神々の争い
「あった! セーフエリアだ」
ダンジョンの4階を周回していた俺たちは特に大きな問題もなく戦闘を続け、無事4階のセーフエリアへとたどり着いた。
途中、メルがこのまま5階のフロアマスターに挑もうと言い出してひと悶着あったが、流石にパーティ加入初日にフロアマスターに挑むのは不安が大きい。
ただ、個人的には早めにフロアマスターに挑みたいと思っている。というのも、4階に来てからモンスターの数が多くて自然と戦闘の回数も増え、師匠から貰ったガントレットがかなり限界に来ているからだ。
今日の戦闘で手に入った魔石を5人で分配すればそこそこの金額にはなるだろうが、このペースでいったら多分お金が貯まるより先にガントレットが壊れかねない。
そうなると俺は最悪素手でフロアマスターに挑むことになりかねん。それだけは勘弁だ。
なので、今日は無理だが明日フロアマスターに挑むことにした。
ヴァンたちは既にフロアマスターには何度か挑んでいるので、例え勝てなくても逃げ切ることぐらいは出来るはずだ。
そんなことを考えながら、セーフエリアにあるテレポーターで俺たちは無事地上に戻った。
日が沈み始めた地上では、俺たちと同じように今日のダンジョン攻略を終えたガーディアンたちで溢れていた。
馬車に乗ってアルタ村に帰る者や、屋台を回っている者。雑談をしたり武器や防具の手入れをしている者もいる。
その中にやけに目立つ格好をした女性がいた。キャロスティだ。
いつも愛用している真っ赤なドレスは結構汚れているようだが。キャロスティ本人は特に怪我をしている様子はない。むしろ初めてのダンジョン攻略を終えてテンションが上がっているようだ。
その後ろでは体のあちこちに包帯を巻いて痛々しい姿になったダグと、歩くのもやっとの様子のリリルとシエルがいた。
やっぱりキャロスティはあの3人とパーティを組んでいたのか。
今にも倒れそうな女性2人とは対照的に、一番ボロボロのはずのダグは笑顔を浮かべながらキャロスティと楽しそうに談笑している。
その後ろからはリリル達がダグに向かって殺気を送っているが、当の本人はキャロスティと話すのに夢中で全く気付いていない。
あれが噂に聞く伝説の状態異常「恋は盲目状態」ってやつか。
俺がまだかかったことのない状態異常だ。俺もいつかあの状態になってみたいなあ。
もっとも、ダグの場合はキャロスティと結ばれてトラブルだらけの日々を送るか、それより先にリリル達に刺されるかのバットエンド2択しかもう残されていないようだけどな。
ドロドロな恋愛模様を描き始めているダグ達に巻き込まれないよう、俺はダグ達を無視してヴァン達と一緒にアルタ村へと帰った。
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村に着いた後、ヴァン達と別れてリザが働いている最近よくお世話になっているお店に行くと、たった1日ですっかり店の看板娘になっているリザが元気に働いていた。
流石は腹黒女リザ。わざとらしい、もとい、可愛らしい動きを所々に挟みながら仕事をテキパキとこなし見事な接客スマイルで客の心を掴んでいる。
俺からすれば、違和感と嫌悪感しか抱かないが、リザの本性を知らない客たちはすっかりリザに乗せられて酒をどんどん注文させられている。
店の奥では他のウェイトレスの子たちが尊敬の眼差しでリザを見ていて、その隣では店長らしき男性が満足そうな笑みを浮かべながらうんうんとうなずいている。
どうやら店の従業員も既に洗脳済みのようだ。
適当に空いている席に座ってリザに注文をすると、注文を受けたリザが俺の事をいつもの様にご主人様と言ったせいで店の中が一気に殺気立ってしまった。
先ほどまでの賑やかな雰囲気が霧散し、店中から俺に向けて殺気が飛んで来る。
俺が睨むようにリザに視線を向けると、当の本人も困った表情を浮かべていた。どうやら狙ってやったわけではなく、ついいつもの癖でご主人様と言ってしまったようだ。
しょうがない。ここは地球にいた頃の知識を生かして誤魔化すか。
「この店では客をご主人様と呼んでくれるサービスをやっているの? いやー、こんなかわいい子にご主人様なんて呼ばれるのは嬉しいなあ」
一瞬俺の言っていることが理解できずにポカンとして表情を浮かべたリザだったが、すぐに俺の意図に気づいたようで話を合わせてきた。
「そ、そうなんですよ! 今度近いうちに始めようと思っていたサービスで、今練習中だったんですけど、つい口走ってしまいました。てへ」
てへ、の部分は余計だったが、リザのこの言葉で周りにいた客たちも納得したらしく、俺に向けられていた殺気が消えていった。
「リザちゃーん! 俺にもご主人様って言ってよー!」
「俺も俺も!」
「はあーい!」
ふう。どうにか誤魔化せたようだ。店の奥で店長が首を捻っているが、あとはリザが適当に誤魔化すだろう。
俺はまたリザがポカをやらかさない様に、素早く食事を済ませて宿へと戻った。
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宿へと戻った俺はすぐさまベットに入り、眠りに
(よう、ソーマ。まだ起きているか?)
