表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/9

7.鍛冶屋


 俺はこの村、フォレスト村にある鍛冶屋に来ていた。

 その隣にはイーフィアも居て、不安そうに俺の腕にしがみついている。


「アルくん……ここって……」

「金荒いの鍛冶屋」


 この村で唯一の鍛冶屋だった。

 かなり腕は良いが、王都から追放されてこの田舎に引っ越したと聞いている。


 俺もできることなら、ちゃんと承諾を得て剣を買いに来たかった。

 でも、そんな余裕はない。残っている時間で、出来る限り強くならないといけないんだ。


「んだ……? 子どもがなんの用だい」


 ハゲた頭に白い髭。身長も小さく、俺たちとそれほど差はない。

 手に持っている金槌で剣を叩いていた。


「剣を買いに来た」

「……ハッハッハ! 子どもが剣を! ハッハッハ!」


 俺が言ったことがそれほど変だったのだろうか。

 高笑いしたかと思えば、表情を強張って鍛冶屋は言う。


「帰んな。見たところガルドの所のクソガキだな? お前にやる剣はねえよ」

「クソガキじゃない、アルだ」

「そうかアル。俺はダニアだ。大人になってから出直しな」

「金はないが、これと交換だ」


 赤毛の魔熊(レッド・ベアー)の毛皮と爪を置く。

 すると、ダニアの表情が変わった。


「なっ! こりゃあすげえ……! Eランクの魔物だぞ……!」

「俺が倒したんだ」

「……信じられねえな」

「ほ、本当です! アルくんが倒したんです!」


 イーフィアが横から言う。

 ダニアはひげを撫でながら、興味深そうに俺のことを眺めた。


「……良いだろう。素材とは言え、これは金になる。なら、子供でも客だ」


 そう、金さえあれば納得してしまうのがダニアだった。

 そのせいでこの村での評判はあまり良くない。


「あと、盾もくれ。丈夫な奴だ」

「盾……? 何に使うんだ?」

「イーフィアが使うんだ」

「えっ……? 私に?」

「いつまでも木製の盾は使えないだろ?」

「い、良いんですか……!? ありがとうございます!」


 イーフィアが明るく喜ぶ。


「一緒にスキルを鍛える仲間なんだから、当然だよ」


 俺だって、あまり悠長なことはしていられない。

 もしもの時、イーフィアだけでも生きてて欲しい。


 それに、剣がないと使えないスキル。

 そろそろ二つ目のスキルを取得したい。


「遊び道具じゃねえから気を付けろよ」

「分かってるよ、ありがとう」


 剣を受け取る。光沢があり、しっかりと手入れされている。この剣は悪くなさそうだ。


「良いんだよ。本当は売らねえつもりだったが、どうにも嘘を言っているようには見えねえからな」


 ダニアは酒を手にし、息を吐いた。


「このことは、ガルドの奴は知ってんのか?」

「……いや、父さんは知らない」

「ハッハッハ! とんだ悪ガキだな、アル!」


 そう、父さんと母さんからの承諾は得られなかった。

 無理に通しても心配させるだけだ。だからこっそりと買いに来た。


「このことは誰にも喋らないでくれないか?」

「心配すんな、言わねえよ。俺みたいな老いぼれは、若者の未来を奪っちゃいけねえ……もっと早く気付いていればな」


 ダニアの視線の先には、彼が若い頃のような似顔絵があった。


 だけど、ちょっと顔つきが違う。

 

「……あの絵は?」

「俺の息子だよ。鍛冶師にさせようと、小さい頃から鍛えてきた。だけど……鍛冶師になりたくなかったみたいでな、罪を犯しちまった。俺がその罪を肩代わりしてこんな田舎に来たって訳さ」


 なるほど……そんな過去があったんだ。

 俺はダニアのことを詳しく知らなかった。


 記憶では一度だけ……話したことはある。

 父のガルドと一緒に、俺はダニアに会ったのだ。


 かなり不愛想で、怖かった記憶がある。でも、俺のことを見る目はとても優しかった。

 まるで、息子を見るような視線だったことを覚えている。


 この村に居て、この頃に戻って来て、初めて知ったことがたくさんある。


 俺はもっと、周りを見るべきだったのかもしれない。


「唯一、息子と腹を割って話せたのは酒を飲みながらだった……」

「……酒があれば、仲直りができるのか?」

「さぁな! ただ、うまい酒がありゃ会いに来るだろうさ……息子も俺と同じ酒好きだからな! ハッハッハ!」


 静かに俺は目を瞑る。

 思い出されるのは、魔物によって滅んだこの村だ。


(……俺は知ってる。ダニアの息子が、あんたの亡骸に向かってずっと泣きながら謝り続けていたことを。ダニアの息子だって、仲直りしていればあれほど後悔しなかっただろう)

  

 俺は懐にしまっていたオキアミ酒を取り出す。


「これを送ってやれ。すぐに会えるぞ」

「なんだこれ……? やけに良い匂いがする酒だな」

「俺が作った酒だ」

「へぇ、アルが作った酒……酒を作った!?」


 ダニアが唖然とした様子で言う。


「お前……実はすげえ奴なのか?」


 俺なんか大したことないと思うけど……。


「格別に美味いって父さんも気に入ってくれたんだ。家族と仲直り、できると良いな」


 家族が大事な気持ちは、よく分かる。

 俺も両親のためなら、何でもするだろう。


 生きていて欲しい。それだけで十分だ。


「……おう、ありがとうな」


 ダニアは僅かに笑って、オキアミ酒を受け取った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