瞬炎のフラウス
エルフ達は一斉に矢を浴びせた。
しかし鎧を着込んだ魔物はそれに怯む事なく木々を倒壊しながら進軍してくる。当たり前だが、魔族と魔物は違う。多くの魔物は知性に乏しく、動物のような存在だ。これに魔族の甲冑を着込ませたこの用兵術こそ、オルディア王国騎士団を壊滅させた魔王軍の主力部隊で、エルフの弓程度で怯む事はなかった。
。。。 。。。
「間もなくここに到達され・・・ひっ」
ヴィネリアはすでにボロ雑巾のようなエルフの胸倉を掴んで引きずり起こした。
「そうされないようにするのが、お前らの存在理由だろうが!」
「しかし・・・敵の指揮官も鬼のように強くて・・・ってか誰!?」
「相手の指揮官はだれだよ?」
「フラウスという巨大な鎌を持った魔族です!」
ヴィネリアは掴んでいた手を離すと、ばつが悪そうに頭を掻いた。
「知り合いなのか?」
「ああ・・・うん。まぁ・・・あたしの副官だ」
副官。つまり同じ団隊にいてヴィネリアの部下だったわけだ。
「あいつはちょっと・・・なんていうか・・・」
言葉を濁しているうちに神殿が大きく揺れた。
「伏せろぉ!」
ヴィネリアの叫びとほぼ同時に、一瞬空気が止まった。いや何かが空を切った。神殿を支える支柱が斬撃によって横一閃に横断された。地鳴りとともに支柱が崩れていく。舞った砂埃の中に何者かの気配を感じる。
「見つけました。裏切りもの」
「フラウス・・・待ちなよ」
巨大な鎌を持った魔族。でも女だ。栗色の髪がおしゃれに巻かれているが、燃えるような瞳は強力な魔力を持つ証だ。となればヴィネリアと同等かそれ以上の力があるのかもしれない。
「どうして裏切ったの!? お姉さま!」
フラウスが一瞬で間合いを詰めて巨大な鎌を軽々と振り回す。抜刀したヴィネリアがそれを受け止める。
「しかたねぇだろ。あたしはこいつの物になっちまったんだ」
そう言って俺に視線を向ける。
「貴方が私のお姉さまをたぶらかしたのね?」
「まて! 違わないがそれは違うぞ!?」
フラウスの鎌を振り回す手にいっそう力が入る。
「どいてお姉さま! 今、こいつを殺して解放させてあげます!」
「よせ! あたしはもう引きかえせない所まで来てんだ!」
まてまて。言い方がおかしい。
「そこまでこいつに・・・!?」
「そう。こいつと離れるとあたしは生きていけないんだ」
「おまっ! 誤解を招くような・・・!」
ヴィネリアの言葉にフラウスは火がついた。というか本当に体に火がついた。体全身を炎で纏いむせ返るような熱気がエルフの神殿を包む。息をするのも苦しい。これがフラウスの魔力か。
「ソロモンの神器! 女王殺しの大鎌!」
振りかぶった一閃が10の刃となってヴィネリアの襲いかかる。彼女は目にも止まらぬ速さでそれを打ち落としていく。彼女の剣技はもはや絶技の域に達している。この世界に疎い俺でも分かるくらいにヴィネリアはフラウスよりも圧倒的に強かった。
「お姉さま・・・どうしてもそいつを守るのですね?」
「そういう事だよ。分かったら兵を引きな」
「私を愛してくださったのは嘘だったのですね!?」
「いや最初から愛してないぞ」
「騙したのですか!?」
激しい攻防のせいで神殿が傾きはじめた。どうやら外ではエルフが魔物の里への侵入を防ごうと善戦しているようだが、時間の問題だろう。このままじゃ俺達が来たばかりにエルフの里は壊滅する。
どうすれば・・・!?