ダンジョン脱出! からのトラブル発生
○月×日
今日は王都から南に行った所にある、果実酒が有名な村を目指して出発した。何度か馬車を乗り換えて村へとたどり着いたが、どうにも村人たちの雰囲気が暗い。
話を聞いてみると、近隣の森にドラゴンが出没したらしく、果実酒の原料となる果物が取りに行けなく困っているとのことだった。
これはいかん。このままでは美味しい果実酒の生産に影響が出てしまう。
そう思ったワシはすぐに森へと出かけ、件の迷惑ドラゴンを討伐してきた。
ドラゴンの角を手土産に村へと帰ると、みんな大喜びで、その日は村人総出で酒盛りをして盛り上がった。
振舞われた果実酒は、噂に違わぬなかなかの味だった。普段は余り飲まんが、甘い酒というのもたまには悪くない。
ワシとしてはもう少し度数が高い方が好みだったが、まあ夜は長い。今日は朝まで果実酒で盛り上がるとしよう。
酒盛りの最中に村長から、隣村に美味しい蒸留酒を作っている者がいるとの情報を得たので、明日は隣村へと赴こうと思う。
明日も良い酒に出会えるように
孤高の戦士ガンズ
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ダンジョンの中で暇を持て余していた俺は、今までほとんど目を通してなかったガンズさんから貰った日記を暇つぶしに読んでみたのだが。
「何が孤高の戦士だ! ただの酒好きの酔いどれ日記じゃねえか!」
あの爺さん、何が『俺の今までの冒険の記録が全部載っている』だよ! 酒に関する情報しか乗ってねえじゃねえか!
果実酒はどうでもいいから討伐したドラゴンについて詳しく教えてくれよ。何て言うドラゴンをどうやって倒したのか、肝心の部分がさっぱり書かれていない。何の参考にもならないじゃないか。
通路を塞いでいるダンジョンの壁が消えるまでは2日を要するので、この日記も結構読み進めてみたのだが。
全編に渡って酒についてしか書かれていない。読めば読むほど、冒険に関する知識ではなく酒に関する知識ばかりが豊富になっていく。
「・・・ガンズさん。この日記の続きを俺に書けって言ってたよな。この日記の続きってことは酒に関することを毎日書けってことか?」
流石に酒のことだけで毎日日記を書くのは無理だ。
俺は少し考えた後、無理せず自分が書きやすい日記を書くことにした。
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今日の分の日記を書いた後、出していた荷物をストレージバックの中へと片付け、出発の準備を始めた。
ダンジョンの中は常に一定の明るさが保たれていて時間の流れが分かりづらいのだが、数時間前から通路を塞いでいた壁の片方が少しずつ下がりだした。外では2日経過したということか。
魔道コンロで温めたお湯で作ったコーヒーもどきを飲み干し。暇つぶしに作ってみたら結構いい感じに仕上がった、イチゴに似た野菜を乗せたショートケーキもどきを食べ切り。座り心地のいい折り畳み式のウッドチェアをしまい。最後に3人用の大型テントを片付けて出発の準備を整えた。
いやー、ストレージバックのおかげでこの2日間はダンジョンの中とは思えないぐらいくつろいで生活することが出来たよ。
おかげで体の方もすっかり元気になって快調、快調。
荷物を片付けた後、軽く準備運動をしていると下がってきていた壁が膝くらいの高さまで降りてきていた。
これで漸くここからもおさらばだな。
メイギス様の話ではここはダンジョンの2階とのことだから、強いモンスターはいないはずだし。最初にダンジョンに来た時と同じように右側の壁に沿って移動しながらこの階層のセーフエリアを目指すとしよう。
ストレージバッグを背負い壁を飛び越えて、やっと狭い空間から解放された。
壁一枚隔てていただけでずっと同じダンジョンの中に居るのに、不思議と空気が新鮮に感じる。
「よし! 行くか!」
気合十分に俺が最初の一歩を歩んだその時。
曲がり角からゴブリンとコボルトの団体さんがご登場してきた。
「ギギャア!」
なんて空気の読めない連中だ。しかも無駄に数が多い。
ゴブリン、コボルト合わせて10匹近くいる。
勿論、勝てないことはないが、どうせなら復活祝いに派手にいってみよう。
メイギス様からのボーナスのおかげで新たに習得した新しい魔法。
この2日間で何度か練習はしているので準備はばっちりだ。
俺は右足を半歩前に出し、人差し指を立てた状態で右腕を前に突き出した。
魔導書から送られてくる魔力が突き出した人差し指に集まり、人差し指から電気が迸り始める。
真っすぐな通路を一直線に俺目掛けて走ってくるゴブリンたちに照準を合わせて・・・今だ!
