかな?って思った」

「えぇ〜、それは佐藤さんに悪いよ。佐藤さんの趣味が悪いみたいだよ」

「タケ、自分を卑下しない。それに好きになるって理屈じゃないだろ?」

今日の優くんはよく喋るなぁ。優くんの声、大好きなんだよな。

「タケ?」

「大好き、、、」

「え?」

「あ!えっと、声が!優くんの声だよ!」

「ふ〜ん」

僕が前を向いて俯いたら、優くんはワザと耳元で

「俺の声、好きなんだ」

って囁いた。



***


 タケは耳まで真っ赤にして恥ずかしがった。やっぱり可愛いんだよな。


***


 放課後、珍しく佐藤さんと下駄箱で会った。いつも必ず図書室にいるのに、早く帰る日もあったんだな。なんて考えていたら優くんが佐藤さんに近づいて行った。

「ケガしてる」

ケガ?あ、湿布貼ってる。優くんに話し掛けられて、佐藤さんは一気に顔を真っ赤にした。ほらね、優くんの事、好きだと思う。

「体育の授業で、ちょっとコケちゃって」

「一人で帰れるの?」

「大丈夫、大丈夫。バス停は目の前だし、家も近いので!」

「タケの事好きなの?」

「ぎゃー!」

びっ、、、、くりしたぁ〜、、、

「タケの事好きなんだ」

「違います、違います。お二人の事が好きなんです!」

え?どうゆう事?二人同時に好きになれるの?

「体育の時間に見ててごめんなさい。バックハグしてるお二人を見てからファンなんですぅ〜。決して、恋愛感情では無くて、お二人の愛を応援したいと言うか、推してると言うか。もぅ、恥ずかしいから勘弁して下さいっ」

えええぇ〜、、、。


 それから、佐藤さんの荷物を持って3人でバス停まで行った。佐藤さんもちょっと冷静になり、静かにバスに乗った。佐藤さんは本当に学校の近くに住んでいて、バス停5つ目で降りて行った。何だか、佐藤さんの意外な一面を見られて、、、。びっくりしたな。


更にバス停を4駅進み、電車に乗り換える。バスに比べてまだ空いてるので、二人で座席に座った。一息ついた所で優くんがくすくす笑い出した。

「二人のファンって何?」

僕はふふふと笑う。本当、そんな事あるんだね。

「優くん、今日はよく喋るね」

「ん?」

「普段はあんまり喋らないから」

「タケは俺の事何でもわかるから甘えちゃうんだよ」

「甘えちゃう?」

「んー、、、。色々考えてると疲れて話すの面倒になるんだよね。人に気を使って、話題考えたり顔色伺ってると疲れるじゃん。タケは俺が何も言わなくてもわかってくれるからさ」

「そう、かな?」

「それに、俺もタケの声、好きなんだよね。ずっと聞いていたい」

佐藤さん、今、佐藤さんのぎゃー!の気持ちがわかったよ。僕は今、恥ずかしくてぎゃー!って叫びそうです。僕は見る見るうちに顔が赤くなるのがわかって、恥ずかしくて仕方がなった。悔しいから優くんの耳元で

「僕の声、好きなんだ」

って囁いたら、優くんはバッ!と耳を押さえて真っ赤になった。


***


 くぅ〜!捻挫すると靴拾うの辛いじゃん〜!

やっと脱いだ上履きを下駄箱にしまい、ローファーを履こうとしたら声を掛けられた。

「ケガしてる」

ピクリと身体が反応したと思ったら、一気に顔が赤くなって行くのがわかる。バックハグ覗き見事件の後に、ご本人達に会うの辛い、、、。

「体育の授業で、ちょっとコケちゃって」

「一人で帰れるの?」

「大丈夫、大丈夫。バス停は目の前だし、家も近いので!」

あ〜、早くこの場を離れたい。こーゆう状況を求めてるんじゃ無いんだよ〜。静かにひっそり、草葉の陰から応援したいんだよ〜。

「タケの事好きなの?」

「ぎゃー!」

ななな、何つー恐ろしい事を言うんだ!一気に心臓がバクバクして、血圧上がりまくりだよっ!

「タケの事好きなんだ」

やめてやめて勘弁してっ!本当に無理なんだけどっ!心の中で叫びながら両手を振り完全否定する。

「違います、違います。お二人の事が好きなんです!」

あー、もう自分でも何言ってるのかわからなくなって来たー!

「体育の時間に見ててごめんなさい。バックハグしてるお二人を見てからファンなんですぅ〜。決して、恋愛感情では無くて、お二人の愛を応援したいと言うか、推してると言うか。もぅ、恥ずかしいから勘弁して下さいっ」

あああぁ〜、私の楽しい推し活が本人達にバレた〜!

 たけちゃんは何とも言えない顔をしていた。ゆうくんはさり気なく私の鞄を持ってくれた。

「荷物持つ。それともおんぶがいい?」

ゆうくんめ、ワザとやってるな?いつものポヤポヤした感はどうした?

