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甘じょっぱい話〜砂糖と塩の美味しい物語〜  作者: 地野千塩


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チョコレートチーズナン

 近所にあるカレー屋に来ていた。


 本番のインド人が経営しているカレー屋だが、あまり評判は良くない。むしろ悪い方だった。口コミサイトをみると、星一個が並んでいた。


 他の客もいない。店員はまだ日本語を習得していないのか、オーダーするのも一苦労だった。


 確かバターチキンカレーとプレーンナンを頼んだはずだが、グリーンカレーとチョコレートチーズナンがきてしまった。


 ピリ辛のグリーンカレーとチョコレートチーズナンは最悪の組み合わせではないか。


「はぁ」


 花音はため息をつきつつ、食べはじめた。あの店員に日本語を説明するのは、骨が折れそうだし、色々と疲れていた。


 仕事は、エッセイ漫画家だが、調子が悪い。最近は与党批判漫画や反ワク集団のルポ漫画の依頼がきた。こういった時事・政治的な内容の依頼は、工作員案件という噂があった。依頼主をよく調べるとカルト関係の名前も出てきて絶対受けたくない。


 思い出すとイライラしてくるが、食べないわけにはいかない。気を取り直し、グリーンカレーを食べる。


 グリーンカレーは想像以上に不味かったが、チョコレートチーズナンは、違った。大きくて丸いナンにチョコソースが放射に広がり、蜘蛛の巣を彷彿とさせた。


 グリーンカレーで死んでいた口の中は、ようやくチョコの甘味で復活していた。これは、意外と不味くは無い。むしろ美味しい。ほんのりとチーズの味も引き立ち、クセになる甘じょっぱさだ。


「おいしい」


 ついつい休みなく食べ続けた。どうやら美味しい蜘蛛の巣に引っかかってしまったようだ。細いチョコソースの糸に捕らえられ、もう逃げられない。


 こんな美味しい蜘蛛の巣だったら、引っかかっても悪くないだろう。仕事の事を思い出すと悔しいが、全て希望を失ったわけじゃない。このチョコレートチーズナンだって美味しい。


「ガンバッテ、ガンバッテ、クダサイ!」


 最後に会計を済ますと、なぜか店員に励まされれしまった。よっぽど酷い顔をしていたのだろうか。カタコトの酷い日本語だったが、その心は伝わってきて、ちょっと泣きたくなってくる。


「ええ。あなたも頑張って」


 花音は深く頷き、笑顔を見せた。


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