動き出すレイン1
「ねえ、お昼一緒に食べよぉよ、スティング」
私を見つめ首を傾げ甘える声でねだるレインに、気分良かったのが、一気に苛立ちを覚えた。
朝、殿下に呼び止められることもなく、一昨日のロール様のお茶会が広まっているのだろう、戦々恐々の顔で挨拶する王妃派と、相反する公爵派のにこやかな挨拶は、なかなかの爽快な気分だった。
フィーもカレンもそれがわかったようで、私の機嫌の良さと、私に対する態度が変わり、同じく嬉しそうだった。
その気分の中、お昼になり、
何時ものように、何時もの場所に、
と向かおうしている所を、その言葉で、呼び止められた。
それも、私の目の前に可愛らしく微笑み、
それと、殿下の腕に自分の腕を絡んだ状態で、だ。
さすがに殿下は、私の両隣にお2人が側におられるから、狼狽えている様子だった。
わかり易いわね。
ねえ、殿下?
ロール様のお茶会を王妃様から聞いたのでしょう?
だから、近付いて来たのでしょう?
でも、何時も人任せであり、気の弱い殿下はそんな態度しか出来ないのでしょう?
ああ、また、
だ。
と、自分が嫌になる。
殿下を愛し、
側で見ていたから分かるからこそ、
助けたくなる。
それがもう、
愛情ではなく、
同情だ、
と分かっていても、
だ。
「レイン、その言い方はやめなさい」
驚く程冷静な言葉と共に、絡めた腕を離すと、レインの目が一瞬固まったのを、私は逃さなかった。
殿下?
いつもと違う、いや、私の愛した殿下がそこにいるようだった。
「1国の王子として、これまでの無礼は重々承知しています。それを踏まえながら、これからは少しでも友好な関係になれば、と思っています。ですので、ご一緒に如何でしょうか」
少し俯きながらも、自分の思いを必死に伝えようとする殿下に、
私が、
いや、
フィーとカレンの戸惑いが否応なく感じた。
演技?
違う。
そうはっきり言える自分がいる。
殿下は感情豊かな方だ。ある意味、素直で嘘をつけない純粋な方だ。
元にレインの顔がまた、固まっていた。
「フィー様、カレン様、殿下がここまで仰るのですから、ご一緒致しましょう」
こう言うしかないのは分かっている。
一国の王子が国の交友を冷静な言葉で言えば、2人が断る理由がない。
殿下を、何が変えたのは分からないが、
私が愛した殿下がそこにいた。
震える己の心のざわめきを、どう抑えるか分からず不安の中、
すっと、
肩に手が置かれた。
「では、そうしましょうか」
あ・・・。
フィーの心地よい、気持ちのこもった声が全身を覆った。
俺が、側にいる。
肩を伝って、言葉が、浸透する。
そう、よ。
これは、
同情。
だって、
殿下が可哀想、
という想いが勝っている。
「分かったわ。行きましょう」
仕方なさそうにため息を付きながらもカレンも承諾した。
「ありがとうございます。では、食堂のサロンで宜しいですか?」
「構わないよ」
「いいわよ」
「ありがとうございます。では、話しながら行きましょう」
殿下はそう言うと、フィーとカレンの側により、急にレインが私の前に来た。
「じゃあスティング、一緒に行こうよ」
イラッ。
甘える声で、今度は私の腕に絡み、引っ張り、早歩きし3人を追い越した。
「邪魔しちゃダメだよねぇ。ガナッシュがおふたりと仲良くならなきゃいけないって、言われたでしょ?」
同じ目線なのに、気持ち悪いくらいの上目遣いと甘い声が、まとわりつき、嫌な気分にさせる。
「誰に、言われたのかご存知のようですね。おかしいですわね。その言葉王妃様から聞きましたが、レイン殿は、おられませんでしたよね?」
「ええ!?また、意地悪な言い方するよねえ。王妃様から聞いたんだよ。だって私はいっつも王妃様の愚痴聞いてあげてるんだよ。スティングが言う事聞いてくれない、とね。可哀想だよぉ」
探るような目と、人を逆撫でするような言い方。
私から、
何を引き出したいの?
「あら?前に王妃様にお会いするのは少ないと仰ってませんでしたか?その口ぶりだと頻繁にお会いしているのですか?」
そんな手には乗らないわ。
「もう!スティングったら、どうしたの?元々意地悪だったけど、今は、すごおく、嫌な女になってるよ」
苛立つ、自分が膨らんでくる。
どっちが嫌な女よ。
少し離れて後ろから歩いてくるフィートとカレンの側に行きたい自分をどうにか抑えていた。
レインにのせられているは分かっているのに、レインの顔を見るだけで腹立たしい感情になり、落ち着けない。
これでは相手の思う壷で、冷静な判断が出来ない。
落ち着いて。
落ち着い考えるのよ。
私から何を、聞き出したい?
それとも、殿下がフィーとカレンから、何かを聞き出したいの?
あ・・・もしかして公爵派のお茶会の内容、漏れた!?
ドクン、
と体が強ばる。
「ねえ」
下に降りる階段に1歩足を踏み出した時、レインがゾッと甘い声を出してきた。
掴む腕に力が入り、上目遣いの不安を駆り立てる眼差し。
「・・・何でしょうか?まさか、ここから落とす気ですか?」
「まさかあ、そんな事しないわよ」
1歩階段を降り、
私の前に来るとくっと、
狡猾に笑ったかと思うと、
「な、何するの!?スティング!!いやあああああ!!」
悲鳴と共に、
落ちて行った。