つこうとしたがメイギス様から通信が来た。
(どうかしましたか、メイギス様?)
(お前に紹介したい奴が居てな。俺のバンドの新メンバーのミコトだ)
(お前がソーマか! 私は管理神の1人、ミコトだ! よろしくな!)
(はあ、えっと。初めましてソーマです)
なんでメイギス様のバンドの新メンバーを俺に紹介するんだ。別にメイギス様のバンドに誰が入ろうがどうでもいいんだが。
通信越しに聞こえるミコト様の声はまだ幼い少女のように聞こえる。神様に年齢とか関係ないだろうし、子供の様な見た目の管理神もいるのかもね。
(ミコトにはベースを担当してもらうことになった。これでドラムとベース。それに俺がギターを担当するから、バンド活動を再開する最低限の人数は揃ったな)
(あれ? 再開ってことは前もバンド活動していたんですか?)
(そういえばソーマには言ってなかったっけ。前に活動していたバンドは解散しちまったんだよ。メンバーの1人が実家に帰って稼業を継ぐことになってな)
(そうだったんですか)
(ラジオにも呼ばれるようになってこれからって時だったんだが。まあ、過ぎたことは仕方ない。これからは神様で構成された最強のバンドを結成して、今度こそメジャーに駆け上がって見せるぜ!)
もう地球に居ない俺に言われてもねえ。正直勝手にしてくださいって気持ちだよ。
(メイギスがしつこく勧誘してくるから仕方なく入ってやったが、やるからには半端な真似はしないぞ。ちゃんと地球の音楽についても勉強してきた! 早く私もヘビメタを演奏してみたいぞ!)
(あ? 何言ってんだお前。ヘビメタなんかやるわけないだろう)
(そうですよミコト姉様。やるならジャズに決まっているでしょう)
あ、この声はノワール様か。
(おいノワール! お前まで何言ってんだ。バンドと言ったらロックンロールに決まってんだろう!)
(は? 先輩こそ何を言っているんですか? ジャズのあの心癒されるメロディに勝るものなどありませんよ)
(ヘビメタこそ至高なのだ! あの魂を揺さぶる熱い音楽がお前たちには分からないのか!)
(ええい、うるせえうるせえ! ロックったらロックなんだよ!」
(ジャズ以外なんて認めませんよ)
(ヘビメタ以外は論外なのだ!)
互いの音楽性の違いにより激しい言い争いを始めた3人。どうでもいいけどこの通信って一方通行なのかな。頭の中に直接3人の言い争いが聞こえてきてうるさい。もう用がないのなら通信切ってくれないかな。
(おいアルテイシア! お前はどう思う?)
(アルテイシア姉さまもジャズにするべきだと思いますよね)
(アルテイシア、お前からもこのバカ2人に言ってやれ! ヘビメタが一番だって!)
どうやら話の矛先がアルテイシア様に移ったようだ。メイギス様たちは多分、俺に通信しているということはアルテイシア様の管理空間にいるのだろう。アルテイシア様もとんだとばっちりを受けたな。
(あの、わたくしはあまり地球の音楽には詳しくないのですが、地球にはラブソングというものがあると聞いたことがあるので、ぜひそれを歌ってみたいです)
((ラ、ラブソング!?))
へー、アルテイシア様はラブソングに興味があるのか。というか、歌いたいってことはボーカルはアルテイシア様なのかな? てっきりメイギス様が歌うのかと思っていたよ。
(ラブソングが歌いたいならロックで決まりだろう!)
(ジャズにだってラブソングの名曲は沢山ありますよ?)
(ヘビメタで歌うラブソングも面白そうなのだ!)
結局アルテイシア様の発言は火に油を注いだだけで、3人の言い争いは更に白熱してしまった。
(何を騒いでいるのだお主等!)
おっと、ここで満を持して主神メルティオール様のご登場のようだ。これでこの騒ぎも収まりそうだな。
(揃いも揃って、管理神が醜い言い争いなどするな!)
((すみませんでした))
流石はメルティオール様。メイギス様たちもたちまち大人しくなってしまった。これでようやく静かに眠れる。
(音楽と言ったら演歌一択じゃろ!)
((いや、それもはやバンドですらないですから!))
あれ? もしもーし、メルティオール様? 何を言ってるんですか?
(新しい形の演歌を歌って、音楽業界に風穴を開けるぐらい神ならやってみせい!)
(なんで選択肢が演歌しかないんですか!)
(わしゃ昔から演歌しか興味がない!)
(完全に自分の好みを押し付けているだけじゃないですか! 演歌なんて古臭い)
(こらノワール! 古臭いとはなんじゃ! 演歌も立派な音楽じゃぞ!)
(演歌とヘビメタは合わないのだ! 演歌は無理なのだ!)
(なんでも最初から決めつけていてはいかん! 何事も挑戦する気持ちが大切なのじゃ!)
(わたくしはラブソングさえ歌えればそれで)
神様バンド。音楽性の違いにより活動前に解散の危機に直面。
もう、寝ていいですかね?




