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1.過去へ


 この世界には数千個ものスキルがある。

 組み合わせ次第では無限の可能性があり、スキルを持っている人間ほど強いと言われていた。


 だが、黒髪の男アルはたった3つのスキルを極め、SSランクの魔物【怨炎の大魔女(エルダーリッチ)】を討伐した。


 【怨炎の大魔女(エルダーリッチ)】の根城であった廃城で、アルはため息を漏らす。


「……もっと違うスキルがあれば、楽に倒せたはずだ」


 この世界では、スキルを獲得することができるのは18歳まで。


 これまで、この世界ではスキルは神聖なもので、運命によって神から授けられる物だと思われていた。

 だが、スキルの取得条件なども発見されたことで、人々は次第にたくさんのスキルを持つのが当たり前になった。

 そのことが発見されたのはつい最近のことで世界は大きく発展していった。

 

 それに比例するように魔物の数や強さも上がり、スキルが3つしかないアルは『落ちこぼれ』『時代遅れのおっさん』などと揶揄されて馬鹿にされていた。


 【怨炎の大魔女(エルダーリッチ)】の死体が腐り始め、徐々に球体が姿を現し始める。

 

 過去に戻れたら、なんて何度も考えた。

 『あの時に、もっとこうやっておけばよかったのに……』と何度も自分を責めた。


 もっと頑張っていれば、もっと勉強していれば。


 気付けば、そんな考えが頭の中をぐるぐると回っていた。

 そんなことに、おっさんになってから泣くほど悔しいとは思ってもいなかった。

 

 人生をやり直したい。


「頼むぞ……」


 アルは手を伸ばす。


 【怨炎の大魔女(エルダーリッチ)】は時魔法や重力魔法を操る魔物だ。 


 そのため超低確率で、過去に戻る魔石をドロップするかもしれないと言われていた。


 その名も【時空間魔石】。


「来い……【時空間魔石】!」


 しかし、それが確認されたのは数百年も前のこと。冒険者の間でも、ただの伝説で作り話だと言われていた。

 だが、アルにとっては藁にも縋る思いで討伐した。

 

 時代に取り残されるのが怖い。周りから馬鹿にされ、一人で歳を取っていくのは嫌だ。

 俺の我儘だって分かっている。


 でも、昔に戻れるのなら、恥ずかしい失敗や後悔していることを二度と起こさないようにしよう。


 決意したアルは虚を突かれる。

 突然、アルのことを虹色の輝きが包んだ。


 *


 アルは小さな村で生まれた。

 父は元冒険者、母は農民とどこにでもある家庭で生まれ育った少年だった。


「……へっ?」


 ふとアルが、そう声を漏らした。


「母さん……?」

「ん? なに? アルちゃん」

「い、いや! なんでもない……」


 目の前には両親がいる。

 偽物じゃない、本物だ。


 今は……朝食の時間だ。

 部屋にあるある鏡を見て、


「若返ってる……」


 アルは34歳のおっさんから、10歳の自分に若返っていた。

 

(俺はさっきまで、過去に戻れたらって後悔して……ドロップ品を確認してたら……)


 そこでアルはようやく思い出した。

 

(過去に戻れたのか!)


 背筋から沸き上がるように、顔が徐々に微笑みに変わった。


「やったー!」


 大声にして叫ぶと、とめどない喜びが溢れ出す。

 すると、俺の視界に黒髪の胸が大きい女性が入ってくる。


「あらあら、アルちゃんは朝から元気ね」

「あっ、ごめん」


 静かに座る。

 目の前には俺の母さん、モナだ。


「母さんだなんて……ママって呼んでたでしょう? もう、アルちゃんったら」

「マ、ママって言ってたのは5歳までだろ⁉」

「私にとってはアルちゃんは10歳でも30歳でも、5歳みたいなものよ。私の大事な息子なんだから」


 そう言って、モナは俺の額にキスをする。


「怖い夢でも見た? ママにはちゃんと言うのよ?」

「う、うん……分かってるよ」


 素直にそう言うと、モナが目を丸くした。

 モナはぶつぶつと「いつもはキスも嫌がるのに……反抗期は終わったのかしら……」と言って席に着く。


 近くに居た父、ガルドが言う。

 母と同じ黒髪で、笑うと皺が寄って村の中では好かれていた。


 元々は冒険者だったが、足をやられたことで引退し、今は村の護衛として働いていた。


「ママ、今日は帰るのが遅くなる。近くにEランク魔物が出たらしい、放置はできない」

「あら……えぇ、分かったわ」


 そう言って、ガルドは俺の頭を撫でる。

 俺の目の前でクシャっと笑顔を作った。


「アル、ママのことを頼むぞ? ちゃんとお前が守るんだぞ、男同士の約束だ」

「分かってるよ。父さんこそ、気を付けてね」

「あぁ、行って来る」


 ガルドが家を出る。 


 俺は静かに、俯いた。

 そしてズボンに皺ができる。


 正直なところ、久々に会った家族に嬉しくて泣きたかった。

 俺の未来では、父さんも母さんも生きてはいない。


 泣くのを我慢する。


(この村は、一年後には滅ぶんだ)


 感動で泣くことは後からいつだってできる。

 泣くために過去に戻った訳じゃない。


 小規模な魔物の群れが襲い、俺だけが生き残った。


 父さんが命がけで隣の村まで抱いて逃がしてくれたからだ。

 出血の酷かった父は死に、母は魔物に嬲り殺された。


 スキル……俺にはこの時代じゃ誰も持っていないスキルの知識がある。


 スキルを取ることができるのは18歳までだ。それ以降はどんなに頑張ってもスキルを得ることはできない。

 今の俺は10歳だ、スキルを取得することができる。

 

「ご馳走!」


 朝食を取った俺は、未来の俺が持っていたスキルが使えるかどうかを試したかった。


「よし! ちょっと裏庭で遊んで来る!」

「あらまぁ~、子どもらしくて本当に可愛いわね~」


 もちろん、嘘である。

 遊ぶ余裕なんかないんだ。


 この村は一年後に魔物に襲われる。

 あと一年しかない。


 そのことを話しても、誰にも信用してもらえないだろう。

 俺は子どもで実力も実績もないから、村の人々から嘘だと言われて終わりだ。


 目標はこの一年で誰よりも強くならないと、両親を救えないということ。


 まずはあのスキルを確認しよう。俺がおっさんだった頃に極めたスキルが使えるかどうかだ。

 家の外を出て、裏庭で準備する。


 腰を低くして、息を吐いた。


 スキル、発動────。


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