第一話 転生
目線に雲があるというのは新鮮なものである。
そもそも、雲とはただの水蒸気のはずなので、当たれば水滴まみれになるところなのだが、ご覧の通り、草原を低空で浮遊している。
「何処だよここ」
草原に建てられた白い東屋に入り、腰を下ろし、草原の先に目をやる。
澄んだ青い空と、太陽を燦々と浴びているにも関わらず涼しい気候が身体をつつんでいる。
「まさに天空園庭、語呂が悪いな」
自嘲し、再び腰を上げる。
石畳が続く先を歩けば、草原の中、そびえ立つ宮殿。
それはバッキンガム宮殿を思い起こす金細工と白石の建物、しかし、その後ろに見える屋根を発見し、宮殿が目に見える大きさでないことを悟る。
門は簡単に空き、玄関の扉も難なく開けることが出来た。
「この大きさの宮殿をどうしろと」
階段から4階までしかないと見て、2階に上がる。
2階にの窓から外を眺めれば、大きな中庭を眺めることが出来た。
その奥に、同じ様な宮殿がある。渡り廊下で繋がっているが、その距離を歩く元気はなかった。
2階の中央、階段眼の前にある部屋には執務室と書かれた部屋がある。
開けて中に入ると、シンプルな大きい机の端にセットで取り付けられている、テレビと4つのレバー。
そのどれもが、アメリカ飛行機式のレバーだ。
中央にはこれ見よがしの電源ボタン。
「押さないことには始まらんか」
ボタンは、PC電源の要領で押すと、PC電源のように、テレビが付き、シャンデリアが光を放ち、ようやく部屋が明るくなった。
モニターは、パスワード入力を要求された。
「これパソコンのパスワードか?」
いくつかのパスワードを確かめると、何故か、アイパッドの方のパスワードが使われていた。
「趣味が悪いな」
不機嫌に眉を潜めつつ、レバーでカーソルを動かし、デスクトップに映るいくつかのソフトウェアを確認する。
中には、カメラ映像が移り、森林、屋敷、牧場、そして地上の映像が映る。
「牧場は誰が運営するんだよ」
家畜等を飼ったことがない俺にどうしろと。
「地上から雇うか」
早々に人を必要とし、ため息を吐く。
地上をカメラで追うが、景色がカメラの範囲以上に動くことはなかった。
「静止してるのか?」
驚きに目を見張り、四方八方にカメラを向ける。
どうやらそのようだった。
「とりあえず、動かすか」
速力が書かれたレバーを回し、方向を別のレバーで設定。
このそらとぶ宮殿は、前進し始めた。
「マジか、これはすごい」