 意外にも二人が一緒にバスに乗ってくれて助かった。学校の鞄は背骨が曲がる程重いし、バスの段差が思った以上に障害だった。ゆうくんは運転手さんに声を掛けてくれて、バスに乗る時も降りる時も慌てる事無く行動出来た。



***



 僕達はまぁまぁ平和な毎日を送っていた。佐藤さんの捻挫も、思ったより早く腫れが引いて元気にしている。最近では体育の授業前、窓際の僕達を見つけるとニヤリと笑っているのが見える。もう、隠す事無く推し活をするそうだ。推し活って、、、。

 優くんはあの後から、またいつもの無口の優くんに戻った。僕は本当は優くんと沢山お喋りしたいと思っているけど、別にお喋りしなくても一緒にいるだけで安心するからいいかな?

 それにしても今日は喉が痛い。夏風邪っぽい。ちょっと微熱があるかも知れない。優くんも気になるらしくて、今日は早く帰る約束をした。バスに乗り、電車に乗り換える。階段が辛い。

「タケ、大丈夫?」

「大丈夫だよ。ちょっと喉が痛いだけ」

「そっか、俺、飲み物買ってくるから、ゆっくり来て。タケはスポドリでいい?」

「うん、ありがとう」

こんな時の優くんはよく喋り、頼りになる。

 優くんは階段を1段飛ばしで上がって行き、階段上の自販機でジュースを買っていた。僕が最後の一段を登り切ろうとした時、階段を踏み外して転んでしまった。後ろの人もまさか転ぶと思っていなかったらしく、「うわっ!」と言いながら僕を避けた。 喉が痛いだけなのに、思考が定まらずそこから立ち上がれない。優くんが慌てて駆けつけてくれた。

「タケ?」

優くんが首筋を両手で包み込む。冷たくて気持ち良い。

「熱、上がってる。今日お母さん、休み?」

「仕事」

「じゃあ、迎えに来れないね。俺の母さん呼ぶから待ってな」

優くんはぼくの背中をなでながら電話した。

「母さん?俺。タケ、熱出した。迎えに来れる?」

「うん、測って無いからわからないけど、今朝から喉が痛かったみたい」

「取り敢えず、自転車乗れないから迎えに来てくれる?」

「うん、ごめん、頼むね」

「タケ、すぐ迎え来るから頑張れ。取り敢えず、下まで歩こう」

優くんは僕の荷物を持って、ロータリーまで歩いてくれた。


 優くんは車の中でも僕を支えてくれた。マンションの前に着くと

「母さん、荷物持って帰ってくれる?俺、ちょっとタケの家に寄ってから帰る」

「わかった何かあったら、連絡しなさい」

優くん、ごめん、ありがとう。優くんのお母さんもありがとう。


***


 タケの指をそっと掴んだまま、マンションを上がって行く。エレベーターの中で目が合うと、タケは熱があるのにフニャッと笑う。そのまま俺の肩に寄り掛かり体重を掛けて来る。ちょっと辛くなって来たかな?

 タケから鍵を借りて、玄関を開ける。入り口に鞄を置いて、取り敢えずタケの部屋へ行く。


タケは制服を脱ぎはじめた。

「タケ、パジャマは?」

タケはボーっとしながら考えて、バルコニーを指差す。俺はバルコニーに行って、多分これがタケのパジャマだろうと思うのをハンガーごと持って入る。制服のズボンを足に絡ませ、ベッドに倒れ込みながらシャツのボタンを外していた、、、。途中で力尽きたのかな?俺はタケの足からズボンを脱がせて、パジャマのズボンを履かせる。シャツのボタンも後二つ外す所で手が止まっている。そっと手を外しボタンを外してタケを起こす。タケも協力してなんとかパジャマに着替えるとモゾモゾしながら布団に入って行く。眠る前に、もう一度スポドリを飲ませたい。タケが布団から手を出して何か探しているみたいだ。

「スポドリ、飲む?」

と聞くとうなづいた。一度タケの身体を起こして、ペットボトルの蓋を開ける。タケは喉が痛いからか3口位飲んでやめた。俺にペットボトルを渡すと布団に潜り込んだ。

 熱があるから何とかしたいけど、タケに聞くのも悪いし、勝手に家の中を探すのも躊躇ってしまい、俺はちょっと考えた。風呂場に行き、タライを見つけると洗面台の周りを探してフェイスタオルを借りた。タライに水を貼り、こぼさない様に運ぶ。フェイスタオルを一枚敷いてタライを置き、もう一枚を水につけて軽く絞ってタケの額に乗せる。タケは薄目を開けて出ない声で気持ちいいと言った。

 しばらくするとすぅすぅと寝息を立て始めた。やっと眠れた様だ。俺はタケの顔を見ながらこっそりスマホを取り出して、一枚だけ写真を撮った。寝顔のタケなんて貴重な一枚だからな。それからタオルを濯ぎ、冷たくなってからタケの額に乗せた。


***


 健のスマホから連絡が来ていた。出だしが、「筒井優です」から始まっているので何かと思ったら、健が熱を出して寝ているらしい。今から買い物して帰ると10時回っちゃうかしら。マンションだから、鍵をポストに入れて帰ってもらうのも防犯上心配だから、健が起きるまで待ってもらうか、私が帰るまで待ってもらうしかないわね。家に何にも無いからコンビニに寄って買い物して、急いで帰らないと。優くんには何かお礼にスイーツでも買って上げましょう。

