怪盗紳士カラーヌ三世
漆黒の衣装に紅の瞳、偉大な羽ばたきと共に獲物をいただく。
——私の名は怪盗紳士カラーヌ三世。
じっちゃんの代から怪盗をやっている。
天を衝く塔の頂から町を見下ろす。
そこにあるのは、私だけの絶景だ。
「あっ、お母さん見て! カラスが電柱に止まっているよ」
あろうことか、この私を指さしてカラスとは……。
私の名は怪盗紳士カラーヌ三世。
そこらのカラスとは違うのだよ。
「そうねぇ。……今朝のゴミにネット掛けてたかしら?」
ふんっ。どうやら、ここらに私の求めるものは無いようだ。
六月特有の曇天を、黒の翼で切り裂き翔る。
——むむっ。
何やら黒服に身を包んだ集団が歩いているな。
みんな揃って陰気な面だ。こっちまで滅入ってくる。
それに黒は私の色だ。勝手に着るとは良い度胸じゃないか。
どれ、今日の獲物はやつらから頂いてやろう。
私は塔の上へと舞い降りる。
あの女が大事そうに持っている指輪なんてどうだろう。
ダイヤモンドが弱く光を反射している。
給料一ヶ月程度で買えそうな小さな輝きだが、贅沢を言っても仕方がない。
じっちゃんに教わった華麗な技を見せてやろうじゃないか。
「なんだ? カラスか!」
「ヅラに糞が当たった!」
「あっ、指輪っ!」
ふふふ。
見よこの素晴らしき早業を!
周りのおっさんが騒いでいる隙に目当ての宝は私のくちばしのなかさ。
「待って、返して! その指輪はあの人が買ってくれた物なの。少ない給料で体を壊しながらも買ってくれた大切なものなの! かえしてよぉ」
「奥さん落ち着きなさい。とられてしまったものは仕方が無いでしょう。泣いても返ってこない」
「黙ってよ! あなたのせいでしょ! あなたが無理矢理働かせるから、体の弱かったあの人は……。返してよ! 私にあの人をかえしてよぉ」
……なにやら泣き出してしまった。
仕方が無い。私は紳士なんだ。
女の涙にはどんな宝石にも叶わない輝きがあるって、じっちゃんが言っていた。
今回は涙に免じて返してやろう。
ただ、私にもプライドがある。
代わりにおっさんのヅラでも頂いてやろう。
「また来たぞ!」
「私の指輪が返ってきた!」
「わしのヅラが取られた!」
私がヅラを掴み、飛び去ったとき。
一陣の風によってできた雲の隙間から、日の光が差し込んだ。
おっさんのハゲに反射した光は、ダイヤモンドも霞むような神々しい輝きを放つ。
——まったく、私のコレクションに加えられないのが惜しい輝きだ。