シノンの森 2
間一髪!
レナから体を離したその隙間を縫うように長剣が一閃する。
まずい。俺はまだ自分の能力がどんな物なのかさえ、よく分かってないのに、いきなり戦闘じゃ戦えない。それにレナだってどう見ても非戦闘員だ。そして素手で敵う相手じゃないだろ!
死隷縛呪
呪文が頭に流れ込んでくる。これが俺の異世界スキル!
しかし一体どんな効果なのか、全くわからない。けど使うしかない!
振りかぶる魔族にスキルを発動する。
暗い森に眩しいほどの閃光が炸裂した。した。だけ。
特別なにも起こらなかった。
「ビビらせるんじゃねぇ! 人間が!」
いきり立った魔族が長剣をかかげる。
あ。ダメだ。もう俺死んだ。
また死ぬのか。
思ってたよりずっと早かったな。この異世界に召喚されて数時間かよ。でもまぁいいや。どうせ絶望的な異世界だ。つぎ頑張ればいいや。ごめんなレナ。やっぱ無理だった。お前もさ、国とか民とか色々大変だろうけどさ、つぎ頑張れよ。14人目にかけようぜ。
って、次なんかねぇよ!ばかやろう!!
俺が死んだら次はレナの番じゃねぇか!
ぎりぎりのところで剣撃をかわした。でも体勢を崩された。次は避けれない。魔族は長剣を低く構えた。見るからに横なぎの構えだけど、わかってても避ける技術なんてない。
「ぎゃあ!」
魔族が短い悲鳴と共に構えていた長剣を地面に落とした。なぜか。なぜかは分からないが首だけになっていた近衛兵が魔族の腕に噛みついた。噛みついたというより、噛み千切った。何が起こったのかは分からないけれどチャンスだ。俺は間髪入れず落ちた長剣を拾う。剣なんてまともに持った事もないし振った事もない。思った以上に重みを感じる。
俺は思い切り長剣で魔族の腹部を突き刺した。
嗚咽を漏らしながらその場にうずくまる魔族を尻目に、レナの手をとって駆け出した。
「早く!」
騒ぎを聞き付けて魔族が集まって来るに違いない。全力で森を駆け抜けた。木々のざわめきが心を不安にさせる。灯りもないまま闇雲に走った。いつどこで魔族が飛び出してきても不思議じゃない。むしろ来るのではないか。そんな気さえする。
夜が明け、辺りが白んできた頃ようやく森を抜けた。
眼前にそびえ立つエルダー山脈は聞いていた以上に広大で、さすが大陸の果てと思わせるには十分な大きさだった。飛竜の住まう山。人間はおろか魔族さえも踏み込めない絶対領域だ。