竜との死闘。
「響君‼」
「響‼」
二人の声が反響し、鳴り響く。
しかし、それも道が閉じると共にやみ、辺りはアースドラゴンの呻き声と尾を振るい叩きつける音が支配する。
(よろしかったのですか?マスター。)
(あぁ、あいつらなら残しても問題ないだろうからな。それだけ信用している。それに、一番不味いのはクラス全員があいつらの手駒になることだ。せめて俺一人でも逃れられればまだ道は残されている。)
心配がないといったら嘘になる。何せ少なくとも一年は一緒にいた友人だ。でも、この方法が一番可能性があるのだ。少なくとも、敵の懐であれこれやるよりも良い。そんなことをしていれば必ずボロが出てしまう。
(しかし慎吾のあれは焦ったぞ。まさかあそこまでバカだったとは……。まぁ、自業自得だ。俺のせいではないな。)
確かにその通りなのだが、それをわざわざ自分で言うのはどうかと思う。
(さて問題はこのドラゴンさまだが……)
「一式展開」
(承認。表記します。)
アースドラゴン
オス 67歳
Lv,22
能力
HP145667/145667
MP45352/45352
攻撃 2912
防御 3801
魔攻974
魔防 2847
俊敏 77
《スキル》
土魔法Lv,6、竜魔法Lv,3、ブレスLv,2、、土抵抗Lv,4、風抵抗Lv,4、竜鎧、Lv,4
《称号》
道を阻むもの、地の竜、眠りしもの、知のある魔、暴挙の証、固き鱗
《装備》
なし
まさしく災厄。そのステータスは他のモンスターを圧倒的に凌駕し、低レベルながらも響のそれに近しいところまで来ている。いくらステータスがすべてではないとはいえ、この高さは圧倒的強さだ。
が、それを言えば響だって負けてはいない。何せその攻撃力はアースドラゴンの防御力のそれを越えているのだから。
故に勝てない相手ではない。
ならば、叩き潰すまでである。
(アナザー、術式23~25、共に2項展開。)
(承認。)
掛けたのは強化魔法。以前のものの上位互換であるアタックアップ、デフェンスアップ、クイックアップだ。前回のものが、約1,2倍なのに対し、これらは全て1,5倍のバフ倍率となっている。
(マスター、戦闘前にこれを。以前言われていた、成長アイテムです。)
そうして現れたのは銀色に光るブレスレッド。
それを手にした響は、早速右腕に装着する。そして、確認として尋ねる。
(効果率とデメリットは?)
(ステータスの上昇が8倍となります。デメリットとしては消費MPと被ダメージが3倍になることです。)
なるほど、防御力の低い響からするとかなりきつめのデメリットだろう。が、しかしそれでも上昇率8倍は破格の性能だ。故に使わないという選択肢はない。
「いくぞ駄竜。お前はここで倒してやる。」
◇
先に動いたのはアースドラゴンの方だった。大きく顋を開け、その口からブレスを放ち目の前の矮小な存在を消し炭にしようとしている。
もちろん、それをわざわざ受けてやる意味などない。響は地面を蹴り、音速に達する程のスピードでアースドラゴンの頭上へと飛び上がる。そしてそのまま頭上から蹴り抜き、地面へと叩き付け、ブレスを強制的に止めさせた。
だが、その程度のことではアースドラゴンに的確なダメージを入れられない。もちろん、慎吾の放ったそれよりかは効果はあるものの。
アースドラゴンも、負けじと滞空中で身動きのとれない響に、尾で一撃をくらわす。
「ッチ!術式43展開‼」
これはまずいと、魔法で即席の足場を作り、そこを踏み台にして事なきを得る。
(マスター、竜種の弱点ですが……)
(わかってる。首もとの逆鱗だろ?だけどすぐには狙えない。ミスったら手がつけられなくなる。)
逆鱗ーー言わずと知れた竜の弱点だ。しかしそれは、同時に諸刃の剣でもある。
“逆鱗に触れる”という言葉のとおり、もし殺しきれなければ怒り狂い、手に終えなくなってしまう。だから、絶対に倒せると思うところまでダメージを与えなければならない。
「“地竜”ってことは属性は土で間違いないよな。術式33、計8を連鎖展開‼」
(承認。)
その言葉と共に、アースドラゴンの回りに8つの魔方陣が展開される。
その一が光り、そして大きく爆発した。そしてそれに反応するように2つめ3つめと順々に魔方陣が爆ていく。その爆発は地竜の体を完全に飲み込むほど大きなものとなり、落雷のような轟音と共に薄暗い辺りを赤く染め上げる。
「Gyalaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」
その悲鳴は耳を貫くような轟音であり、先程の爆発音を優に越えていた。
魔法に属性があるように、モンスターにも属性があり、相性も存在する。地には火が効き、火には水が勝り、水は風に散らされ、その風は土に阻まれる。4元素の関係はそうあるのだ。そしてこれは魔力を含まなくても適用される。
故に地竜相手に炎魔法を使用したのだ。
