追撃のフラウス 1
ヴィネリアの稲妻のような剣撃がフラウスに襲いかかる。
が、大鎌を巧みに操り打ち合う。優勢だったはずのヴィネリアの剣先が少しずつ鈍っていき、ついには押され始めた。速さも力も魔力もフラウスが勝っているのだ。
「あらあら。お姉さま。お疲れなのですか!?」
「けっ。手加減してやってんだよぉ」
魔力を帯びた不知火が一閃する。放たれた魔力が波となってフラウスを飲み込む。しかしフラウスを包む炎がそれを逸らして、ダメージにならない。魔力の差が歴然なのだ。死隷縛呪のスキルは完全ではない。能力者と契約者、つまりヤマトとヴィネリアの距離が離れれば離れるほどその力は失われ、ついにはただの屍にもどってしまう。
逆にヴィネリアは安心した。つまりヤマトは今も無事に逃げられているという事だからだ。しかしどうにかフラウスを倒してヤマトを追いかけないと、このままでは自分自身も死体に逆戻りだった。
「顔色が悪いですね。お姉さま?」
「うるせえな。今が絶好調ってやつだよ」
大鎌がヴィネリアを捉えた。受け切れず脇腹を切り裂かれる。鮮血が飛沫を上げ崩れていく神殿を赤く染めた。間一髪、不知火で防いで両断は避けたがダメージは深刻だった。這いつくばってなお立ち上がろうとするヴィネリアをフラウスの赤い瞳が覗き込む。
「ダメですよ。そこで寝てなくちゃ・・・」
流血する脇腹に蹴りを入れる。
「ぐぅ!」
「ああ。お姉さま!なんて事!早く手当てしないと!」
蹴り続けながら甘い吐息が漏れ出す。
「ああ。痛ましい。愛しのお姉さま・・・はぁはぁ」
「て、てめぇ」
「待ってて下さいね。今すぐお姉さまを誘惑したあの男を血祭りにあげて来ますから。ここで大人しく待っていて下さいね?」
。。。。。。
ふらつくミレットを支えながら森を駆け抜けた。追っ手の気配はない。恐らくこの森の迷宮が魔物の追撃を遅めているのだろう。ミレットは精神的にキテるけど、外傷もなく大丈夫だ。レナも問題ない。あとはヴィネリアが合流できれば・・・。
「お前達が来るから!」
「え?」
「お前達が来たからこんな事になったんだ!」
ミレットが俺に食ってかかる。言っている事はごもっともだ。俺達がフラウスを連れて来た事は間違いない。俺が、俺達がシノンの森で。エルダー山脈で。殺されていたなら、今日という日もエルフの里は平和だったのかもしれない。
「ご、ごめん。ミレットそれは・・・」
「お前は勇者じゃないのか!何で戦わない!?」
「・・・!」
「お前もオルディアの姫だか知らないけど、もう国はないんだろ!? お前一人が死ねば里のみんなは助かったかもしれないんだ!」
「そうですね」
「そうですね。じゃ・・・!」
バチン
と、レナの平手打ちが飛んだ。
「しっかりしなさい! シーディス様がそれを望んでいたのなら私達はとっくに殺されています。違うでしょう。シーディス様があなたに託したものは何ですか!?」
そっとミレットの掌の傷を撫でた。
「シーディス様は狭い世界より、外で自由に生きられる世界を望んだのです。そしてそれを貴女に託したのです。何をこんな所で嘆いて絶望しているのですか!? 貴女はシーディス様の。いいえ。エルフの希望なのですよ!分かりましたか!?」
「うっ・・・」
「返事は!?」
「は、はいっ!」
お姫様の強烈な活が入ったところだけど、事はそう簡単にはいかないらしい。
「見つけたわよ。お姉さまを誘惑した下衆家畜野郎」