表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
甘じょっぱい話〜砂糖と塩の美味しい物語〜  作者: 地野千塩


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/23

メロンに生ハムを乗せる理由

 糟糠の妻。


 今の私は、陰でそう言われているらしい。長年、支えてきた夫が事業で成功し、年収も桁が違っていった。


 私もパートで働いているが、近所の人からは「羨ましいわぁ」「勝ち組」などと言われるようになった。一方で「糟糠の妻」と悪口を言われているのを知っている。夫は成功した途端、女遊びをやりまくり、私は嘲笑されていた。


 それでも離婚する気は全くない。意外な事に夫もそう。子供もいるのが一番の理由だが、めんどくさいのだ。五十過ぎになって人生を変えるエネルギーはさほど残っていない。夫の女遊びを容認し、嘲笑をスルーするのが、夫婦の妥協点となっていた。


 そんな生活はぬるま湯に浸かっているみたいだった。生活の不安もなく、恵まれている方だが、大きな刺激もなく、毎日退屈だった。一般的に幸せになれば良いと思っていたが、実際はそうでもない。


 オシャレや娯楽もだいたいやり尽くした。子供も高校生だし、もう子育てには手がかかっていない。家も車も夫が得たもので、何の有り難みも持てない。


 毎日、退屈な時間を塗りつぶしていた。


 満たされない。


 心地良いぬるま湯にいるのに全く満たされない。この時、夫が女遊びをしている理由が理解できた。それぐらいやっていないと退屈で死にそうなのだろう。


 自分も不倫でもやってみようかと思うが、そんな勇気もないのだ。せいぜい不倫ドラマを見て擬似体験するしかできない。


 そんな時、家にメロンが届いた。夫の親戚からの贈り物だった。そういえば毎年メロンを貰っていた事を思い出す。


 子供の頃は、メロンはご馳走だった。特別な日にしか食べられないものだったが、今は、全く嬉しくない。甘い味も想像がつく。この歳になると世にある食べ物はだいたい食べ尽くし、新鮮味がない。


 メロンを包丁で切り分ける。綺麗なグリーン色のメロンだ。蜜がジュワジュワと溢れる。種を綺麗に取り除いてみたが、あまり食べたくはない。


 そういえば。


 メロンに生ハムを載せる食べ方があった。そんな食べ方も別に珍しくはないが、夫はこの食べ方を嫌っていたのを思い出した。「甘いメロンとしょっぱい生ハムを合わせるとか意味がわからない」と怒っていたっけ。


 冷蔵庫から生ハムを出し、切り分け、メロンの上に乗せる。半透明の生ハムは、ベールのようだ。


「あなた、メロンよ」


 食卓に生ハムつきのメロンを出した。


「げ、やめてくれよ。生ハムなんて載せたら甘しょっぱい味になるじゃないか。これ、まずいんだよなー」


 夫は生ハムつきのメロンを露骨に嫌がっていたが、私は満足だ。夫の表情を見るだけで、ほんの少し復讐できた気がした。


 今の生活では、夫からのこんな表情も刺激になっている。


「そう?メロンに生ハム。けっこう美味しいと思うけど」


 そう言いながら、たいして美味しくないメロンと生ハムを食べた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