帝国へ(フィアット家)6
正直助けられるとは思っていない。
国境近くからフィアット子爵家までの距離はおよそ四時間。
つまり、四時間かけて向かう。
全てが、
終わっている。
本当に腹立たしい!!
知らせを受ける前に、助けたからと恩着せがましく言う、そういう手を使ってくれたら良かった。
スレッガー殿下との婚約は絶対にないものの、それ以外の交渉があったのだ。
スレッガー殿下とは隣国という事もあり、よく顔を合わせる事があった。
私よりも1つ歳が下だが、とても聡明で素敵で、とても可愛らしい容貌の方だ。
だが、それだけ、だ。
嫌になる。
政治という思惑に、傀儡のように利用される立場が。
私にしても、スレッガー殿下も可哀想だ。
でも、お陰でボルディー王国、そしてガルマ様は王妃様と何も繋がりがないと確信は得られた。
そうでなければ、ヴェンツェル公爵家の馬車が襲われたのが、並大抵では無いと知り得ないから、その場を離れ報告に来たのだろう。
仲間なら、潰した所を確認してから来たはずだ。
生きていて欲しい。
けれど、それが難しい事も分かっていた。
私が乗っているならともかく、囮と知れば容赦はない。
「・・・ターニャ。せめて死体だけでも見つけて」
それだけが願いだった。
「御意。弟も、理解しておりますのでそう指示はしております!」
「・・・弟!?」
意外な言葉に、手網を持ちながら、前を走るターニャに大声で聞いた。
「聞いてませんか?ザンは私の弟です」
はい?
「聞いておられ無いのですね!」
馬の蹄の音と、抜け道の砂利の音で聞づらい中大声で言ってくれたらよく聞こえた。
「無口な弟ですからね!」
そうね。
「それでいいのよ!!」
とりあえず驚きながらそう答えた。
「そうですね!」
ザンもそうだけど、フィーもカレンも何も教えてくれなかった。だから、ターニャを私の側に置いたんだ。
けど、つまり、
ザンも侯爵家!?
確かにそれ相応の気品も振る舞いもあったけど、まさか侯爵家だとは思わなかった。
それにターニャは3女。
じゃあザンは、何男なのだろう。
「危ない!」
私の背後を走る騎士の声にはっ、とし前にある大きな石をどうにか避けた。
「疲れましたか?休みますか!?」
「いいえ!!大丈夫よ!!」
不安そうにターニャは振り向き私を見たが、直ぐに前を向いた。
「分かりました!!」
いけない。
今はたどり着く事だけに集中しないと。
そこから私は余計な事を考えず、前だけを向いて手網を握っていた。




