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第七話 喜びの歌

ここはオーガタウンの中心の広場。

大きな噴水が中心にあり、その噴水から噴き出す水がとても美しかった。

その噴水を囲むように人々が集まっている。

昼間だと言うのに酒を呑み、料理を奪い合う様に乱暴に食べ笑い合っている。

人々の顔は赤くひどく酔っていたが今日はそれが許された。

そう、今日は町にとって嬉しい記念日になったのだから。

ブレイクもピーチも笑ってこの宴を楽しんでいる。

そしてオガラも笑っていた。


「ははは、楽しいねブレイク」


ピーチが満面の笑みで尋ねる。

ブレイクはただ頷くだけだった。

顔がとても赤い。


「あれ~ブレイク酔ってるの?」

「う、うるせえ……」


ブレイクは酒に弱いようでかなり酔っていた。

ちなみにこの世界では十五歳で成人とされるので飲酒は違法ではない。

その真っ赤になった顔を見てピーチが爆笑している。


「情けないな~僕だったら絶対に酔っぱらうことなんかないのに」

「そりゃあねえな」

「なんでだよ~」

「酒は酔うためにできてんだぜ。やべえもう駄目だ頭が痛い」


ブレイクはその場に横になり始めた。

その瞬間ピーチがブレイクの頬を叩く。


「痛ってえええ! 何すんだよ?」

「こんなとこで寝るなよ汚いから。寝るなら宿に戻りなよ」


正直汚かろうがどうでもよかったが、無視してまた寝ようとするとピーチがうるさそうなのでブレイクは宿に戻ることにした。

足元がフラフラになりながらもブレイクは宿に着いた。

二階に上がり自分の部屋に入る。

部屋に入り机の上の水筒の水を飲み少し落ち着かせた。

そのまま窓に寄りかかり外を見る。

外を見るとピーチとオガラが町の人たちと踊って歌っている。

その歌は宿にまで聞こえてきた。

声は明るく陽気で人々の喜びを表しているかのようだった。

だがブレイクはこの歌を知らなかった。

宿に戻る前に町の人に何という歌ですかと尋ねたら町の人は笑って答えた。

『喜びの歌』と。


「いい歌だなあ……それにしても」


ブレイクはこの喜びの歌を聴きながら思い出した。

昨日のことを。


一日前、つまりブレイクとオガラが洞窟を出ようとした時のことだ。

ブレイクはオガラが無事だったことに安心したのか鬼たちを任せたピーチのことを忘れていた。


「いやあ無事でよかったよ。ホントにお前死んでなくて良かったな」

「そうだね僕も少し驚いた……あれ? そういえば」


オガラは立ち止り深刻な顔をする。

ブレイクがどうしたんだと顔をのぞく。

そのまま俯きながらオガラは言った。


「ブレイクの連れの子、死んでるかも……」


その言葉にブレイクはやっと思い出したようで深刻な顔になる。

そしていつでも剣を抜けるように鞘に手を当てたまま走り出した。


「オガラあの鬼強いのか?」

「力だけなら僕よりは上だよ」


その言葉にブレイクは一段と速く走る。

ピーチが強いことは分かっていたが一人で鬼三体は厳しい。

下手したら死んでいるかもしれないと心配になった。

洞窟内はそんなに距離はないのですぐに入口に着いた。


「ピーチ!!」


ブレイクが叫びその声が響く。

だが返事はない。

それどころか目の前の光景に二人は言葉が出なかった。

鬼たちがその巨体を見事にバラバラに切断され静かに倒れている。

その鬼たちの血の匂いが充満している。

鼻がへし曲がるような匂いだ。

周りを見ると壁にピーチがもたれ掛かっていた。

ブレイクとオガラは鬼たちの腕や足を上り下りしながらピーチの元に駆け寄る。

返り血を大量に浴びその匂いが染みついていたが、怪我と言う怪我は打撲ぐらいで気を失っている。

ブレイクが頬をぺシぺシと叩く。


「おい! ピーチ、しっかりしろ」


その言葉と頬に当たるブレイクの手でピーチは起きた。


