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3.父との戦い


 大人になると、人から叱ってもらえることはなくなる。

 もちろん嬉しいことなのだが、たまに寂しくも感じる。


 だからと言って、わざと怒られるようなことはしないのだが。


 アルは家に帰ると、モナに怒鳴られていた。


「こらアルちゃん! こんな夜遅くまでどこに居たの⁉」

「えっ母さん……えーっとその」


 キョエー鳥との戦いで寝てしまった俺は、門限があることをすっかり忘れていた。 

 しかも泥だらけだ。言い訳のしようがない。


 母さんの怒鳴り声を聞いたのは久々だった。

 それでも、ちょっとおっとりした言い方だから、あまり怖くない。


「アルちゃん、その怪我は?」


 頬に出来た擦り傷を指摘される。


「えっと、木の枝に当たっちゃって」


 ムーッと言いながら、モナが俺の顔を見る。

 俺は苦笑いを作って誤魔化す。


「アルちゃん。お願いだから、危ない真似はしないで」


 そう言って、モナは俺のことを抱きしめてくれた。

 久々に感じた母の温もりに、俺は胸が苦しくなる。


 はっきりと、俺は未来の俺だと言うべきだろうか。

 これから起こる災害を話して、一緒に逃げようと言うべきか。


 ……いや、きっと逃げないだろう。

 

 俺も母さんもこの家で生まれて、この家で育った。

 大事な生まれ故郷を捨てたくない。

 

 それに今の俺は10歳のアルだ。

 母さんの前では、それが良い。

   

 俺が全部、一人で魔物の襲撃を止めてしまえば良い。


「……ありがとう、母さん」


 そこに父のガルドが現れる。


「なんだ、仲直りは終わりか? アル」

「……父さんは怒ってないの?」

「ハッハッハ! 男ってのは、ちょっと悪いくらいが丁度いいもんだ」


 父の明るい言葉に、俺は安堵する。

 父さんにまで怒られたら、どうしようかと思ってた。


「でも、罰は与えなきゃならん。明日は剣の稽古だ、良いな?」

「うっ……うう、はい」


 どちらにせよ、俺は剣術の腕はあげなきゃいけない。

 どう頑張っても、剣術だけはスキルに頼れないからな。


「そうだ、母さん。お土産があるんだ」


 玄関前に置いていた大量のキョエー鳥を持ってくる。

 モナが口を開けっ放しにする。


「……え? これをアルちゃんが?」

「うん、母さんなら捌けるかなって。一応血抜きもしてあるんだけど」


 あれ……何かまずいことした!?

 倒した鳥をそのまま放置するなんて、キョエー鳥にも失礼だし勿体ないと思ったんだけど。


 ガルドが言う。

 

「おい、アル……キョエー鳥は素早いから一匹狩るだけでも大変なんだ。特に10歳の子どもなんて、絶対に無理だ。お前、どうやって倒したんだ?」


 えっ……そうなの?

 数年前に流行った、結構当たり前な倒し方をしたんだけど……。


「オキアミの実を使ったんだ」

「オキアミの実……? あんなの、ただの香ばしい木の実じゃないか」


 あっ、そうか。この時はまだアレがなかったか。


「オキアミの実って、中身にお酒が含まれているんだ。オキアミの実をすり潰して醗酵させたりすると、これまた格別なおいしい酒に……はっ!」


 そこで我に返って口を閉ざす。


(まずい! 喋りすぎた!)


「え、えーっとね……単純に酔わせてたから、倒せたんだ」

 

 子どもっぽく、笑ってごまかしてみる。

 モナとガルドは二人で顔を見合わせて、俺に視線を戻した。


 すると、


「凄いわアルちゃん! 流石私の息子よ!」

「アル、やるな! 凄いじゃないか!」


 二人して俺のことを褒めてくれた。

 俺がなんでオキアミの実を酒の元だと知っているのか、どうでも良さそうだった。


 その日の食卓は、少しだけ豪華になった。

 

 *


 太陽の下、俺は木剣を握る。


「はぁ……はぁ……父さん、休憩させて……」

「アル、頑張れ! あと千回素振り! ほら、父さんを見本にしろ!」


 俺は今、凄く悩んでいた。


(父さんの型は綺麗だけど、俺もできる……急にできると変かなって思ったけど)


