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絶望から始まる異世界転生  作者: 鎖
第1章
14/19

森を抜けて


20年前。

オルディア国境付近。




「大臣も物好きだな。魔族だなんてよ」

「王都じゃ魔族なんて珍しいんだろ」


しんしんと雨の降る中、国境付近の小屋にその兵士達はいた。


「どうか娘だけは見逃して下さい!」


そして、魔族の母子が目隠しと手錠をされて捕らえられていた。当時のオルディア王は魔族との接触は禁止していたものの、一部の闇業商として奴隷や魔法の研究に使われていたのは事実だった。それはかつて魔族に虐げられていた人間の恨みもあってか、目をつぶられる事も多かったためか取り締まり自体も徹底されたものではなかった。


「おい。小さい方は殺していいんだよな?」

「バカ。何言ってんだ。親の方だよ。娘は殺すな」

「は?大臣って、そういう趣味なのかよ」

「早くしろ。これも仕事だぞ」


兵士は手馴れた手付きで剣を引き抜くと母親に迫った。


「お、お母さん・・・!」


兵士の剣が母親を肩から腰まで切り裂いた。血が噴出し小屋に生臭い血の匂いが立ち込める。兵士は母親の死体を蹴って部屋の隅まで追いやると、少女の前に腰を下ろした。


「大臣に献上する物だしよ。やっぱ毒見が必要だよなぁ?」


そう言って兵士がズボンに手をかけた時、突然、小屋のドアが開きローブを纏った剣士がそこに割って入った。振り向く兵士は剣を抜く間もなく、その首と胴体を切り離された。あわててもう一人の兵士が切りかかる。しかし、それを紙一重で避けると兵士の剣を握る腕を一太刀で切った。


「か、勘弁してくれ。命令されただけなんだ・・・」


それを言い終わる前に兵士の胸を剣が貫く。


「お前を助けようとしたわけじゃぇよ。人間が嫌いなだけさ」


そう言って剣士はフードをとった。




。。。。。。




「おい。大丈夫か? うなされてたぞ」

「・・・お姉さま・・・あの日の夢を見てました」


エルフの森から脱出した俺達は東へ向かっていた。もちろんシーディスの遺言どおりに、この先の大河を渡ろうとしているのだ。しかし、ミレットや俺の体力も限界で廃墟と化した村の一室を借りて休んでいるのだ。多少汚れてはいるものの、頑丈な作りだったのか家自体はそこまで損害はなかった。


「勇者。なんでこいつを殺さない?こいつに里は滅ぼされたんだぞ」


ミレットが吐き捨てるように言う。その気持ちは当然だ。それはミレットだけじゃなく、オルディアの城を直接攻撃したのはヴィネリアで、レナも同じような気持ちでいると思う。しかし俺には、いや俺達には強い味方が必要だ。これまで何とか切り抜けられたのも、ドラゴンやヴィネリアの力があってこそだ。残念だけど俺自身には魔族と戦う力なんてないんだ。


「下衆家畜野郎・・・お前を殺して、お姉さまを取り返します」

「いや、そんな体でやめとけよ。それに俺を殺したらヴィネリアも死ぬぞ」


今ここにいるヴィネリアは死隷縛呪で魂をつないだ不安定な存在だ。俺が死んでスキルの効果がなくなれば、そのまま朽ちていく。本物の彼女はもう死んでいるのだ。


「でしたら。私もお姉さまについて行きます」

「いいのか?あたしはもう死んでるんだぜ?」

「私は心も体もお姉さまの物ですからっ!」

「い、いや体はいらんっ」


俺達の傷は思ったより深く、しばらく動けそうになかった。考えれば当たり前なんだけれど、当然俺はただの人間でフラウスに殴打されたダメージは簡単に抜けそうに無い。それはミレットも同じで昨日の今日で斬られた傷は塞がらない。このまま大河を横断するのは無理だ。でもヴィネリアだけはすでに体の傷も癒え、普段通りの体調だ。本当に強いんだ。


シノンの森から始まり、エルダー山脈、エルフの森と魔族に追われながら、ここまで逃げて来れたのは奇跡としか言いようがない。そして、ベットで眠れるのは異世界にきて初めてなんじゃないだろうか。そんな事を思いながら俺は眠りに落ちた。




。。。。。。




寝苦しさに目が覚めた。まだ暗いものの夜明けの光がうっすらと部屋を青く染める。フラウスに殴られた傷が痛むのか右腕に違和感を感じる。寝返りをうつと俺の右腕にレナがいた。何でここにいるのか! と、そんな事は分からないが寒かったのかもしれない。なるべく起こさないように右腕をそっと引き抜こうとするも、これはこれで難しい。


しかし。。


レナの顔をまじまじと見るのは初めてかもしれない。シノンの森から修羅場をくぐり続けるだけの日々だったから。少し幼い顔立ちをしている、まだ18歳そこらなのかもしれない。現実世界でいうとまだ学生だ。そう思うとちょっと気の毒に思うと同時に、すごい女の子だなとも思う。世界が違えばまだ趣味や恋愛、色々と好きな事をしているだろうに。ふわふわした髪や透き通るような肌は、俺みたいな奴でさえ気品を感じる。


俺が召喚されるまで12人の勇者を召喚して戦地へ送り込んだオルディアの姫。そのスキルはきっと戦地で戦う兵士達の希望。いや国民の希望だっただろう。勇者が死んでいくのはレナのせいではないにしろ国の期待を裏切る形になったのだろうか? そして召喚した勇者を戦地。いや死地に送り出すのはどういう気持ちだったのだろうか。たぶん俺には想像もつかないほどのプレッシャーと悲しい気持ちを感じてたに違いない。仇敵であるヴィネリアと一緒に行動できるのも、その先にある僅かな希望に縋っての事だろう。


「・・・大したお姫様だな」


俺はそっとレナの頬を優しくなぞった。

するとレナの目がぱちりと開いた。


「私ですか?」

「うおおおおおおおおおおお!?」

「きゃっ」


飛び起きた俺の右腕に引っ張られベットの上で1回転するレナ。起きていた!いつから!?いや待て。俺はやましい事はしていない!ちょっと触っただけだ。何も問題はない!


「待てレナ!俺は何もしてない!ちょ、ちょっと触ったくらいだ!」

「え」


レナは少し身を引きながら胸を押さえる。


「い、いや!そうじゃなくて、ほっぺたをだね!」


焦る俺に、冗談ですよ。とクスリと笑った。

レナの笑顔も初めて見た。そんな顔もできるんだなとか思った。俺って失礼なやつだよな。




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