8.軍団
その日、俺たちは森の浅い所でいつも通り訓練していた。
少し違うことはイーフィアが俺の隣に居て、視線の先にはカールたちが居る。
「へへ……アル。今度こそ、お前のことをボコボコにしてやる!」
カールは子どもたちの中でも一回り大きく、ガキ大将のような存在だった。
取り巻き立ちがヘラヘラと笑う。
俺が半眼で待ち構えていると、カールが驚いた表情をした。
「お、おい! それ本物の剣じゃねえか! イーフィア! お前の盾もなんだその立派なの!」
目を輝かせ、近寄ろうとしてくる。
今まで木剣や模造品と言った、子どもの玩具のような物を触ってきたのだ。
本物を見ると興奮する気持ちは分かる。
「これは俺たちの物だから、カールに見せる筋合いはないよ」
「はぁ!? お前の物は俺様の物だ! 村のリーダーたる俺様の命令は絶対なんだぞ!」
自分ルールを適応し、カールが近寄ろうとしてくる。
「ダメなら力で奪ってやる……! おらー!」
(本物の剣を持ってる俺に、木剣で挑むのか……無謀すぎるなぁ……)
もちろん、傷つけるつもりはない。
軽くあしらおうとすると、イーフィアが前にでた。
「私がやります!」
イーフィアが盾を構えて、叫ぶ。
「【パリィ】!!」
鈍いカキン、という音と共に、カールの持っていた木剣が宙を舞う。
想像以上に【パリィ】が強く、威力が全てカールの腕に反射していた。
そう、【パリィ】は攻撃を弾くだけでなく、攻撃を反射する能力も持っていた。
誰かを守る力。イーフィアはこの【パリィ】を凄く気に入っていた。
「か、カールくんがまた負けた……!?」
「嘘だ! カールは強いんだ! 僕たちの中でも一番強いんだぞ!」
そんな取り巻きの言葉を無視して、イーフィアが小さく微笑んだ。
「アルくん! 見ましたか見ましたか! 私ちゃんとできました!」
俺の方に笑顔を向けた。
足を何度も動かして、イーフィアは大層喜んでいた。
「うん、見てたよ」
カールは唖然としたまま、尻もちをついていた。
イジメられていた少し前までのイーフィアとは違う。
スキルを手に入れれば、それだけ人の強さは変わるのだ。
カールが泣きながら叫ぶ。
「な、なんだよそれぇぇぇっ!」
「イーフィアのスキルだよ」
「俺たちだってスキル持ってないのに! イーフィアはズルいぞぉ!」
カールがその場に寝転んで「ズルいズルいズルい!」と地団太を踏んだ。
(め、面倒臭いなコイツ……)
子どもらしいと言えばらしいのだが、ガキ大将の貫禄は全くない。
そんなカールを無視して、イーフィアが問いかけてくる。
「アルくん! 私って、今どのくらいの強さなんですか?」
「まぁ……今の【パリィ】を持っていれば、赤毛の魔熊の攻撃くらいは弾ける」
そう言いながら、ふとあることに気付いた。
(ちょっと待てよ。イーフィアは盾役としては十分だ。まだ魔物との戦いを経験していないとはいえ、現状では戦力になるんだ)
視線をカールや取り巻きに向ける。
(こいつらはまだ18歳じゃない……上手く鍛えてスキルを覚えさせれば、魔物との戦いに使えるんじゃないか……?)
本当は一人で全部の魔物を倒すつもりだった。
でも、俺一人では不確定要素があった場合に対応できない。
命が掛かってるんだ。
少しでも不安を減らし、確実に勝つ方法を選び取った方が良い。
(多少はスキルの取得条件がバレても、子どものコイツらなら問題ないだろう)
俺はにんまりと笑う。
「良い案思いついた」
「あ、アルくん!? 顔が凄く悪人っぽくなってますよ!?」
俺はカールたちの前に立ち、手を伸ばす。
「カール……お前、スキル欲しいのか?」
「お、おう! スキルが欲しい! だって、カッコいいじゃん! いっぱい持ってたら英雄とかになれるんだろ!?」
「あぁ、なれる。お前も英雄になりたいか」
「なりたいに決まってる……!」
俺は周りの取り巻き達に視線を向ける。
彼らもカールと同様に、首を縦に振った。
「じゃあ……一緒に訓練しよう」
できる限り、俺は笑顔を作った。
「「「へ?」」」」
アル軍団を作れるかもしれない……!