 昨日の件がある以上、誤魔化せる気がしないでもない。

 ……さっさと、別の訓練がしたい。


「ねえ父さん。俺もう、ちゃんとできるよ」

「アル、あんまり嘘は良くないぞ。父さんもちゃんと教えてやるからよく見て────」


 ガルドの言葉を遮るように、綺麗な素振りが放たれる。


「……どう? 父さん」

「…………ま、まだまだだな! 父さんには程遠いぞ!」


 俺は肩の力を抜いて、半眼で父を見た。


「な、なんだよアル……ダメだぞ! 剣に関しては父さんのプライドがある! しっかり、俺の言うことを守るんだ」


 【踏み込み】の練度も上げなくちゃいけないんだ。

 今の状態じゃ、戦闘でほぼ使えない。


「じゃあ、どうすれば認めてくれるの?」

「うーん……そうだなぁ……父さんに一撃入れる、だな! ハッハッハ! それは無理か! ハッハッハ!」


 何度も高笑いし、ガルドはアルの頭を叩く。

 

「挑戦するか?」

「……うん、する」

「良いだろう。男として受けてやる……審判はママにやってもらうか」

 

 余裕と言った表情で、ガルドは声を張り上げた。

 モナがその話を聞くと、顔を明るくて快諾してくれる。


 モナがハンカチを振りながら言う。


「パパもアルちゃんも頑張って~」


 アルは木剣を構え、姿勢を低くする。


「頑張って一撃を入れてみろ」

「うん、やってみる」

 

(俺の利点は身長と機敏な動きだ。それに父さんは油断している。そこが狙い目だ)


 今の状態で父さんとどこまで距離があるか知っておきたい。とアルは考えていた。

 正確に自分の実力を測ることで、必要な実力を逆算しようとしていた。


 モナが手を挙げた。


「よーい、どーん!」


 先に動いたのはアルだった。


「【踏み込み】」


 アルが土草を蹴り、木剣を振り上げる。

 持っている経験と知識をフルで活かし、今できることをやる。


(時間を掛けたら不利になるのは俺だ。やるなら速攻で……!)


「スキルだと……!? 【二連撃】!」


 ガルドは持っているスキルを使う。


(そう来るって分かってたよ、父さん!)


 【二連撃】の流れるような剣筋をアルは姿勢を低くして交わした。


「躱した!?」


 攻撃系のスキルは確かに強力だが、必ず同じ動きをする。一度見切ってしまえば、それほど恐ろしいスキルではない。

 しかし、それはアルに限っての話であった。


「ここだ!」


 アルが隙を突く。

 だが、直前でガルドが木剣でアルの軌道を逸らした。


「ハッハッハ! いつのまにスキルを覚えたんだアル!」

 

 言葉を返さず、アルは瞬時にガルドの背後へ回った。


(アルの奴……! 翻弄する動きが早いな! いつの間にこんな強くなってたんだ⁉︎)

 

 背後に回ったアルは、ガルドの腹部を狙い一撃を放つ。


 取った!


「甘いぞ、アル!」


 振り向いたガルドが、素手で木剣を掴む。

 

「なっ……! それはズルいよ!」

「ハッハッハ! ズルいも何もない! 勝った者が正義だ、覚えておけアル!」


 無茶苦茶な……!と言葉が出たが、アルは押し黙る。


(父さんの言ってることは間違いじゃない。戦いに、卑怯も何もないんだ)


「パパー! 卑怯よ~!」

「えぇ! ママまで言うの!?」


 ガルドはぐぬぬ……と言いながら、木剣から手を放す。

 アルは勝負を再開しようと思ったが、ガルドが首を横に振った。


「アル、【踏み込み】で俺の攻撃を誘い、背後を狙ったか?」

「うん。それしかないかなって……」


 ガルドはアルを見たまま、数秒ほど黙った。


「まったく、合格だ。俺の手元から離れるのがこうも早いと、寂しいな……」

「本当!? ありがとう父さん!」


 アルはそのまま木剣を持ったまま森へ走り出す。


「パパ、本当に良いの?」

「あぁ……良いんだ」


 ガルドは木剣を防いだ手を見る。

 未だに衝撃で少し震えて痺れている。


(……子どもの攻撃なのに、こんなに衝撃が強いのか? いや、あれは間違いなく、研ぎ澄まされた剣筋だった)


「なぁママ。想像以上に俺たちの息子。アルは凄い奴になるかもしれないぞ……!」


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