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7話 「グロっ」

 ケティが食べ終わるのを待ち、また露店をぶらつく。

 今度は魔道具に関係する店がたくさんある一角に来た。ケティは魔法使いだし、この辺の説明も全部任せてしまおう。

 目についたものを指差そうとする寸前に、ケティが俺の指を掴んだ。

 やめ! いまちょっと変な方に指曲がったぁ!


「それは雷鳥の羽根ね。珍しいものだけど、見るべきはあっちにあるわ」

「……雷鳥ってなんだ?」

「でかい鳥よ」


 ケティの説明が一気におざなりになったぞ。ちくしょう。

 雷鳥の羽根は鮮やかな黄色の羽根で、サイズは30センチを越えている。光の当たり方によっては金色に見える綺麗な羽根だ。見ただけではそれしかわからない。

 ――神の知識によると、雷鳥はこの大陸に生息する魔物で、個体としてはあまり強くないのだが、常に五匹以上で行動するらしい。そのため中堅の冒険者でも、少人数の時に出会うと危険だ。

 特徴は名前にもなっている雷の固有魔法で、羽根に電気を溜めて放出することが出来るらしい。直撃しても死ぬほどではないが、しばらく動けなくなる。そして巣に持ち帰られてヒナの餌にされて結局死ぬという恐ろしい結末が待っている。しかも、しびれてしばらく痛みが無いため、食われていく自分を正気のまま見てしまうという、冒険者から恐れられている魔物のひとつだ。

 ……え、普通に怖いんですけど。グロっ。


「こっちよ」

「あ、ああ……」


 精神ダメージを受けている俺の手を、ケティが引っ張る。

 連れてきたかったのはこちらの露店のようだ。一見他の店と違いはない。俺がじっと商品を見ていると、ケティが店の主人に話しかけた。結構若い男性だ。栗色の髪に、緑色の優しい目をした男だ。年齢はたぶん俺と同じくらい……外見年齢の話だが。ちなみに、俺は壁画に在る十歳ほどの子供状態から、十六歳ほどの少年に変わっている。


「ケティ。遅かったね」

「ごめんなさいねアイク。ちょっと良さそうな人を見つけて」


 アイクとかいう男とケティは知り合いのようだ。っていうか、遅かったという言葉からするとこの二人は連れだ。

 アイクの視線が俺に注がれていたので、とりあえず首を振った。


「ちょっと、関係ないフリやめてよね。アイク、彼が……自称旅人のデニー」

「自称って何だ。俺は事実旅人だ。遠くから来た」

「はいはい、遠くからね。……こんな感じで、あんまり自分のこと言わないけど、神聖魔法の腕はなかなかよ」

「へぇ……そうなのか」


 アイクは、興味深そうに俺を見る。俺は商品に夢中なふりをして、その視線をやり過ごした。ヘタに視線合わせて、また見覚えがあるとか言われたら堪らない。


「あれ? キミ、ちょっとこっち向いてよ」

「嫌です」


 まてよ! フラグなんか立てて無いのに! なんで流れもってかれた?

 俺は俯いて、顔を見られないようにしつつ、商品を適当に手に取った。

 白くて細いヒモのようなものだ。軽くて、しなやかで、持ち上げてもピンと張ったままだ。細い棒?

 さきほどまでのノリのまま、俺はケティに聞いた。


「ケティ。これ何だ?」

「…‥クラブラットの髭ね。安価なのに魔力の通りが良い素材として有名よ」

「クラブラットってなんだ?」

「この大陸中にいる、小型の魔物ね」

「……ああ、それな。いや、ホントは知ってた。そうか、どこかで見覚えがあると思ったぜ。クラブラットね、うん。ああ、そんな感じするわ」

「ふーん。思い出してくれたみたいで良かったわ」


 俺の返答を聞き、ケティが意地の悪い笑みを浮かべる。これは、誤魔化せられない。俺は冷や汗を流さないこの体に感謝しながら、クラビラットの髭から視線を離した。大陸どこにでもいる魔物すら見たことがない、というのはさすがに怪しい。

 なるほどな、これも俺の出身地を探る伏線だったってわけかい。罠に飛び込んだ感はあるものの、恐ろしい女だ、ケティ。これなら最初から神の知識で……でも、だって……絶対面倒だもの……。


「なるほど……彼、どこから来たんだろうね」

「アイクも気になるでしょ? 見て」


 ケティがさきほど俺に魔法をかけさせた指輪とネックレスを取り出した。

 それは、大丈夫なはずだ。神官なら誰でも使える神聖魔法だし。

 俺がそれとなく見守る中、アイクが指輪を見て目を丸くした。


「ほお、いい色になってるな」

「そうでしょ。ネックレスもそうなのよ。けど彼、簡単な魔法しか使えないって言うの」

「……なるほどねぇ」


 なんだ、俺の知らない何かが相手にとって証拠になっているぞ。

 何を知らないんだ? 何を思い出せば良いんだ? くそ、こんなところでも神の弱点を発見した。

 神の知識は思い出すきっかけになる、具体的な何かが必要だ。それは目の前の人物についてだったり、単語に関してだったり、なんでも良い。

 けど、まったく関連のないものをピンポイントで思い出すことは出来ない。俺が「俺の知らないもの」を思い出そうとしても、「俺の知らない全て」を思い出すことはできないということだ。

