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3話 「恐れなどない」

短いです

 魔王って……強いよな。少なくとも弱くはないよな。当たり前か。

 大精霊と魔王って語感だけだと圧倒的に魔王のほうが強そうだもの。良くて互角? そんなやつとケンカしたら負ける。そして死んじゃう。食べられる?

 こわっ。イカン。それはイカン。

 直接対決はなしの方向で……でも、そしたらどうしよう。

 魔王、魔王ときたら勇者だ。けど勇者はいないって言ってたし、そもそも勇者ってあれだろ、ポンってどこからか突然現れたりするんだろ? 色違いのポ○モンみたいに唐突に出てくるんだよな、たぶん。

 ……きっと出てくるよ、都合よく間に合うから悲観すんなよ……なんて、期待するくらいならそもそも神を起こそうなんて考えないよなぁ。

 やだなぁ。勇者の代わり……英雄とか? そうだ、いっそ勇者じゃなくても――


 その時、俺の脳裏にぴかっと閃光が走った。電球もぴんっと。


 そうだ、軍隊作っちゃえ。

 ハリウッド映画ばりの、丘が軍勢で黒くなるような勢いのやつだ。数の暴力だ。単体では弱くとも、それを何百も用意すれば魔王が何だってんだ。

 犠牲は出るかも知れない。しかしこちとら人海戦術とゆー立派な文化が前世からの――


「イディア様、魔王は強力な四体の魔族を従え、恐ろしい魔法で東コルネア領の貴族軍四千を殺し尽くしました。我々の力だけでは、もう……」


 ハイしゅーりょー。終了でございまーす。

 グレゴリウスの一言によって俺の浅はかな戦略は無意味だとわかりました。

 やっぱり最強の個が欲しいようだ。単体戦力が戦況を左右する世界なんだ。ミサイルとかなさそうな世界だけど、ミサイルに匹敵する個人がいるんだ。

 これはやっぱり勇者案件だね。


 てか、そもそも勇者って何者よ。

 カモン神の知識。――ふむ。『大いなる祝福』を受けただけの一般人ですって、まじか、お手軽だな。

 また大いなる祝福は神とその眷属が授けることのできる魔法で――


 俺にもできるっぽい。


「まじか!」

「イディア様? マジカとは……?」

「……古い言葉で、恐れなどない、という意味だ」

「なんと。それは知りませんでした。忘れないように覚えます」


 あまりの動揺に適当なことを口走ってしまった。しかも俺は魔王を恐れているのに、まさかの真逆の意味で教えてしまった。むう、とんだ嘘つきだが、気づかれなければ嘘ではない。ここは黙っておこう。

 グレゴリウスは俺の嘘を素直に信じ、深々と頭を下げた。その口は小さく動き、まじか、恐れなどない、まじか、と繰り返している。

 やめて。覚えないで。忘れて。


「グレゴリウス卿っ!」

「まじ……はっ!」

「祝福を授ける。勇者候補を私の前に連れてくるのだ」


 グレゴリウスの学習を強制的に中断させる。

 うん、これは我ながらいいアイディアだ。

 勇者の軍勢を作ろう。回数制限がある魔法じゃないみたいだし。勇者の大安売りだ。バーゲンセールだ。むしろなんで今まで神は勇者量産に踏み切らなかったのだろうか、俺にはわからない。

 相手の幹部は四体だって言ってたし、全部で魔王含めて五人だ。ならこっちも最低五人の勇者戦隊を作ろう。それを三チームくらい。そしたらイケる気がする。

 バランス良くパーティを組んで、悪に立ちむかう勇者ズ。いいね、インスタ映えするね。まぁ、俺インスタやったことないんだけどね。

 ニヤニヤしていると、神官の一人がこっちをじっと見ていた。


「……私に、何か面白いものでもついているのか?」

「あ、い、いいえ……すいません」


 神官はさっと視線を逸らして、深く頭を下げる。俯いたために表情は隠された。

 むう、一人でニヤニヤしていたのを見られたからな、変なやつだと思われたかもしれん。

 彼らの中では神なのだから、振る舞いくらいは気を付けなければ。

 俺が内心で気を引き締めていると、グレゴリウスが難しい顔をして口を開いた。


「イディア様。誠に申し訳ございませんが、勇者の候補集めに時間を頂きたく存じます。突然のことですので、まず告知して多くの者に知らせなければなりません」


 グレゴリウスはそう言って頭を下げた。彼の頭に乗ってるだけの帽子が何故落ちないのか疑問な角度だ。と思ったら、細い紐が顎の下を通っていた。魔法かと思ったけどそんなことはなかった。何でもかんでも魔法って考えちゃだめだね。

 グレゴリウスが言うには、募集するためには各地の教会を伝って宣伝しなければならず、遠くで名乗りを上げた人が来ることまで考えると、長ければ一ヶ月は掛かるそうだ。

 魔法でぱぱっと出来なるわけじゃないのか……。

 伝言の魔法とか転移の魔法とかあるものだとばかり考えていたけど、そんなお手軽にできるものじゃないようだ。無いわけじゃないけど、大魔術の類らしい。

 一ヶ月は……本音を言えば遅いと思う。

 でも、それはきっと必要な時間なのだろう。


「……無理に急ぐことはない」

「はっ」


 グレゴリウスは一礼して、傍に居た神官にいくつか指示をした。神官は小さく頷くと、律儀に俺に頭を下げ、神殿を出て行く。グレゴリウスはそのまま近くの神官を集めて、何やら相談を初めた。

 俺は……暇だな。

 一ヶ月もただ待ってるのは、さすがに苦痛だ。寝ていいならともかく、まだしばらくは眠くなる気配もない。

 ま、寝たら次に起きた時に人類が残っているかも怪しい。

 しばらく暇つぶしを……そうだ。


 この国を見て回ろう。

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