第八話 夢の国の少女
空には黒い雲が青い空を隠し、雨を降らせていた。
道の脇に規則的に並んでいる木々の木の葉を雨粒が襲う。
初めの風流な優しい音から一転、今はただ辺り一面に五月蝿い雑音を広げている。
その雑音と冷たさが旅人の体力をいやらしく奪ってゆく。
疲れた旅人の一行は見つけた小さな洞穴で小休憩をすることにした。
中に入り荷物袋から水と大きな箱を取り出す。
それをそれぞれに回し口にする。
「ビショビショだよ。 ブレイク……なんでもっと早めに出なかったの?」
男の声だ。
その姿は整った顔立ちをしていたが左目に眼帯をしていた。
男の声は明るかったが少し怒っているようだった。
「しょうがないだろ。 町長さんがきび団子作るから待っててくれって言うんだから」
ブレイクと呼ばれた男が答える。
少しため息混じりに質問した男を見つめる。
「まあまあ、いいでしょ。 きび団子は美味しいんだから。 もしかしてピーチは嫌いだった?」
前の二人とは違う男の声だ。
とても落ち着いた声で、こちらも綺麗な顔立ちをしている。
ピーチと呼ばれた少年が少し不機嫌そうに答える。
「そういう問題じゃないでしょ……。 つかオガラ食べすぎだよ~」
オガラと呼ばれた少年は黙々ときび団子を食べている。
その顔は実に幸せに満ちている。
三人はきび団子を頬張りながら、止みそうにない雨を眺める。
しばらく待っても止まなかったので三人は今夜をこの洞穴で過ごすことを覚悟した。
寝袋を敷き何時でも寝れるように準備する。
もう辺りも暗くなり始めたころ、何気なく外を見ていると一つの明かりが見えた。
それと同時に一人の少女が顔を出す。
綺麗に伸ばした蒼い髪を持った少女だ。
少女は少し微笑んでこんばんはと言ってきた。
三人も挨拶を返し、どこから来たのと訊ねる。
少女は微笑んだまま、近くの国からと答える。
その言葉に三人は手を取り合い喜ぶ。
近くの国、それはブレイクたちが目指している国で古い書物にはこう書かれていた。
『夢の国』と。
ブレイクたちは寝袋を畳み荷物をまとめて外に出る。
外はまだ雨が降っていた。
ブレイクたちは少女に案内を頼み『夢の国』へと向かった。
それが大きな事件に巻き込まれることになるとは知らずに。
しばらく歩くと漆黒の闇の中にそびえ立つ大きな外壁が見えた。
大きな城門があり門番が二人立っていた。
ブレイクたちは軽く挨拶をして入国の為のパスカードを出す。
「パスカードですか? いりませんよ。 さあどうぞ中へ」
門番が城門を開ける。
パスカードが何故いらないのか理解できなかったがひとまず入国することにした。
すると中には雨だというのに、たくさんの人がいてブレイクたちを出迎えている。
そこにいた人全てがようこそよく来てくれたと言って歓迎してくれていた。
「すごいねブレイク。 僕たちこんなに歓迎されて」
「そうだな」
「…………」
オガラは嬉しそうにしていたがブレイクとピーチは驚いているのか少し黙っていた。
その後少女の案内で城へと向かう。
門から一直線に十数分歩くと城に着いた。
暗闇でよく分からなかったが城と言っても然程大きいものではないように感じた。
中に入り水滴を掃う。
城の中は広く赤い薔薇の絨毯と白い大きな螺旋階段が印象的だった。
「大きい城だね。 なんかワクワクするよ」
「そうだな、思ったよりも広い」
オガラが少し興奮気味に言う。
ピーチは何か警戒しているようで黙っている。
奥から長身の老人が出て来た。
どうやら執事らしいが今にも倒れそうなくらい細くて顔色もあまりよくなかった。
執事はブレイクたちが少女に連れて来られた旅人だと知ると、上にいる主人に知れせるため螺旋階段を急ぎ足で上がって行く。
執事がいなくなるとしばらく沈黙が続いた。
その沈黙の中でブレイクはあることに気付く。
そう、少女の名前をまだ聞いていないということに。
ブレイクは少し勇気を持って訊ねる。
異性に質問するのは少し恥ずかしいらしい。
「ねえ君、名前は?」
「えっ私? 私の名前はセシリア・フェレール。セシリアでいいわ。あなたたちは?」
「俺はブレイク。ブレイク・オドランだ」
「フェイト・M・ピーチ。ピーチでいいよ~」
「僕はオガラ・ザード。オガラって呼んで」
それぞれ簡単な自己紹介を済ませ、主人を待った。
時間にしてみればそんなに経っていないのだが、未だに降っている雨の音がより長く時を感じさせる。




