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甘じょっぱい話〜砂糖と塩の美味しい物語〜  作者: 地野千塩


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出来損ないのケーキ

「涼木美麗です……」


 そう、自己紹介した瞬間だった。


 ぷっ、くすくす。


 笑いが起きていた。


「へー、名前だけは可愛い系だね?」


 この中で一番、見た目が良い男が言う。顔立ちは整っているが、性格の悪さが滲み出ている。子供の頃は絶対いじめっ子だったと思う。


 今日は友達に誘われて合コンに来ていた。普段、大学の勉強に明け暮れている美麗にとっては、オシャレなフランス料理を出す店は初めてだった。カジュアルな雰囲気で値段は安いが、美麗はすっかり気後れしていた。


 まるで魔法をかけ忘れたシンデレラ。灰被ったまま来てしまったようだ。ダサい長めのロングスカートにペラペラの薄い生地のブラウス。化粧もろくにしていない。やっぱり、来るんじゃなかった。友達は「いつも通りの格好で来て」と言っていたが、騙されたのだろうか。


「ちょっと、野田さん。美麗ちゃんをいじめないでくださいよー。美麗ちゃんは、可愛いですよ〜」


 隣に座る友達が、いつもより高い声で言っていた。


「はは、だよな。千佳ちゃんは、優しくていい子だね」


 なぜか話題が、友達が中心になり、男たちは彼女をチヤホヤし始めた。


 出汁にされた。そう思う。


 友達の千佳は、派手な見た目の美人だが、妙に狡賢く、授業もサボっているにに単位も全く落としていない。見た目も可愛いので、頼まれると断れないような、魔力があるというか小悪魔っぽい子だ。


 そんな千佳の隣に座る美麗は、完全に引き立て役だった。スイカにかけた塩が頭に浮かぶ。甘さを引き立てる塩分にでもなった気分。


 塩分だけだったら、まだ良いが、ここにいる男たちにとっては、出来損ないの女に見えるのだろう。自分でも、どう考えても千佳の方が可愛いと思う。


 卑屈な思考が頭を巡ってきた。シンデレラは魔法で美しくなれたが、実際は、そんな運の良い事はなく、同性からは引き立て役、異性からは出来損ない扱い。


「はぁ」


 美麗はため息をつき、目の前の肉料理を食べた。柔らかなジューシーな肉を食べていると、少しは慰められる。


 ふと、男たちの中でも千佳をチヤホヤせず、料理にがっついている人がいるのに気づいた。


 小太りで、カワウソのような顔の男だった。服はチェックシャツにジーパン。髪もセットせず、寝癖までついている。垢抜けてはいない。この男も引き立て役に呼ばれたのだろうか。


 確か高橋優という名前だった。こちらは美麗のように名前負け感はあんまりない。イケメンではないが、優しそうではある。美麗が皆からスルーされているのに気づくと、声をかけてきた。


 優は、この店の料理がいかに美味しいか力説していた。食べる事が好きなんだそうだ。


「うまい飯食えるっていうから来たのに、合コンかよ。最悪〜」


 そう言いつつ、優はご機嫌で肉を食べていた。千佳達は美麗や優を無視して盛り上がっていたので、なんだか二人きりで会話してしまっていた。向こうはお酒も飲み始め、完全にいる世界が分かれてしまった模様。


「そうだ、デザートにはガトー・マンケがいいぞ」


 あらかた料理を食べ尽くすと、優はケーキを注文していた。


 まんまるなケーキだ。上には粉砂糖がかかり、ふわっとした茶色い生地が特徴的だろうか。美麗も切り分けてもらって食べてみた。


「美味しい」


 中はしっとりと濃厚だった。それなのに、下品な甘みはなく、いくらでも食べられそうだ。


 ガトー・カマンケ。


 こんなケーキは初めて食べたが、美味しい。この甘みは、肉以上に慰められる思いだ。


「このケーキは、出来損ないのケーキって言われてる」

「え? 信じられない」


 優はそう言っていたが、どこからどう見ても完璧だったが。優によるちガトー・カマンケは失敗から生まれたケーキらしい。料理人がメレンゲにうっかり油を入れて失敗した。しかし、そのままにはせず、生地にも油分を入れて出来上がったのが、このガトー・カマンケ。


 お菓子は失敗から生まれたものも多いという。タルト・タタン、クイニー・アマン、チョコチップクッキー、アイスキャンディ。


 優からその起源を聞いていたら、なんだか腹が減ってきた。ガトー・カマンケも食べ尽くしたばっかりなのに。


「俺、タルト・タタンの美味い店知ってるぞ」

「えー、行きたい!」

「よし、今度食べ歩きしよう!」


 合コンは失敗してしまったようだが、友達はできたみたいだ。優に教えてもらった店はどこも美味しく、SNSやガイドブックにも載っていない所ばかりで楽しかった。ただ、体重はニキロ太り、シンデレラどころか、逆に芋臭くなってしまった。


 合コンでは引き立て役の塩みたいだったが、今は砂糖まみれだ。


 まあ、これはこれで良い結末だろう。ガラスの靴を持った王子様と結婚するだけが幸せでもないのだ。

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