「あ、あれブレイク? もう終わったの?」

「ああ、終わった。それよりお前これ一人でやったのか?」

「うん、ちょっと本気を出しすぎたかな。疲れたよ」


そう言ってピーチはブレイクの腕の中に沈んで行った。

ピーチは相当疲れたようで安らかな寝息を立てて眠っている。

その様子に少し安心したのかブレイクはピーチを背負い洞窟を出た。


「その子強いね。鬼たちを一人で倒しちゃうなんて」

「そうだな……それよりお前よかったのか」


ブレイクがオガラの顔を覗き込む。

オガラは表情を変えず答えた。


「いいよ、あいつらは町の人たちを苦しめ僕を苦しめたから」

「そうか……」


しばらく無言のまま山を降りた。

町に着き依頼の完了を町長に伝えるため町長の家に向かう。

相変わらず町は静かで人がいるかどうかも分からなかった。

ブレイクはピーチを背負いながら、オガラとは何も話さないまま町長の家に着いた。

ドアをノックして町長が出てくるのを待つ。

ふと横を見るとオガラが少し震えている。

しばらくすると町長が出て来た。

オガラはブレイクの後ろに隠れる。


「町長さん、依頼完了です。鬼を退治してきました」

「おおご苦労だったな。報酬の十万Sだ」


町長が金の入った袋を渡す。

中には札束が入っておりブレイクはそれを確認して、ありがとうございますとお礼を述べた。


「背中に背負っている連れの方凄く血まみれだが大丈夫か?」

「ええ、大丈夫です。これは返り血ですから。ではこれで」


そう言いブレイクは少し大げさに振りかえり帰ろうとした。

するとそれまでブレイクに隠れていたオガラが現れる。

オガラはまた隠れようとするがブレイクはそれを許さなかった。

ブレイクは隠れようとしたオガラを軽く蹴飛ばし町長の前に出す。


「町長、こいつが主犯の少年です。ですが彼は改心しました罪を認めどんな罰をも受けるでしょう」

「…………」

「町長……?」


町長は黙ってオガラを見ている。

それはどこか見覚えがある、いや覚えているのだが自信が持てないといった顔だった。

しばらく見つめた後町長は恐る恐るオガラに尋ねる。


「君、名前は?」


オガラは少し震えた声で答える。


「お、オガラ・ザード……です」


その言葉を聞いた時町長の顔は驚きの顔へと変わった。

そしてすぐに笑みをこぼした。


「オガラなんだな、本当に……」

「…………」


オガラは返事はしなかったが頷いてその問いに答える。

町長はそれを見て中に上がるようにと言った。

三人は家の中へと入って行った。

家の中に入るとブレイクは血を流すためにシャワーを借りることにした。

同時にピーチの血も洗い流しベッドを貸してもらい横にした。

その後ブレイクとオガラはリビングのソファーに腰掛け町長を待った。

数分すると町長がお盆に紅茶を乗せて来た。

二人とも温かい紅茶を少しすする。


「もう一度確認するが本当にオガラなんだな」


町長が真剣な顔でオガラを見つめる。

オガラははいとだけ答えた。


「そうか……良かった」

「良かった?」


ブレイクが町長の発言に怪訝そうな顔をして聞き返す。


「彼はこの町を襲った犯人ですよ」

「分かってる。俺の妻も殺された」


深刻な顔をして町長は答える。

だがすぐに微笑んでオガラに言った。


「でも妻が死に際に言ったんだ。私たちがいけなかった、オガラを認められなかった私たちがいけなかった。だから彼が戻ってきたら許してあげてと」


それから一呼吸置き言う。


「だが君のしたことは決して許されることではない。しかし我々町民も君に許しがたいことをしてしまった。 だからこれでおあいこだ」

「町の人は?」

「みんな理解してくれた。オガラ、本当にすまなかった許してくれ」


町長は床に座り頭を下げている。

その様子にオガラは歯を食いしばり必死に涙を堪えている。

