ガレキのハートに火をつけろ! 1
鉄屑が転がるガレキの大地に冷たい雨がポツポツと降り注ぐ。
崩れたコンクリートとへし折れた鉄の棒が散らばる凸凹の大地には水溜りが至るところで見受けられる。
出っぱった鉄のガレキが磁気を帯び、巨大な雨雲から雷を呼び寄せた。
元から崩れていた大地は雷の怒号が響き渡る頃には違った形に変わっていく。
そんな荒れ果てた大地の名は焼塵街。
20年前は栄えていた街の成れの果てである。
ガレキと焦げた大地が広がる危険地帯。
そこで少年ガキは手でヘソを隠すように寝転んでいた。
ゴミ袋で作った服とふやけた皮膚。
価値を問われたら0に近い風貌。
寝転がっているのは雷が落ちて来るのを避ける為。
曇った空を見上げるのは、溜まった雨水で窒息しないようにする為。
雨水が目尻から滴るのは、きっと泣きたいから。
自分の存在を自認した時。自分が自分として生まれた時からガキはこの街で寝っ転がっていた。
それでも寂しくなかったのは仲間がいたから。
チューチューとお腹の上で鳴く細々とした小さなネズミ。即席で作った屋根はガキの両手だった。
「ごめんなぁ。ご飯は無いんだ。こんど仕事がある時にくすねてくるからそれまで我慢してくれ」
ガキはネズミと目を合わせることなく言い放った。
ガキにとってネズミは寂しさを紛らわす為だけの存在。手で温もりを感じるだけでよかったからだ。
「知ってるかぁチュー助。口をよぉ。こーんな大きく開けてたらいつの間にか水が溜まってタダで綺麗な水が飲めるんだぜ」
口を大きく開ける動作を交えながら、チュー助に話しかけるガキ。
「つってもよぉー。俺ぁいつも途中で飽きて綺麗な水を飲んだ試しがねぇーんだ。水ならそこら中にあるからさ、無理に頑張んなくってもいいかなーって」
水溜まりはいくらでもある。泥が混じっているが気にした事はない。ただ泥の混じってない水に高級感を感じるから、暇な時はチャレンジしている。
「でも今回は頑張っちゃおっかなぁー。違いの分かる男になっちゃおっかなぁー」
得意げに話すガキ。大体いつもこんな感じでチュー助と暇な時間を共にしている。
「決めたぜ。次の仕事が来るまでに俺ぁ違いの分かる男になる」
チューっと鼓舞する鳴き声が響く。
ガキは口を開け、雨水を溜め始めた。鼻で息をする事で窒息しないよう気を付けながら。
「おー。生きてっか、ガキ。仕事だ準備しろぉ」
傘を差す男がガキの頭を見下ろす様に立っていた。
コロコロと口の中で飴玉を転がす男。
顎を覆う無精髭とゴミを見る様な瞳。
顔の皺から60は過ぎていると誰もが思う顔。
磨かれた黒い革靴は艶々としているが、着込んだ茶色のコートはボロかった。
「……」
「死んでんじゃねぇよ」
「俺ぇー」
「んーー?」
「俺ぇ、今腹なったの分かりました?」
「んーー。雷の音で聞こえなかった。なんだってーー?」
「ボロいコートっすね。捨てた方がいいっすよ」
ガギは耳の遠い事をいい事に本音を語った。
しかし、無精髭の男は聞き取れないフリをしただけである。
ガキが喋り終わる頃には、土と鉄の味が口一杯に広がった。
「こらぁ、死んだ親父の服だ。お前と一緒にすんじゃねぇよ」
無精髭の男がガキの顔面をグリグリと踏みつける。
「食いもんは出す。黙って働け」
「ふぁい。すんまふぇんでした」