6.オキアミ酒
その日、自宅に戻った俺は父ガルドに酒を振舞っていた。
オキアミの実から作ったお酒だ。
名をオキアミ酒と呼ぶ。
「ぷはぁ! このオキアミ酒ってめちゃくちゃ美味いな! 仕事の疲れが吹っ飛ぶぜ!」
「気に入ってもらえたなら嬉しいよ、父さん」
「アル! お前は天才だな! こんな美味い酒が作れるなんて! これだけで商売できるぞ!」
そう思ってくれたのなら十分だ。
俺はさっそく、本題に入った。
「ねぇ父さん? そろそろ、ちゃんとした剣を持っても良いかな?」
俺は刃のある剣を持たせてもらえなかった。
村の子供もみんなそうだ。
大体剣が持てるようになるのは18歳からだ。
常識が身に着いてから……だそうだ。
「……ダメだ。アル、お前はまだ10歳だろ? 危ない真似はしないでくれ」
「大丈夫だよ、父さんだって俺のことを信じてるでしょ?」
「う、うむ……それはそうだが……」
「お願い! このオキアミ酒ももっとあげるからさ……ね?」
両親からちゃんと承諾を得る。
それだけは筋を通したかった。
二人を心配させたくないし、後で怒られるのも嫌だ。
「このオキアミ酒をもっと……!? い、いや……ダメだ!」
「どうして!」
「この酒は惜しいが……アルが剣を握るにはまだ早い。どれだけ極上の酒を積まれようとも、アルがちゃんと大人になるまではお父さんは不安なんだ!」
ぐっ……と俺も心臓を握る。
愛を感じる言葉に、思わず心が揺らぐ。
(嬉しい……! 家族愛を感じて凄く嬉しいけど……! 俺には取らなきゃいけないスキルがあるんだ!)
「あら、アルちゃん? パパとお話してたの?」
お風呂上がりのモナが話しかけて来る。
緩い服に、大きな胸元がはっきりと見えていた。
ガルドが言う。
「アルが剣を握りたいんだと。酒まで持ってきて交渉してきたよ」
「まぁ……! アルちゃん、それはダメよ。刃のある剣って重いし危ないのよ?」
「分かってるよ母さん……」
モナが俺の側へ寄って来て、抱き寄せる。
肌に直接触れた。
風呂上りのせいか、やけに香りが良かった。
「アルちゃん。あなた、最近変よ? 毎日泥だらけになって帰って来て、この前なんておっきな肉まで持って帰ってきたじゃない」
赤毛の魔熊の肉だ。毛皮や爪などは別のところに保管しているものの、肉だけは保管ができず誤魔化して持って帰って来たのだ。
「無茶はしないで。私たちにとっては、大事な一人息子なのよ?」
「そうだぞ、アル」
「……うん」
暖かな温もりを感じて、何も言えなくなる。
二人を心配させたくない一心だったのに、逆に心配させてしまった。
俺の居場所はここなんだ。
それと同時に、失ってしまう恐怖を俺は知っている。
この二人を絶対に失いたくない。
「母さんも飲んでみてよ、オキアミ酒。美味しいからさ」
「交渉には応じないわよ?」
「良いの。父さんももっと飲んでよ」
「……剣は良いのか?」
「二人に心配かけちゃったお詫びだよ」
そう言って、俺はオキアミ酒を二人に振舞った。
モナは「凄く美味しいわね~!」と言って喜んでいた。