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血濡れの王道  作者: 雨兎
1/12

#0 紅い夜の日


手が握られている。



強く、強く、強く、決して手放さないようにと手が握られている。



男に手を引かれながら、必死に自分の小さな足を動かす。気を抜けば、今にもドレスのスカートに足を掬われそうで。



見慣れた城内の廊下は荒れ果て、今にも崩れそうでいる。火炎があちこちに、紅い華を咲かしている。



熱い。額に汗が滴る。火炎の熱が、小さい身体から体力を奪っていく。それでも足が止まることはない。長い廊下を渡り、鉄の扉の前に着くと、大きい音と共に扉は開かれ、地下に続く階段が現れる。次々に灯火が地下への道を照らし出す。



階段が途絶え、石室へと出る。部屋の真ん中にはひとつの棺桶が置かれ、地面には巨大な術式のようなものが描かれていた。



男は自分の方に振り返る。


苦しそうで、今にも泣きそうな、そんな顔をしている。口からは血が溢れ既に体は限界を超えていたようだった。





自分の身長に合わせかがみ込むと男は自分の頭を撫で、包み込むようにそっと抱きしめた。そしてそのまま抱きかかえると棺桶の中に私を閉じ込めた。










その時の私は、その状況について何も理解などしていなかった。






ただ、覚えているのは。











─────泣きながら、ひたすらに謝りかける父親の姿だった。




















「…………………っづ、ぁ」



午前六時三十分、一日の始まりはこの煩わしい頭痛から始まる。カーテン越しに朝日が差し込み白いシーツを淡く照らし出す。床に足をつき、寝室を出るとリビングにへと向かう。テレビの電源を入れ朝の情報番組が液晶画面に映し出される。キッチンに置かれた食パンを袋から取り出し口に頬張る。食べ終え、制服に袖を通す。歯を磨きながら鏡に映る自分の姿を見る。漆黒の伸びた前髪が視界をちらつかせる。所々に髪がはねているが面倒なのであえて目を瞑っておく。革靴を履き学生鞄を手に持つと気だるげに、亜喰永徒あくらえいとは家を出た。









──────灰色。






彼の人生を言うのであればこの言葉以外に合うものは無い。何気なく学校生活を送り、何気なく時を過ごす。友人と呼べる者はいないし、作ろうとも思わない。生まれた時から独りだったのだ、これからも独りでいいじゃないか。独りだったから、こうして生きてこられたんじゃないか。今更彩る必要もない。ただこの毎日を送ることが出来ればそれで十分だ。


こんな自分だ、きっと他の人にも迷惑をかけてしまう。干渉せず独りでいることが皆にとっても、自分にとっても一番なのだ。


そう、そのはずなのだ。









放課後、永徒はすぐに自宅へと帰宅した。マンションの階段を登り自分の部屋がある階層へと向かう。部屋の扉の前に立ち、鍵をズボンのポケットから出す。解錠し戸に手をかけようとしたがふと、後ろが気になり扉に背を向けた。後ろには美しい夕焼けの空が広がっている。今日もまた何気ない一日が終わったことを実感し永徒は家の中へと入った。



永徒は食事を済ませソファに腰掛け一息ついていた。少し甘味が欲しくなった永徒はマンションのそばにあるコンビニへと足を運んだ。夜というのもあってか店内はあまり人がおらず静けさがたちこめていた。バニラアイスのカップを手に取りそそくさとレジへ向かった。片手に袋をぶら下げ夜の街を歩き家に帰っている時だった。




女性の叫び声が、すぐそばにある裏路地の向こう側から聞こえた。




それも断末魔に近しい絶叫であった。固唾を呑み、手には汗が滲む。自分には関係ない、それは分かっていた。しかし、ここで見捨ててしまうことが永徒には我慢ならなかった。恐怖に足を震わせながらも裏路地の方へと向かう。塀の角際に身を隠し、恐る恐る顔を覗かせる。そして、その場で起きていた光景に思わず目を逸らしてしまった。とても見るに堪えない惨劇であった。






得体の知れない怪物が、女性の遺体を頬張っているではないか。






じゃぶり、じゃぶりと血肉を貪るような鈍い音が響く。その遺体が人間であったことすら分からないほどに肉塊と化していた。骨の軋む音、血を啜る音、臓物が潰れる音が永徒に更なる恐怖を与える。と、急にぴたりと音が止み静寂が生まれた。もう去ったのだろうか。再び怪物の方へと見やる。






あったはずの遺体は無く、怪物の大きな単眼はこちらを見つめていた。






蛇に睨まれた蛙の如く体は恐怖に怯え声を出すことすら叶わなかった。その瞳を爛々と輝かせ、不気味な声をあげながら襲いかかってきた。この怪物に喰われる、そう悟った。





その刹那、真上から怪物めがけていくつもの剣が突き刺さり地面にたたきつけた。





怪物は串刺しになりながら呻き声を漏らす。が、再び剣が降り注ぎ頭を潰されぴくりとも動くことはなかった。腰を抜かしただ唖然とする他なかった。目の前で起こっている事に未だに脳内の考えが追いついていない。




「─────手を煩わせるなんて、不愉快極まりないわね」





背後から声がした。




冷たくも、どこか聞き惚れるような少女の声が。
















─────振り返るとそこには紅の瞳が妖しく光る、黒の少女がいた。














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