動き出すレイン2
やってくれたわね。
落ちていくレインを冷静に見る自分と、
瞬時に思考が閃いた自分とが、
融合し、体が動いていた。
ドスンと言う音と小さな悲鳴が聞こえた直ぐに、背中と肩に痛烈な痛みがきた。
うっ!
「スティング!」
「スティング!」
「レイン!」
大きな声が聞こえ、蹲る私達も駆け寄る姿が見えた。
激痛を耐えながら必死に起き上がり、怒りに満ちたレインの顔があった。
「大丈夫?助けようと思ったのに助けれなくてごめんなさい」
見たことも無いレインの素顔が見え、笑いがでた。
手を差し出すと、ひきつる顔で無理に可愛らしく微笑みながら私の手を振り払った。
レインが落ちた後、
私もあえて落ちた。
レインが落ちれるのだ、
私も落ちれる、
と瞬時に思った。
前の私なら、ただ呆然と見ていただけだ。
あえて私の前に来て死角となり、あの言葉。
私が突き飛ばした、としたかったのでしょうね。
残念ね。そんな手にはのらないわ。
感情むき出しの怒りのレインの顔に、勝った、と思った。
私の方がしてやったわ。
「大丈夫か!?」殿下
「大丈夫!?」カレン
「スティング、どこを打った!?」フィー
「ガナッシュ、すごく痛いのぉ」
「大丈夫かレイン?足を滑らせたのだろう?スティングも大丈夫なのか?」
レインを起こしながらも、私の事を聞いてきた。
でも、
わかった。
演技だ。
「はい、私は大丈夫ですのでレイン殿を見てあげてください」
自分が思っていた以上に冷たい言い方に、殿下は無表情になった。
「医務室に行こう」
え!?
考える暇もなく、フィーが私を軽々と抱き上げた。
ひゃあああ!
「行くぞカレン」
「分かった」
「ちょっと、大丈夫だってば!」
私重たいし、
恥ずかしいし、
周りの生徒が只でさえ集まってきていたのに、その興味津々の目が恥ずかしい。
それも、スルジニア様と目が合ってしまった。
うわあ、と目をキラキラさせ、ガン見していた。
絶対あれは他の方々と私のことを楽しく噂をする顔だった。
「大丈夫よ!私重たいから下ろしてよ」
「駄目だ。あまり高さはなかったにしても、かなり打っただろう。ちゃんと見てもらった方がいい。それにあの女スティングに落とされたフリをしたかったんだろ」
顎から上の顔の表情がよく見えなかったが、怒りは汲み取れた。
「そうよ。上手く私の前に来たから死角になって見えなかったでしょう?」
「見えなかった。実際何をしているのかさっぱり見えなかった。本当にムカつくわ。誰かが真横で見ない限り、あれじゃスティングが疑われる。あえて私達から少し離れたのも、計算していたのね」
「でも、それだけ私が邪魔になってきているのよ」
こんなあからさまな態度を、レインが初めて取った。
王妃様からの指示なのかもしれないが、ともかくまた、1歩前進だわ。
ふっふふ。
楽しくなってきたわ。
「だが、こういう危ない事は二度とするな!」
「残念ながら、それは約束できないわ。前にも言ったでしょ。手伝って貰うつもりはない、と。私は私のやり方でする。ほら、もう医務室についたわ。下ろして」
むっとした空気が伝わってきたが、それ以上フィーは何も言わず下ろしてくれた。
医務室で診てもらったが肩と背中を打ったくらいで、大したことはなかった。
当たり前よ、さすがにそんな酷い怪我をするような高さなら、落ちてない。
まあ、それはレインもそうでしょうけどね。
それから少しして、殿下とレインが入ってきた。
あら?お姫様抱っこではなかったのね。
とても疲れた顔の殿下を見てカレンが、あからさまにバカにした顔でニヤニヤしていたから、殿下は悔しそうに下を向いていた。
レインは大袈裟に痛い痛いと喚き、殿下に甘え、殿下は優しく相手をしていた。
それを見て、さっきの自分の気持ちのざわめきがわかった。
鬱陶しいわ。
私をあんな目で見て欲しくない、
だった。
「フィー」
「どうした?痛いのか?」
「ううん。呼んだだけ」
その心配そうな顔と声に、
覗き込む瞳に、
私は、
安心できた。




