煉獄のヴィネリア 2
死隷縛呪
死者を操るスキルだ。
シノンの森で衛生兵が魔族に噛み付いたのも、このスキルの効果だった。何度も確認するような時間はなかったけれど、上手く行った。
「ヤマト様…やりましたね!」
「いいや。まだだ、これだけじゃ兵士達の手から逃れられない」
「それじゃ、一体どうしたら…」
「だから、こうする!」
光り輝く右手を真っ黒な灰にかざす。
「ヤマト様!それは!」
その灰はゆっくりと人の形をなし、銀髪の魔族は息を吹き返した。
「ヤマト様!正気ですか!魔族ですよ!?」
「これしかないんだ」
やがてヴィネリアはゆっくり起き上がった。
「このあたしが…こんなガキがあたしのマスターかい・・・」
「ヴィネリア。早速で悪いんだが撤退を命令してくれ」
「な、なるほど!」
これで3万の魔族は撤退する。戦争自体はもう終わってるわけだし、もしも皇女を死んだ事にできれば追ってを向けられることもなくなる。
エルダー山脈の頂上でヴィネリアは声高々に叫んだ。
「あたしは一生こいつについて行く!」
!?
ざわざわ…
「待て!その言い方はおかしい!」
「残念だが、あたしは心も体もこいつの物になっちまった。お前らは適当に散れ!」
「おいぃぃぃぃ!だから言い方おかしいって!」
。。。
オルディア王国を滅亡させた魔族の英雄ヴィネリアの軍隊は1夜にして消滅した。その真意を知る者はごく僅かだったが、その真意こそ魔王軍に激震を走らせるものだった。
英雄ヴィネリアの裏切り!
オルディア皇女は健在である!
同胞の裏切りに激昴した魔族たちはヤマト達の目論見とは裏腹に、ヴィネリアの痕跡を辿って多くの軍隊が強烈にこれを追撃する事になる。
。。。
「なるほどねぇ。あんた縛呪がどんな物か知らないんだな?」
ヴィネリアが艶やかな笑みを浮かべた。魔族ではあるが銀髪と赤い瞳には妙な色気を感じる。顔立ちも良いのだ。
死霊縛呪は死者を操るスキルである。
難しいポイントなのだけど、死体を操るわけじゃない。死者を操るのだ。大きな違いは死者本人が自我を持つという事。そして能力者の意思には逆らえない事。
隷奴契約は数ではなくて容量。
強力な存在とは多くは契約を結べない。逆に小動物などはたくさん契約を結ぶ事ができる。逆に自分自身の容量さえあればいくらでも…といった具合だ。
そして距離。契約者は能力者から離れれば離れるほどに本来の力を失い、やがては契約が解除される。つまりは死体に戻るというわけだ。
「ヤマト様。これからどうするつもりですか?」
「そうだな…」
とりあえず、俺達の居場所がバレてる以上、ここに留まるのは危険だ。強力なドラゴンやワイバーンがいても軍隊を集結されては逃げ切れない。
安全かつ、見つからない場所がこの大陸にあるのか?
「魔族が立ち入れない場所なら知ってるぜ」
「え?」
ヴィネリアが不敵な笑みを浮かべた。