月なき夜に笑う。
ここは、王城の一室。限られたものしか訪れることのできない、王族のプライベート空間。
そこに一組の父娘が椅子に腰を掛けて、用意された紅茶を嗜みながら、なにやら神妙な面持ちで話をしていた。
「明日、ようやく勇者達が実践訓練に赴くようです。」
第一王女、シスターナが、手にもったティーカップをソーサーに起きながら、そう口にする。
「やっとか……。まったく、ガイユスめ。実力は充分じゃが、いかんせん慎重なのがいけん。わざわざ10日以上も使いおって。」
相手の男、この国の国王でシスターナの父親ランベルトは、そう自身の騎士団長に対する愚痴が溢れる。
「そうですね。しかしその分戦力は上がっておりますので、無意味でもないかと。」
「力を持ちすぎて、我々に牙を剥いたらどうする。彼らは我らが神を認めぬあのいまいましい魔族を殺すだけの兵器でよいのだ。」
今、彼が言ったのはどういうことか?いや、どこかの男が予想していた。まさしくその男の予想があっていたのだ。王国は腐っている。それもかなりねっこの部分から芯に至るまで。
「しかし、彼らを導いたのもまた我らが神におわしませられますが……」
「もちろん、道具としてであろう?我らが神があのように低俗な輩を我らと同一視されるわけあるまい。」
この言い様。、もし王国を信じて頑張っている勇者達が聞いたらどういう顔をしただろうか?きっとその顔を見た響はきっと「それ見たことか!」とニヤニヤするに違いない。
「フフ、そうですね。ところでお父様、私に数人ほど勇者をくださいませんか?」
そう、艶かしく舌舐めずりをしながら実父に尋ねる、姫様。その雰囲気にいつもの清純さの欠片もない。
「まぁよいが……あまり男遊びが過ぎるぞ。この前の男はどうした?」
「残念ながら壊れてしまいまして、丁度次のお相手を探していたところです。」
「はぁ……、ニノミヤヒカルとその近辺にはまだてを出すなよ。やつらには馬車馬のように働いてもらわなければいけないからな。」
「もちろん、彼はメインディッシュですので。フフ。」
再度、舌舐めずを行う。
「しかし忘れるなよ。我らが行動の、意志の全てがだれのためにあるのかを。」
「勿論です。お父様ーーーー」
「「あぁ、すべては我が神のために。」」
二人、月のない星降る空に笑う。
それが、あの男に聞かれているとも知らずに。