第十話 最後の晩餐会
その日の午前中は夢の白い世界のことを考え続けて時間が過ぎていった。だが答えは見つかりそうもなく、暇になったので国中を見て回ることにした。
城を出ていこうとする三人に執事のロブルが慌てて、どこにお行きになるのですかと訊ねる。ブレイクは見向きもせずに散歩とだけ答えた。
外に出ると太陽が眩しかった。昨日まで雨を降らしていた雲は消え、空には白い雲が少し浮いているだけだ。
後ろを振り向くと城の全容が見えた。昨日は暗闇でよく分からなかったが、感じたよりは大きい城である。青味を帯びた灰色のレンガが規則的に積み上げられており、歴史を感じさせる。
「やっぱり大きいね」
「……ああ、そうだな」
ブレイクは昨日から少し機嫌が悪い。それほどこの国に何かあるのだろう。
三人は町並みを歩き出す。町には人が溢れかえるほどいたが活気があるとは言えなかった。
目はやはり死んでいた。
「ホントだ……目が死んでる」
オガラが驚いたように言う。
「言った通りだろ……オガラも観察力をつけた方がいいな」
ブレイクがおちょくるように言った。それにオガラは少し頬を膨らませて怒ったような仕草をしたが、すぐに笑顔になりそうだねと答えた。
しばらく歩くといつの間にか森に入っていた。木には烏が密集してとまっており、緑色ではなく漆黒の闇と化している。
三人は辺りを見回す。そしてある光景に目を疑う。
「何なんだろうねこの光景は」
「何かと言われたら人の皮の山」
「人の着ぐるみ……かな」
そう、目の前には筋肉も骨もない人の皮だけが積まれていた。数にして数百人くらい。目立った外傷はなく内部だけ吸い取られたようである。だがこの世にそんな現象はない。ましてや人の所業ではないはずだ。
ふとある考えがが三人の脳裏をよぎった。この人では有り得ない所業、しかし悪魔ならできるのではないかと。
悪魔だとしたら厄介だし人の皮だけを吸い取るというのはどういうことなのだろうか。
だがこの国に悪魔らしい人などはいなかった。死人らしいき人ばかりいるが。そもそもいたならすぐに襲ってくるはずだ。
「一体どこにいるんだろうね」
オガラがため息混じりに言う。ピーチもお手上げだと言わんばかりに両手を軽く上げる。
そのとき不意にブレイクが何気ない顔で言った。
「悪魔はエリアーヌ姫だな」
「えっ!? 何で?」
「だって一人だけ目が死んでないだろ」
「でも執事のロブルだって、それにセシリアも」
「それは分からないけどグルかもな」
オガラは信じたくないというような顔をしていた。
「まあ今日の晩餐会でわかるんじゃない?」
「そうだな、そろそろ本当に暗くなるから城に戻ろう」
ブレイクとピーチが来た道を戻る。少し遅れてオガラも歩き出す。
木の上の烏が不敵に鳴きながら、漆黒の羽を羽ばたかせ空に広がった。空は一面闇に染められる。その光景は素直に不気味だ。
烏たちの鳴き声はまるでこれからの闇を喜ぶかのように少し明るい。
城に戻ると松明の火と人の多さに驚いた。人と言っても目はほとんど死人のようだ。
執事のロブルが忙しなく走って来てすぐにブレイクたちを晩餐会の席に案内した。そのあまりの忙しなさに古びた老眼鏡が落ちそうである。
人ごみを素早く移動すると料理が山のように並べられた広間に出た。その奥に豪華に宝石で飾られた椅子に座ったエリアーヌ姫がいる。薄い青のドレスに黄金のティアラで身を着飾っているその姿はやはり美しい。
「遅れてしまって申し訳ありません」
「いいのですよ。私はあなたがちゃんと来てくれただけで嬉しいですから」
口元に細く白い手をお気クスクスと笑っている。
オガラはその表情からはやはり悪魔じゃないと思った。
エリアーヌが用意された椅子に座るように手を差し出す。ブレイクは表情を変えず、ピーチはどこか楽しげに座った。続いてオガラも少し不機嫌そうに座った。
「さあ宴を始めましょう。 ロブル、皆様に飲み物を」
ロブルがあたふたと指示された通り飲み物をグラスに注ぐ。
「では、乾杯ですわ」
四人はそれぞれグラスを持ち乾杯をした。そして一気に飲み干す。
「おいしかったですよ」
「そうですか。ではあなたたちの旅のお話を聞きたいですわ」
「いいですがそれは後に取っておきましょう」
「なぜ?」
エリア―ヌは笑んだ表情のまま訊ねる。
それが癇に障ったのかブレイクは目を細めエリアーヌを睨む。
「分かっているくせに訊かないでください。それよりあなたは何者ですか? この国は一体どうなっているんですか?」
エリアーヌは表情を変えないまま答えた。
「それも後に取っておきましょうか」
「そうですね。でも口がきけなくなっても知りませんよ」
「その時はあきらめてください」
「分かりました……じゃあまた後で……」
三人はほぼ同時に意識を失った。ロブルが肩を揺すり確認する。
「眠りました、姫」
「そうですか。最後の晩餐会ぐらい楽しめば良かったのに」
エリア―ヌは優しい笑みでブレイクたちを見下ろし呟く。だがその笑みはすぐに邪悪な笑みへと変わった。美しい白い肌は焼け爛れたように黒くなり、愛嬌のある顔からは邪悪な悪魔が顔を覗かせている
「ようこそ夢の世界へ、いや骸の世界へ」