 健が寝ているといけないから、玄関をそお〜っと開けて入る。健の部屋を静かに開けると、優くんまで寝ている。久しぶりに優くんに会ったけど、大きくなったなぁ。ふふ、写真撮っちゃおう。

 台所で荷物を片付けていたら、リビングのドアを開けて優くんが入って来た。

「今晩は、今日はありがとね。健、どんな感じかな?」

「まだ、熱があるみたいで」

「そっか、遅くまでありがとう。スイーツ買って来たから食べる?」

「タケが調子悪いから、、、」

ふふ、遠慮してる。

「健、明日は学校お休みだね。優くん、いつもありがとう,明日も夕方様子見に来てくれる?」

優くんはコクンとうなづく。

「じゃあ、スイーツ取って置くから、明日健と一緒に食べてね」

優くんはありがとうございますとお礼を言った、夕方の健の様子を教えてくれてから帰って行った。



 タケのいない学校はつまらない。タケからスマホに連絡も無いし、まだ熱があって寝てるのかもな。起こすといけないから、連絡するのは我慢した。

最後の授業が終わりホームルームまでやってからスマホをチェックした。タケから、熱は大分下がったって連絡が入っていた。俺は、夕方寄るから「何か欲しいものがあったら連絡して」と入れて、急いでバスに乗った。

 電車を降りて、タケの家に1番近いスーパーで買い物をして行く。チャイムを鳴らすとタケの声がして、自動ドアが開く。迷わずにエレベーターに乗り、タケの家に行くとチャイムを鳴らす前にドアが開いた。

「もう来るかと思って」

小さな声で言う。タケは昨日とは違うパジャマを着ていた。リビングに行こうとするので

「タケの部屋でいいよ」

と声を掛けた。

「冷蔵庫にスイーツがあるから一緒に食べよ」

まだ声が掠れているから、喉は痛いんだろう。冷蔵庫から昨日、タケのお母さんが買ってくれたスイーツを出して、俺の買った物を一部冷蔵庫に入れさせてもらった。


 タケの部屋の窓とドア、リビングの窓も開けさせてもらって換気をする。タケと一緒にスイーツを食べながらまったりした。タケはまだ喉が痛いのか全く喋らない。お腹が空いているらしく、ゼリーを一つ食べて今日3回目の薬を飲んだ。


 薬を飲んでから30分位すると、タケは瞼を重そうにしてユラユラし始めた。薬が効いて眠くなったのか?そう言えば熱測らなかったな。その内、布団の中に入り込み丸くなっていった。いつまでも見ていられるな。何て考えながら、昨日鍵が掛けられなくて帰れなかったのを思い出す。

「タケ、寝ちゃうなら帰るから鍵掛けて」

タケは布団から顔を出すと、ボーッとしながら俺の顔を見る。そして、片手を出してチョイチョイと手招きする。喉が痛いから声が出ないんだろう。俺はタケの近くに耳を寄せた。

タケはそのまま両腕を首に回して、ぶら下がる様に抱きついた。え?どーゆう事?

「タケ?」

「眠くて立てない」

喉が痛くならない様に囁く様に言う。

タケ〜!俺はタケが病人なのを忘れた事にして、思いっきり抱きしめて匂いを嗅いだ。


 タケには悪い事をしたと思いつつ、玄関まで見送って貰って、鍵の掛かる音を確認してから家に帰った。明日は学校で会えるといいな。



***


 風邪は数日で良くなった。今日は久しぶりに優くんと放課後出掛ける約束をしたんだ。カフェの新作を飲みに行く予定。学校を出る前にトイレに寄りたくて、優くんに待って貰った。手を洗っていると外から「佐藤っ!」って優くんの声がした。手を拭きながら出て行くと、二人は頭をくっ付けて、キャッキャうふふと盛り上がっている。何を見てるんだろう。僕も横から覗いたら、僕の寝顔写真だった。???いつの間に?

「やべっ!」

しかも、布団に入ってるやつなんですけど、、、。

「筒井"先ぱ〜い"。その写真下さいよ〜!」

「連絡先、連絡先交換しましょう!そしてその写真送って下さい!」

「いやだ、自慢しただけ。上げないよ」

「ねぇ〜いいじゃないですか〜」

優くんはちよこちゃんに纏わりつかれて嬉しそうだ。それにしても、僕の写真なんてそんなに欲しいかな。そうだ、

「佐藤さん、こっちの写真あげようか?」

そう言って、お母さんから貰った優くんの寝顔写真を見せた。

「ぎゃー!こっちも下さい!」

「タケっ?!」

優くんは僕が優くんの寝顔写真を持っている事を知らなかった。だから、恥ずかしさで顔を真っ赤にして僕からスマホを取り上げようとした。でも削除したら絶交するからね。


佐藤千代子ちゃんは、二人と同じ学年なのですが、ちょっとわかり辛い表現になってしまいました。

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