帝国へ(馬車の中)3
国境近くで、予定通りザンと合流し、帝国の馬車に乗り換え服を着替えた。
「公爵令嬢様、文は全て預けてまいりました。また、コリュ様の跡は誰も付けておりてませんでした。それから文を預かって参りました」
私の前にターニャと一緒に座るザンが、私を見つめ報告し、渡してくれた。
「ありがとう。帝国側なのに助けて貰って申し訳ないわ」
文を受け取りながら、お礼を言うといつもの無表情で首を振った。
「皇太子より命を受けております。公爵令嬢様に従え、と。それだけです」
ぶっきらぼうな言い方たが、ザンはこの状況を楽しんでいる。
それが分かっているから、罪悪感が少なく感じ頼み事が出来た。
文は2通。
ニルギル様とコリュ様からだ。
ニルギル様の方を先に開けて読んだ。
私の王宮での断罪が瞬く間に貴族に広まり、王妃派が慌てて公爵派にゴマすりにまわっているらしい。
王妃様は別宮にすぐ移されたが、気味が悪いほど静かに従い何も文句を言わなかった。
つまり、何があっても自分の地盤が揺るがないそれだけの自信がある、という訳か。
はっとした。
しまった。別宮に移すべきではなかった、と臍を噛む。
別宮での見張りを指示していなかった。これでは、王妃様が動いても、確実な証拠が掴めない。
逆手に取られる、という事だ。
王妃様は別宮で隔離されているから、誰とも連絡が取れない。恐らく、グリニッジ伯爵様も見越して下手な動きはしないだろう。
王妃様が王妃派が動したとしても、それは勝手にした事であって、グリニッジ伯爵は突っぱねればいい。
それでこちら側が被害を受けたとしたら、王妃様にとっては棚からぼたもちで、こっちにしたら、やられ損だわ。
迂闊だった。
「どうされました?何かありましたか?」
ザンが神経を尖らせ、低い声で聞いてきた。
「少し考えが狭かったな、と思っている所。大丈夫、何も無いわ」
仕方ないか。
「誰しも思い描いた結果にはなりません」
ザンは張っていた気を少し落とし、慰めるように言った。
「確かにそうね。いちいち凹んでたらキリが無いわね。さて、次の文を見ようかしら」
コリュ様の文を開けて、言葉を失った。
「どうされました!?」
ザンが立ち上がり入口を見た。
「大丈夫よ。でもね・・・これ見てよ」
文を2人に見えるように広げた。
任せときな!
「・・・この意味は、何ですか?」
「さ、さあ?」
ターニャの疑問に、私が聞きたいわよ、と思った。
「何を頼まれたのですか?」
「貧民街の事だけよ」
それなのに、これは何???
何を、
任せときな!
なの??
不安しかないのだけれど・・・。




