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第九話 白い世界

容赦なく降り続ける雨が城の屋根に落ち、やかましく音を奏でている。

部屋に響くその音はただの雑音にすぎない。

その雑音に新たな音が加わった。

白い螺旋階段を踏む甲高い金属音だ。

階段の隙間から白い足が見える。

透き通るような白さで三人は美しいと思った。

オガラは思わず呟いてしまう。


「美しい……」


階段を降りて来たのは見た目は十代後半の女性、透き通るような白い肌を持ち、長い金色の髪が印象的だった。

気品を漂わせ美人とはこの事かと思わせる。


「セシリア、御苦労さまね。もう休んでていいわよ」


女はにっこり笑ってセシリアに言った。

セシリアは少し満足げな顔をして奥の部屋の一室に入って行く。

それを確認すると女はブレイクたちの方を向いて話し始めた。


「ようこそ『夢の国』へ旅人さん」

「歓迎ありがとうございます」


ブレイクが目を離さずにお礼を述べる。

表情は変えず女を観察するかのように見ていた。

女はそれを気にすることなく話を続ける。


「実は昼間、見張りから旅人が三人山道を歩いていると報告があり、旅のお話を聞きたくセシリアに迎えに行かせましたの」

「そうですか。ところで貴女の名前は」


女が忘れていましたわと少し微笑んで言った。


「私の名前はエリア―ヌ。実はこの国のお姫様なの」

「俺の名前はブレイクでこっちがピーチとオガラです」


エリア―ヌは気品ある笑みで三人を見ると名前を確認した。


「ところで姫は旅の話が聞きたいようですが今日は疲れているので明日でもいいですか?」

「是非そうしてください。明日はあなたたちを歓迎して国を上げて晩餐会を開く予定でしたから。 今日はこの城で旅の疲れを癒してください。部屋は執事のロブルに案内させます」

「ありがとうございます。明日楽しみにしてます」


ブレイクはサッと立ち上がり執事の後についていく。

それに続きピーチが、少し遅れてオガラも席をはずれた。

二階のお客様用の部屋に案内された。

中は広く花柄の絨毯に壁紙と花柄で統一された部屋だった。

ベッドは四つあり、残った一つにそれぞれの荷物をぶっきらぼうに置く。


「ねえ、なんか冷たくないかな二人とも」


オガラが何気なく訊ねる。

その質問にブレイクとオガラは顔を合わせため息をついた。


「お前気付かなかったのか? この国のおかしさに」

「おかしさ? どこが?」

「住人の目だよ。皆言葉には歓迎の意が込められていたが目は死んでいた。何かに吸い取られたように生気も薄かった」


オガラは確かにと納得したかのように頷く。


「でもセシリアは死んだ目をしていなかった」

「それは分からないがあの美人姫もおかしかった」


ピーチが相槌を打つように言う。


「確かにね~気品のある美人さんだったけど雰囲気がな~なんか怪しい」

「ああ、まるで人の皮を被った悪魔みたいな。わずかだが殺気が漏れていた」

「そうなの?」


オガラが驚いて聞く。

もしエリアーヌが悪魔だとしたら恐ろしい。

どんな能力を使いどのように命を狙われるかわからない。

ブレイクが口を少し上に上げて答えた。


「ああ。何かあるなこの国は。どんな夢を見せてくれるか楽しみだぜ」

「同感~そしておやすみ~」


ピーチはベッドに潜り込みすぐに寝息を立てて寝てしまった。

その様子にブレイクとオガラもベッドに入る。

薄れてゆく意識の中でオガラは思った。

ブレイクとピーチの観察力は恐ろしいと。




そこはとても白かった。

見渡すかぎり白の続く世界。

他の色の存在を決して許さない、本当に何もない所だった。

そんな世界のどこかも分からない場所にブレイクはいた。

いつ入ったかも覚えていない。

ただ何もないのに何故か居心地がいいとブレイクは感じた。

どこか落ち着くのだ。

まるで故郷の丘の上のように。


「どこなんだここ……」


思わず呟く。

だが誰もいないようで答えてくれる者はいなかった。

ブレイクは何もない世界で身の回りの状況を確認した。

服はいつもの旅用の身軽な服とパンツ。

腰のベルトにはシビアから貰った剣が大切そうに差してあった。

いつもと変わらない自分。

だがこの世界のことは全く覚えていない。

考えても何も分からなかったのでブレイクはその場で横になって目を閉じる。

目を閉じると世界は暗くなったが外の明るさが中まで伝わってきた。


「先生、今頃どうしてるんだろうな。いつか会えるのかなあ」


ブレイクは何気なく呟く。

すると何もない世界から一つの足音が聞こえた。

ピーチかオガラが来たのだろうと思い立ち上がる。

長く目を閉じていたため少しぼんやりして見える。

だがその姿はピーチでもオガラでもなかった。

その姿は今でも覚えている。

少し筋肉の付いた整った体に精悍な顔、そして圧倒されてしまうような威圧感。

ブレイクが見たのは紛れもなくシビアだった。

シビアはゆっくりと近づいてきた。

そしてブレイクの前で立ち止まった。

口を動かし何か言っているがよく聞こえない。

ブレイクも感激のあまり口が上手く開かなかった。

シビアは何か伝えようとしている。


「えっ!?」

「起きろおおおおおおおおお!」


あまりの大声にブレイクは驚いた。

気付くと世界は花柄の模様で飾られた城の部屋の中だった。

ピーチとオガラが両脇で息を切らしている。


「おはよう二人とも。何してんだ?」

「何ってブレイクを起こしてたんだよ~」


どうやらなかなか起きないブレイクを起こそうとして声を出していたらしい。

二人とも息を切らしうなだれるように壁にもたれかかる。


「それより変な夢見たんだよなあ」

「夢? 僕も見たな。白い世界にいたんだ」

「僕も白い世界にいたよ」


どうやら三人とも同じ夢を見ていたらしい。

内容は少し違えど白い世界に共通していたことがブレイクには気になって仕方なかった。


「それに先生の言葉。あれはどういうことだ」


夢が覚める前シビアがブレイクに言った言葉。

それをブレイクはずっと考え続けた。

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