ブレイクがオガラの肩を軽く叩く。

オガラは少し震えながら頷いた。

そして床に座り頭を床に擦りつけて謝る。

声を震わせながら。


「ごめんなさい……ごめんなさい。ごべんなざい、ごべん……」


オガラはひたすら謝り続けた。

何十分も謝り続けた。

声が枯れるまで。

まるで自分が今まで殺めてきた人の数だけ謝っているようだった。

その日、つまり昨日はそれで一日を終えて町長の家に泊まった。


朝、まだ日も昇らない内にブレイクは起きた。

横を見るとオガラはいなかった。

その代わりに一枚の紙が置いてあった。

ブレイクは少し心配になりながら見る。

そこにはお墓参りに行ってきますとだけ書いてあった。

ブレイクは安心したのか胸を撫で下ろす。

そしてお気に入りの白いコートを羽織り部屋を出る。

一階に降りると町長がもう起きていた。

その他に町の人が数人いる。


「おはようございます」

「おはようブレイク君。よく眠れたかい? こっちは町の奴らだ」

「奴らって何ですか町長?」

「悪い悪い。それより準備の方しっかり頼むぞ」

「分かってますよ」


町の人たちはそう言って出て行った。


「何の準備ですか? と言うより初めて町の人を見ました」

「はは、そうだな。皆怖がっていたからな。準備はオガラの無事と町の平和に祝杯を上げるためさ」

「それはあいつも喜びますね。ところでお墓はどこにありますか?」

「お墓はこの家を東に歩いていくとあるが、なんでだ?」

「オガラが墓参りに行ってるんで」


ブレイクは微笑んでそう言い残し外に出る。

すると町の外には活気が溢れていた。

最初はまるでなかったのに今はたくさんの人が外に出て宴の準備をしている。

ブレイクは少し笑みを浮かべて墓場に向かった。

しばらく歩くと墓場に着いた。

そこには大きな白い慰霊碑があった。

その前に一人の人間の後ろ姿があった。

ブレイクはスタスタと歩き、その人間の側に寄る。

だが声は決して掛けない。

その人間は手を合わせ目を瞑り頭を少し下げている。

しばらくそのまま時が過ぎた。


「僕、昨日町長さんから話を聞いて初めて自分のしたことを振り返ったんだ。決して許されるものじゃないということが分かったんだ」


その人間は目を閉じて手を合わせたまま言った。

そして続けて言う。


「でもね僕嬉しかったんだ。僕のことを人と認めてくれて、怒ってくれて」


その人間は嬉しそうだった。

表情は分からなかったが声色で察知できた。

しばらく沈黙してからブレイクが語りかける。


「だったらお前は生き続けなくちゃな。自分を人と認めてくれた町の人の為にも……そして何よりお前が殺してきた人たちの為にな、オガラ」


オガラと呼ばれた一人の人間はようやく目を開けて立ち上がる。

振り向いてオガラを見つめる。

その目は強い信念を帯びていて少しだけ顔を出した太陽の光で輝いて見えた。


「そうだね僕は生き続けることで自分の犯した過ちを償って行くよ」

「じゃあ戻ろうか。町の人がお前のことを待ってるぞ。今日は宴なんだとさ。お前とこの町を祝って」

「うん戻ろう皆の所へ」


それから二人は町に戻り、起きていたピーチに事情を説明し宴は始まった。



ここはオーガタウンの中心の広場。

大きな噴水が中心にあり、その噴水から噴き出す水がとても美しかった。

その噴水を囲むように人々が集まっている。

昼間だと言うのに酒を呑み、料理を奪い合う様に乱暴に食べ、笑い合っている。

人々の顔は赤くひどく酔っていたが今日はそれが許された。

今日は町にとって嬉しい記念日になったのだから。

そう、町の平和と一人の人間の記念日だ。

宴は夜になっても終わらなかった。

人々は肩を組み合い踊り、歌っている。


『喜びの歌』を。


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