3通の手紙2
「好きにしてよ。ともかく明日よ」
「教えてくれないのか?」
「だって」
フィーの残念そうな言葉に、ちらりとカレンを見た。
「邪魔されそうだもの」
私の言葉に、すぐにカレンは横を向いた。
全く。
そうして、2通目を開け読んだ。
スルジニア様からの文だった。
「王妃派に入った方々が何人か書いてあるわ。その見返りは、やはり同じような感じね。投資に失敗したり、事業が失敗したり、そういう人にお金を出してるみたい。こうやって見ると、本当にどこからその資金を調達してくるのか不思議だわ」
「それも、直接、でしょ?」
さすがね、カレン。
「うん。口座を使った金額は恐らく微々たるものだと思う。カレンの言うように、お金を直接渡しているから、タチが悪いわ。お金の流れが表に出てこないもの」
グリニッジ伯爵様では無い、誰かが、お金を動かしている、と思った方がいいな。
実際グリニッジ伯爵様が動けば、容易に行動は知られる。
王妃様のご実家だもの。
公爵派が黙っていない。
「でも、どの人も大した貴族じゃないわね。本当に捨て駒程度で仲間に引き入れているのね」
逆に中心な人物は表に出ていない、か。
最後の文を開けて読んだ。
この印は私が渡した1つだ。
これは、テレリナ子爵様だ。
「誰から?」カレン。
「テレリナ子爵よ。コリュ様の廃嫡にしたいから、進めて欲しいと書いてあるわ」
「考えたわね。貧民街に入るためでしょう?この間のスティングの話では、かなり世界が違うと言っていたし、何かあるとスティングは思っているのでしょう?」
「そうよ」
「普通廃嫡は、罪人になった時。でも帝国の私達だけでなく、スティングの逆鱗も買った、とすれば受け入れやすい、と考えたのでしょうね」
「そこまで考えなら、本気でこちら側になってくるだろうから有難いわ。全部終わったら、戻れるように陛下にお願いするわ。とりあえず、明日にでも陛下に廃嫡を薦めるわ」
「返事はどう書くんだ?」フィー。
「クルリ、ケーキお代わり」
「私も貰うわ」
「俺も。これ、スティングが作ったんだろ?」
「そうよ」
「やっぱりな」
得意げに答えるフィーに、皆の、あ、そう、みたいな顔がこそばゆくて、でも、フィーの私に向ける瞳の暖かさが、心地よくて、つい、見つめあってしまった。
「はいはい。そういうのは2人きりの時にしてね」
カレンの言葉に、急にお互い恥ずかしなって、背けてしまった。
「ねえ、前から思ってたのだけど作戦会議なんだからさあ、ザンもリューナイトもクルリも一緒に食べようよ」
他愛のないカレンの言葉に、ザンとリューナイトが、初めて見る、心底驚いてます!という顔を一瞬見せたが、直ぐに無表情に戻った。
「分かりました。じゃあケーキとお茶準備しおわってら、私座りますから、リューナイト様とザン様はそこに、座って待っていてください」
あっけらかんと答えるクルリと裏腹に、リューナイトとザンは緊張が見える ぎこち無い動きをしだしながらも、全く足を動かさなかった。
うん、分かるよ。
リューナイトもザンも隠密的な仕事をして来てるだろうから、気を張らせ、主を護る。
寛ぐなんて、絶対ない。
でもね、カレンの気持ちも分かる。
仲間、だものね。
「リューナイト、ザン、帝国皇女様からの命令よ。逆らう気?心配しなくても、まだ何も始まってないし、逆に意見を聞きたいの。立ったままじゃ私が聞いずらいわ」
「お言葉を返すようですがお嬢様、私は御当主より、」
「もう一度言わせたいの?帝国皇女様よりの命令よ」
私の言葉にさすがにリューナイトは黙り、ザンも不服の顔をしていたが、諦め、渋々座った。
クルリはすぐに準備してくれて、自分も座った。
「これからどうするの?」カレン
「ニルギル様にはこのまま、探してもらうわ。私の予想では、これ以上手駒を増やす事はしないと思う」
「何故?」カレン
「私なら、しない。敵がどうしたいのか確実に分かるまでは、下手に動かない方がい。ここで動けば、しっぽを掴まれる可能性がある。まあ、私としてはそうして欲しいけどね。だから、今いる手駒をある程度把握出来れは上々よ」
「仲間に引き入れるのか?」フィー。
「まさか」
笑いながらお茶を飲み、顔を上げた。
静寂が振ってきた。
誰もが私の答えを、興味、と言うよりも恐ろしげに待っている。
「誰を敵に回したのか、自分の愚かさを後悔すればいいのよ」
一気に空気が冷え、皆が固まった。
私の一挙一動は常に貴族の口に上がる。
お茶会から始まり、王宮での今日の出来事、
そして、
明日の出来事、
で決定的になる。
「既に私がもう、お人形さん、では無くなったのを、否応でも認めなければいけない。これまでは、殿下の為、王妃様の為、と行動していた私を卑下した貴族にしてみれば、認めるのは難しかったでしょうね。事実、私と近しいニルギル様の口から殿下にしがみついている、と噂を流してもらっていたから、認めたくなかったでしょうからね」
「王妃派に入った手駒は、八方塞がり、と言う訳ですか」
「その通りよザン」
「ご自分では、いや、公爵派としても何もせずとも王妃派の手駒は潰れてくれる、と」
嫌な目だわ。
ザンの顔を見て、そう思った。
ザンは、きっと帝国の中でも頭脳的暗躍を得意としている。
「あなたは、私の考えをよく掴んでいる。ということは、私はまだまだね」
少し悔しかった。
「なになに、どういう事!?ザンは何がわかったの?何で八方塞がりなの?何で勝手に潰れてくれるの?」
カレンの駄々をこねるような言い方に空気が和んだ。
「王妃様の手駒となった貴族は、どちらにも助けを求められない、と言う事よ。王妃様と言う傘はいつ消えてもおかしくない。その瞬間、支援も止められる。でも、王妃様、もしくはクラウス様に助けは求めれない。だって、表沙汰にできないお金が動いているんですもの」
「そうか。逆に公爵派にも助けを求める事も出来ない」
「その通り。そんな事すれば、罪を問われ、汚名付き爵位返上となれば永遠に貴族社会に戻ることは出来ない。それなら、大人しくしていた方がいいでしょう」
「成程!仕方無いですよねぇ。だって、王妃様の傘に入っちゃったんですもの」
あっけらかんと言うクルリの言葉に素直に頷けなかった。
「カップ替えますね」
立ち上がりカップを片付け、新しいカップにお茶を用意を始めた。
片付けるクルリを見ながら、ザンの冷たい目があった。
分かっている。
では、公爵派に助けを求めたら助けたのだろうか?
否、
だ。
取引とは、損得勘定上に成り立つ。
こちら側の利益となる情報を彼らは持ってこそ、助ける意味がある。
世知辛い世の中だ。
「ともかく、スルジニア様にも桃色の事を教えて、高等部にもいるのかどうか探ってもらう。ニルギル様が何人か名前を書いてもらってる中に高等部にもいるから、様子を見るわ」
「公爵派は何もせずと、足掻くのをまつ、と言う事か」
「そうよ、フィー。誰が内通者か分からないから、下手にこちらの情報を流したくないわ。それに、どれだけ動いてくれるかお手並み拝見よ」




