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ガレキのハートに火をつけろ! 2


 焼塵街は高いバリケードに囲まれている。外からの侵入は容易だが中からの脱出は不可能である。それは焼塵街の病原を持ち込まない為の措置として建てられたバリケードの本来の役割だ。

 無精髭の男はこの街の元締め。仕事は外の街から来るゴミを処理する事。即ちこの街はゴミ処理場として機能している。外から来るゴミをこの街の中心地にある焼却炉まで運び、燃やす事で熱税を払っていた。


 傘を差す男が2人。

 飴玉を噛みながら、ずぶ濡れで働く者達を見ている無精髭の男とタバコを吸う若ハゲの男だ。


「食いもんの為に命賭けるって実感湧かないっすねー」


若ハゲの男が呟いた。


「ん、あんなガキまで働いてるんですか?」


「ああ、あいつは替えが効かない時に使ってるガキでなぁ。俺たちがガキガキ言ってったから、自分の名前をガキだと思い込んだガキだ」


「ハハッ!何すかそれ。つまり名付け親って事っすか」


「あーー。そうなるなぁ」


 無精髭は心底詰まらなそうに言葉を返した。

 そんな退屈な時間を送る一方で、ガキはずぶ濡れでゴミを運んでいた。


「おーい!ガキィ!ちょ、こっち来い!」


 若ハゲの男がガキを呼んだ。


「ハイ!今行きます。今来ました」


「これよ、この間ゲロ踏んじまって履きたくねぇーんだわ。コレも持ってけ」


「あ、ハイ。分かりました」


 ガキは若ハゲが左手に持つ袋の中身が見えた。綺麗な革靴で裸足のガキには少し羨ましく思えた。

 と、同時にドゴォっという轟音が鼓膜を貫く。ガキが振り向くと先程まで自分が並んでいたゴミ運びの列に雷が落ちた事を理解した。

 落ちた場所は傘を差しながらゴミを運んでいた者の所で、もう性別が分からない黒墨に変えられている。


「アヒャヒャヒャ!もしかしてアイツ、俺達の真似事してたんすかね。バカが1人紛れ込んでたぜ!」


 若ハゲが舌を出しながら笑う。

 ガキはもし呼ばれていなかったら巻き添えをくっていたと思い、冷や汗が止まらない。


「ガキ。いい機会だ覚えとけ!俺たちの傘は特別性で雷が避ける。だが、そこいらの傘はただの避雷針になっちまうからよ!せいぜい真面目に働けよ!」


 背中を蹴られ、参列に戻る。



 ゴミを運び終えた後、ガキは寝床を探し始めた。

 屋根のついた場所はオススメしない。いつ崩れてもおかしくないからだ。

 だから、いつもの様に地べたに寝転がった。


「今日よぉ、一生懸命働いてよぉ。死ぬ気で働いてよぉ。貰えたのはゴミの中にあった食べカスだけだぜ。どう思うよチュー助」


 ガキは腹の上でチューチュー鳴くネズミに語りかけた。ネズミは話せないけど、相手がいる体を装える貴重な存在だった。


「そうだよな。酷いよな。アイツらゼッテェ良いもん食ってるよなぁ」


 ガキの愚痴は雇われ先の無精髭の男達の事だった。


「でも、今日はいつもと違うぜ。なんせ今日はこんな物を取り寄せたからだ」


 ガキは昼に若ハゲから捨てろと言われた革靴を取り出した。


「じゃじゃーん。どうよ。どうよ。コレで足下を心配せずにズカズカ歩けるぜ。そうすれば仕事は早く終わって、立っている時間が短くなる。つまりぃー、雷に撃たれるリスクも減るって事よ。俺ぁ天才だね。遠回しにこんな答えに行き着くなんて」


 チューっと賞賛の鳴き声を浴びる。

 自己満足で頬が緩くなるガキ。明日から早速履いて行こうかと悩む。しかし行き着く答えはいつもと同じ。


「でもやっぱ、食欲には勝てないわなぁー」


ガキは革靴の紐を解きながら口を開く。


「革靴ってよぉ。皮からできるからカワグツって言うんだぜ」


 ガキは大きく口を開いた。


「ビーフってこんな味かぁ。ちょっとクセがある味だなぁ。大人の味って感じ。今日はこんくらいにして、少しづつ食べていこ」


 つま先の空いた靴を履く。ブカブカだがコレでもガキにとっては靴だった。


「もう寝ようかな。寝なきゃ死んじゃうって聞いた事あるぜ。死にたくはねぇーもんな」


 ガキはネズミを優しく撫でると瞼を下ろした。


「明日まで生きてるかな。寝てる間に雷落ちたら嫌だな」


 呟きはどんどんゆっくりになっていき、深い眠りにつく。


「すこし寒いよ」

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