が、
「Gyalaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」
煙の中から頭をだし、高く咆哮をあげる地竜。
流石にダメージはおっているものの、だがしかし弱っているようには見えない。
(くそッ‼やっぱり魔防が高すぎてダメージが通りにくいか。しかも今ので一気に魔力がもっていかれやがった‼)
解決策を考えようとするも、それを許すまじと地竜がその尾、顋を駆使して攻撃してくる。
うまく体を捻りながらかわしていくも、ただ一つ避けるタイミングが間に合わず、その攻撃を食らってしまう。
「ゥグァッ!!」
その苦痛に声が漏れる。
被ダメージの増えている今、そのダメージはとてつもないものになる。あと一撃も食らえば死んでしまうだろう。
(あー、くそ‼ステータスあげといてほんとよかったわ‼)
吹き飛ばされた先で、考えをまとめて立ち上がる。
(早速役にたちそうだな。魔防が高い相手への対処法。)
それはかつて響がダンゴロムシとマジックウルフ相手に実証したもの。
(魔力の通っていない炎を送る。だが、それには火力が足りない……。)
確かに、ライターや松明などの炎では、到底あの巨体にダメージは与えられない。せめて火炎放射器のひとつでもあれば違っただろう。しかし、残念ながらアナザーにそんな高度なもの作るまでのスペックはない。
(火の火力をあげるもの、油か……)
「アナザー‼やつの体に油を撒け‼種類はこの際石油でも鯨油でも何でもいい‼」
(承認しました。クリエイト。)
地竜の体に、透明の液体が注がれていく。その液体は鼻をつく独特の臭いを放ち、水とは違いドロドロしている。
「アナザー、ライターに松明だ‼松明は10……いや、20。順次渡してくれ。」
(承認。クリエイト。)
両手に指示したものを持った響は地竜の攻撃を的確によけ、松明に灯をともしていく。そして、土魔法で巧みに足場を作り、燃えている松明を上から落としていく。勿論そこは可燃液によって覆われているため、勢いよく火の手が上がった。
そのまま、2本目、三本目と落としていき、最後の20本目を落とし終えた頃には地竜の全身は燃え盛り、文字通り火だるまと化していた。
「Gyalaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!」
その耐えがたき熱量、全身を焼かれる苦痛に、たまらず悲鳴を上げる地竜。
だが、それでもなお彼の戦闘意欲は朽ちていなかった。
最後の足掻きとでも言わんばかりに、燃え盛る体ごと今までとは比べ物にならないスピードで突っ込んでくる。正しく火事場のバカ力というやつだろう。
だが、時すでに遅し。
「最後だ。せいぜい派手に散ってくれ。」
その言葉と共に、響は手に持ったそれを地竜の顎下に投げつけた。
それが炎に当たった瞬間、先程の連鎖爆発と同じとまではいかないが、それでも大爆発と言うに足りるものが起きた。
響が投げたのは単なる爆薬の塊である。城を出る前、勝手に拝借したものを固めたのだ。
爆煙がのなかから黒く焼き焦げた竜の頭が落ちてくる。地面へと落ちたそれは、ピクリとも動くことはない。
こうして、ここに眠っていたアースドラゴンは断末魔を上げることもなく、覚めぬ眠りにとついたのであった。
(……酸素なくなる前に消火しなきゃ。)
◇
火の消えた竜の死骸の横で、疲れを露にして響が座り込んでいた。流石に竜の相手は堪えたらしい。
(お疲れ様です、マスター。大幅にレベルアップしたようですので、ステータスを確認することをオススメします。)
ではと、言われた通りに確認する響。
やはり、竜との戦闘は経験値がいいようで、こう記されていた。
霧村響
男 17歳
Lv,72
能力《人格》
HP9561/253767
MP510/657522
攻撃 11889(+25)
防御 8301
魔攻12074
魔防 7807
俊敏 14876
《スキル》
炎魔法Lv,5、水魔法Lv,2、土魔法Lv,2、風魔法Lv,1、闇魔法Lv,3、回復魔法Lv,2、強化魔法Lv,5
《称号》
ハナコの主、鬼畜過ぎる男、確認するもの、モンスター退治の専門家、日帰りする男、大罪・暴食、情け無用の男、リミッテドブレイカー・真、ドラゴンスレイヤー(竜型の敵に特効ダメージ)、爆発魔、はぐれもの
《装備》
冒険服、スチールソード(攻撃+25)、パワーブレス(ステータス上昇率アップ・被ダメージ、消費MP3倍)
これが竜を倒した報酬だ。ステータスはついに一万を越え、レベルも二倍以上になっている。
ここまでくればにやけものだが、響は満足していなかった。
(あれじゃぁダメだな。魔力の通っていない攻撃手段が無さすぎる。あんな回りくどいやり方じゃあ、いつか続かなくなる。何か策を考えなければ……。)
だが、このときの彼は本当に幸運だった。
その答えが近くに転がっていたのだから。