貿易港ランドール
一瞬それを海だと思った。
辺り一面に水面が広がる。これが川だと言うのか!
果てしなく広がる水平線に唖然とした。川なんだろうけれど向こう岸なんて見えない。これじゃ船で大河を渡るというのは一種の航海なんじゃないか。おそらく魚類型のモンスターもいるだろう。これを渡るのは相当危険で覚悟がいる。
「それじゃ行くか!」
おもむろに服を脱ぎ出すヴィネリア。
「な、何やってんだ・・・?」
「何って・・・大河を渡るんだろうがよ。泳ぐんじゃねぇのか?」
「泳げるか!」
確かにその発想はなかったけれど、もちろん無理だ。しかし大河といっても所詮は川だし、適当に筏でも作って渡れるんじゃないかと思っていたが、これは完全に誤算だった。どう考えても本格的な船が必要になってくる。とはいうものの、そんな物作れるわけないし調達できそうな場所もない。となれば・・・。
「やっぱ泳ぐか!?」
「冗談ですよね!?ヤマト様!」
「はは・・・は」
気付けば遠くに街が見える。よく考えればこれだけの大河だ。様々な街からの貿易船も来るだろうし漁港もある。あそこならば船の用意があるかもしれない。何も譲ってくれというわけじゃない。対岸への船に乗せてもらえばそれでいいのだ。しかしこんな場所に街があるならば、レナも教えてくれれば良かったのにと思う。
「ヤマト様。あそこは・・・」
貿易港ランドール
そこは戦火を逃れ無傷で残った街だ。いや正確には戦火が逃れた。だ。
ランドールはオルディア王国の領土内にあって、唯一その自治権を持ち自立した街だ。当然オルディア兵士の駐屯は許されないし、自らの街に私兵団を持って秩序を保っている。なぜここまで力を持つのかというと、もちろん貿易拠点として財力もあるが、一番の要因は宗教だった。500年前の開放戦で姿を現したという大河の主レビヤタンを崇拝する統一宗教がこの地に根深く根付いている。
開放戦によって荒れた大河の怒りはレビヤタンとなり、人間も魔族も全て飲み込んでいったのだとか。だから今回の魔族の侵攻もランドールを避けて進軍されたのだ。そのレビヤタンは神として崇められているが、その正体が魔族だったのか魔物だったのか人間だったのか。それを記す物は残されていない。
しかし、それでもなお。ランドールは主レビヤタンに護られ、街に危険が及ぶその時は仇敵を滅ぼすと言われている。そしてそれはランドールの宗教内だけでなく、大陸全土に知られるものだった。
つまり、レビヤタンは間違いなく実在した。
「でも、それだけだろ?何か問題でもあるのか?」
「ランドールの民は・・・その・・・」
レナが少し言いにくそうに言った。
「危険です」