 同時に、相手の考えていることは思い出せない。

 神の知識で分かるのは、あくまで客観的に観測できる事象と、そこから導かれる推測に限られてくるわけだ。雷鳥は魔法を使うため、危ない。そんな具合に。


 この場合、俺はケティたちが俺の「何を」怪しんでいるのかわからない。単純に「俺の実力」を怪しんでいると仮定しても、神の知識で出てくるのは俺が大精霊だという情報だけだ。


 あ。まて。色? さっき色って言ったよな。

 たしか……指輪に掛けたのは『聖別ジェネス』だった。なんでか水色に変わったんだ。それがどんな意味を持つのか、思い出――わかった。具体的な内容だとすぐに思い出せるようだ。


 神の知識によると、こうだ。

 付与魔法を行うと、その対象は付与魔法の属性によって変色を起こす場合がある。中でも金属は色が変わりやすいそうだ。さらには込められた魔法が強ければ強いほど、色の濃さは変わるという。

 そして金属は魔法と相性がよく、一度魔法を掛けると効果が強く、長く発揮されるようだ。

 金属ではない物質、たとえば人体にそのまま掛けると、変色はしないかわりに、光が発生するのだという。これは魔法に込められた魔力が、空気中にマナとして拡散する時に起きるとされている。

 キリクの実は変色せず、光って終わった。

 指輪は光がすぐに収まり、変色した。

 この差は、素材が魔法と相性が良いかどうかで分かれる。


 なるほど……つまりこういうことだ。

 ケティとアイクは、俺が簡単な神聖魔法を使ったにもかかわらず、効果が強く出ていることに気付いたのだ。ケティの場合はキリクの実の光り方だ。あのショッボイ光でも、彼女からすれば相当なものだったのだろう。

 そんなことは魔法に詳しくないと分からないため他の通行人は気にしなかったけど、ケティは魔法使いだから気付いたのだ。

 そして銅貨すら持たない俺に興味が湧いて声をかけたのかもしれない。


 たしかに、それなりの実力者なら銅貨くらい普通はもってる。

 くそ、簡単な魔法で怪しまれないと思っていたけど、総合的に知識不足だったということか。悔しい。

 こっちは神の知識なんてチートスキル使ってるのに。


 どうしろと。


「ねぇ、デニー」

「……なんだ」

「そんなに警戒しなくてもいいわ。私たち、貴方が何者かはそこまで気にしてないの。名のある神官ってわけでもなさそうだしね」

「なら何故、いろいろ探るようなことを訊くのだ?」

「あら、気を悪くしたかしら」

「こそこそ探られて、気分爽快なやつがいたら教えてくれよ」


 アイクがぷっと拭き出した。俺の物言いが可笑しかったらしい。すまない、と謝られるが、ふん、失礼なやつだ。


「……それで、俺をここに連れてきて、どうしたいんだ」

「アイク」

「うん。デニー、ここからは僕が話すよ」


 ケティがアイクを呼ぶと、彼は軽く頷いて俺に手を差し出してきた。握手だろうが……この状況で握り返そうとは思えない。なんの下心があって近付いてきたのかもわからないのだ。

 俺が動かないのを見て、アイクは苦笑しながら手を引っ込めた。


「はじめまして。改めて、僕の名前はアイク。実は僕たちは冒険者なんだ」


 そう言って、アイクは右手の甲を見せてきた。そこには何かの花の絵が描かれている。ふと視線を逸らすと、ケティが不自然に首を傾けている。ちょっと色っぽい仕草だ。その首筋に同じ花のマークが描かれていた。なるほど。


「先日仲間の回復役が怪我をしてチームを引退してしまったんだ、残念なことにね。それで急遽、腕のいい神聖魔法の使い手を探してたんだよ。チームに入ってもらおうと思ってね。君のことを無遠慮に探ったのは謝る。すまない。このとおりだ」


 アイクは宣言通りすっと頭を下げた。そのままで、続ける。


「ただ、僕たちも命懸けでダンジョンに向かっている。相手に性格的に問題がないか、確認する必要があったんだ。決して悪意があったわけではないことを理解してほしい」


 嘘じゃ……なさそうだ。

 むう、これで許さなかったら俺のほうが子供じゃないか。


「……そういうことなら、許そう」

「ありがとう、デニー」


 アイクがニコリと微笑んだ。

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