追撃のフラウス 2
フラウスに追いつかれてしまった。
俺たちはとっさに身構えるものの、力の差は歴然だった。
「下衆家畜野郎。どうするんだ?」
ミレットが弓矢を構えながら言う。
「誰が下衆家畜野郎だ」
状況は最悪だ。フラウスがここにいるという事はヴィネリアが負けた。もしくは追って来れない別の理由があるという事。その理由がなんであれ、このままだと全員ここで死ぬ。
「お前、勇者なんだろう? 戦えないのか?」
そう。勇者ではあるが俺個人の戦闘能力は皆無だ。普通の一般人のそれだ。弱い魔物にも勝てないだろう。死隷縛呪のスキルを使いこなすには、俺ではまだレベルも熟練度も足りていない。
「死ねっ」
フラウスが短く叫ぶと同時に跳躍して大鎌を振りかぶった。激しい炎と共にそれが振り下ろされる。大振り過ぎてさすがに避けられる。ミレットが避けざまに矢を放った。フラウスが身を捩って避ける。体勢が整う前に弓矢を捨てて腰に帯びていた短剣を引き抜くと、素早く斬りかかった。
懐に入られては大鎌も扱いにくいのか、ミレットが優勢で常に先手を取り続けている。もしかして勝てる?そう思ったのもつかの間。大鎌が旋風のようにミレットを切り裂いた。
「つ、強い……!」
さすが魔王第1団隊副官。
可愛い顔に似合わずめちゃくちゃ強い。
俺は庇うようにミレットの前に立った。
「よく頑張ったな。後は任せろ」
「お前……どうするつもりだ?」
「ヴィネリアが近くまで来てる。分かるんだ」
俺とヴィネリアは契約で繋がっている。その位置が俺にはある程度把握できる。恐らくヴィネリアも俺の場所が分かるのだろう。まっすぐこちらへ向かっているのを感じる。
「時間を稼いでやるさ」
「バカ……お前なんて一瞬で死ぬぞ」
「やめときゃ良かったかな? トラックもさ」
「トラックって……?」
フラウスの大鎌が伸びたように迫る。
身を逸らして避けるも、二撃目はかわせない。俺はとっさにスキルを発動させた。一瞬の閃光が辺りを包む。もちろん効果があるわけじゃない。ただの目くらましだった。予想外の閃光と効果のわからないスキルに警戒したのもあり、フラウスが怯んだ。
俺と負傷したミレット。そしてレナ。誰が標的になってもフラウスの大鎌からは逃げられない。だからこの間に逃げるというわけにはいかない。俺は怯んだ隙をついてフラウスの懐へ飛び込んでいった。
「くっ……下衆野郎!?」
フラウスはとっさに大鎌を構えるも、俺の狙いはそこだ。
「うおお!」
俺は構えた大鎌を思い切り蹴った。意外にも簡単にそれはフラウスの手から離れガラリと音を立てて地面に落ちた。俺はフラウスがそれを拾うより先に、ミレットの短剣を手にすると切りつけた。しかし素早く身をかわし距離をとられる。
「フラウスもうよせ。神器はもうないぞ」
「試してみますか?家畜野郎」
一瞬で間合いを詰められた。速すぎる。フラウスの回し蹴りが胸を抉る。体術も相当に鍛えられている、考えればあれだけの大鎌を振り回せるわけで、さらにヴィネリアの副官となれば当然だ。俺みたいな素人が短剣を持ったところで敵うわけもない。
高速で繰り出される連撃で、あっという間に満身創痍になった。全身打撲と骨も折れてるかもしれない。フラウスはふらつく俺を前に悠々と大鎌を拾った。
「終わりにしましょう。下衆家畜野郎」
「ああ。お前の負けだ……フラウス」
フラウスが炎を纏う。
「この状況で私が負けるなんて有り得ません」
「いやお前の負けだよ」
「脆弱な勇者が強がっても無駄!」
爆炎を放ちながらフラウスが真っ直ぐ跳躍した。
「灰になりなさい!家畜野郎!」
フラウスは巨大な火の玉となり、加速する。
「確かに俺は弱い。最弱の勇者かもしれない。でも、勝つのは俺だ。いや俺達だ!」
俺の言葉と同時にヴィネリアが来た。遮る木々を薙ぎ倒しながら流星のような速さでフラウスに突撃する。
「フラァァァウス!!」
「お姉様!?」
とっさに大鎌を構えてヴィネリアの突撃を受け止めた。
「よくここまで来れましたね!でもその体じゃ私には勝てませんよ!?」
「バカが。さっきまでのあたしと思うな!」
フラウスの受けた大鎌をそのままに不知火を振り抜く。ヴィネリアの刀が大鎌ごとフラウスの肩を切り裂いた。その強さは圧倒的だ。
「お姉様。こ、この魔力はいったい!?」
「残念だったな。分かんねぇけど、マスターといるとあたしは力が湧いてくるんだ」
「く……あ、愛の力ですか……」
「そうだ」
……いや。違う。