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血濡れの王道  作者: 雨兎
3/12

#2 誓い

「……………………っうう、朝か」


朝を知らせる頭痛に頭を抱えながら永徒は起き上がる。今日はいつもより頭痛がひどく感じられ、それどころか疲労もまだ解消出来ていないらしかった。というのもソファで一夜を過ごした為、充分な睡眠をとれていない。ベッドで眠ることが出来ればこの疲労感もなかったことだろう。そう、ベッドで寝ることが出来たのなら。




「………………部屋、荒らされてないといいけど」




自室に行くのを後にし永徒はリビングへと向かった。そして、永徒はダイニングテーブルに腕を組んでイライラ全開で座っている自分の部屋を奪った張本人の元に行きため息をつく。



「……………お陰でよく眠れてないんですが」



「へぇ、それはよかったわね。それより朝食はまだ?どれだけ主人を待たせたら気が済むのかしら。わかったら早く準備して頂戴。でないと早朝から血飛沫が上がるわよ」



「………………………………………………………へぇーい」




部屋を乗っ取った張本人にして亜喰永徒の主人、ロリアは早朝からご機嫌斜めだ。あまりにも理不尽すぎる殺害予告を出されたが死にたくないので永徒はふらふらした足取りでキッチンへと向かった。



今思えば、目の前にいる少女が吸血鬼などとは思えなかった。外見はただの少女にしか見えない。が、昨夜の出来事を振り返ればその考えも霧散する。





─────────そう、あの紅い月の夜。














「……………げ、下僕?」



「そう。私を助けようとしたその勇気、人間にしてはよくできていた。だから私の下僕にしてあげるって話よ」



「分からない。今のこの状況も、あの怪物も、お前の言っていることも全部だ。本当に、何なんだよ………」



永徒は頭を横に振り、がくりと膝をついた。この場で起きた事、全てが理解出来ない。人は怪物に食い殺され、怪物は少女に串刺しにされ、少女は自身に下僕になれと命じて。悩乱は次第に恐怖へと変わり全身の震えが止まらない。目の前の少女でさえ、直視することが出来ない。その様子に、ロリアは永徒のそばに近づき下がった顔を掴みあげると真っ直ぐに永徒の眼を覗き込む。






「あなた、本当にいい眼をしている。あらゆる全てが灰色に映る世界は、さぞ退屈でしょうね」






ロリアは踵を返し、紅い月を見上げる。届かぬ紅月に手を伸ばし、その美声で謳歌するように語る。





「私はこの世界が憎くて仕方がない。残酷で、醜くて、どうしようもないこの世界が嫌い。私の居場所も、大切なものも、あらゆる全てを奪ったこの世界が嫌い。だから私は滅ぼす。全てを奪った世界への復讐こそが私の望み。私の望みを邪魔するやつは皆殺す。神だって、─────運命さえも殺してみせる」




彼女は憎悪に満ちた瞳を輝かせ、世界への復讐を誓う。ロリアから感じる憎悪と怒りは素肌で感じられるほど凄まじかった。それなのに永徒は複雑な感情を抱いていた。言葉には表せない複雑な何かが心の中にわだかまりを作っていた。





「………………俺も、この世界が嫌いだ。平気で嘘をつくし、平等平等って偽善者ばっかだし、同族で争いは起こすし、本当に生まれた世界を間違えたよ俺は」



「…………共感して欲しくて言ったわけではないのだけれど」



「共感とかそういうんじゃないけど、なんか似てるって思ったんだよ」



「気持ち悪いこと言わないで頂戴」



「…………ごめん」




複雑な感情、それは初めて覚えた親近感だ。




誰とも接する事無く、距離を置いて生活を送ってきた永徒には不思議とそれが嫌ではなかった。自分が思ったことを誰かに話すことの爽快さは、永徒にとっては複雑ながらも清々しい気分だった。



「それじゃあ、あなたの家に向かうわよ。案内しなさい」


「本気で俺下僕するの…………?」



「当たり前でしょ。あなたに拒否権はないわ」



「なんて理不尽な…………」



こうして、亜喰永徒と吸血鬼の少女ロリアとの同居生活が始まったのである。











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