「サンダーブレーク!」
人差し指から眩いばかりの光と雷鳴が迸り、高威力の電撃が通路を埋め尽くす。
一瞬の輝きの後に通路に目を向けると、そこには全身が真っ黒に炭と化したモンスターたちが倒れていた。
雷属性中級魔法サンダーブレーク
某ロボットアニメに出てくるスーパーロボットの必殺技と同じ名前のこの魔法は、指先に貯めた魔力を雷へと変化させ、高威力の雷撃を放つという魔法だ。
雷のスピードと長い射程を持つ強力な魔法ではあるが、その分中級魔法の中でも魔力の消費が多いのが欠点かな。
多分この魔法をマキシマイズで強化したら一発で力尽きるな。
とは言えここはダンジョンの2階。ゴブリンやコボルトしかいない階層だし、多少魔力を無我使いしても問題ないだろう。基本格闘戦で戦えばいいんだし。
こうして復活祝いに景気よく新魔法を発動したところで、今度こそダンジョンからの脱出を目指して出発した。
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長い長い通路を、右側の壁伝いに進み続けて数時間。途中上の階層や下の階層に通じる階段を見つけたが、残念ながらお目当てのセーフエリアはまだ見つからない。
ついでに言うと他のガーディアンたちの姿も見当たらない。
結構歩いたんだが、戦闘音とか全然しないな。
不気味なほど人の気配がしないことに少し不安を覚えながらも、出くわすモンスター達を倒しながら順調に通路を進み、漸くお目当ての部屋が見つかった。
「ああ。あの薄い半透明の壁のある部屋は、セーフエリアだ。やっとついたか。結構時間がかかったな」
セーフエリアの中には誰も居らず、中はもぬけの殻だった。
セーフエリアになら誰かしら居ると思っていたんだけどな。まあ、テレポーターが見つかったんだからこれでダンジョンから出られるし別にいいか。
俺が地面に描かれた幾何学模様の上に立つと、テレポーターが作動して模様が強く発行し始め、目の前が光で包まれた。
やがて光が弱まっていき、目の前に見覚えのある光景が広がって来た。
ああ。ここはダンジョンの入り口周辺の屋台街だ。漸く戻ってこれたんだな。
2、3度深呼吸して新鮮な外の空気を吸った後、とりあえずダグとシエルを探すことにした。セーフエリアに居たから大丈夫だとは思うが、あの後どうなったのかずっと気になっていたからな。
そう思って俺が歩き出すと、ダンジョンの入り口を警備していた兵士たちが集まってきて俺に槍を突き付けて包囲してきた。
「動くな!」
・・・何故に? 俺、別になにもやましい事なんてしてないはずなんだけど?
「貴様、今ダンジョンから出て来たな! このダンジョンは今立ち入り禁止だぞ!」
「え? 立ち入り禁止?」
「2日以上前からダンジョンに潜っていたならまだしも、貴様のその軽装を見る限り、どうやったのかは知らないが監視の目を抜けてダンジョンに潜ったのであろう!」
「え? え? どゆこと?」
「詳しい事情は詰め所で聞く! 来い!」
「は? え?」
状況に付いて行けないまま、俺は両腕を兵士に掴まれて詰め所へと連行されてしまった。
やっとダンジョンから出られたと思ったらこれかよ。とほほ。
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「もう一度聞くぞ。貴様の名は?」
「だからあ! 蒼真だって言ってんでしょうが! 2日ぐらい前にちゃんと手続きを済ませてからダンジョンに入りましたよ!」
詰め所に連行された後、取調室のような部屋に入れられた俺は、やってきた兵士の質問に正直に答えているのに、なぜか信用してもらえない。
「その者が2日前にダンジョンに入っているのはこちらでも確認している」
「じゃあ問題ないじゃないですか! 俺はずっとダンジョンの中に居て、このダンジョンが立ち入り禁止になっているのを知らなかったんですよ!」
「下手な嘘をつくな。こっちは毎日ダンジョンに入るガーディアンたちを見ているから分かる。お前のような軽装のガーディアンが2日もダンジョンに居てそんなに身綺麗なわけない。服装はもっと汚れているはずだ」
ストレージバッグの中に衣類が全部入っているから着替えていただけだよ。
だが、俺がその事を言おうとすると兵士の方が先に口を開いた。
「そもそもだな。そのソーマと言う者は2日前に死亡が確認されている」
「はあ!?」
俺が死んでいる!? なんでそんなことになっているんだよ!
あ! もしかして、2日前の魔集香騒ぎのときにモンスターの群れに襲われたから死んだと思われていたのかも!
「ああ、いや。そのう。実は死んでいなくてですねぇ。この通りピンピンしてたというか」
「ほお~」
ぐ! めっちゃ胡散臭そうに俺の事見てる。
どうやって助かったのかって説明しようにも、神様に助けられました。なんて言っても頭のおかしい奴と思われるだろうし。
くっそー。どう説明したものか。
部屋の中に重い空気が漂い始めたその時。部屋の扉が開き、中から2日前にダンジョン前の受付で俺のことをバカにした眼鏡の女性職員が入って来た。
「あ! 貴方は!?」
俺の顔を見て驚く女性職員。そのすぐ後に、俺に通行許可をくれた男性職員も顔を出し、扉の近くに立っていた兵士に耳元で何かを囁いている。
男性職員から耳打ちされた兵士は慌てた様子で俺の目の前に居る兵士に何かを伝えた。
「何!? それは本当なのか?」
慌てた様子で男性職員の方を振り向く兵士。そんな兵士に男性職員は無言でうなづいた。
さっきまで強気な態度で俺に質問を繰り返していた兵士は、急に気まずそうな顔を浮かべて俺に向き直った。
お? これはもしかして?
「あー。えっとだな。そこにいるギルド職員2人がお前の顔を覚えていたそうでな。間違いなくソーマ本人だと証言してもらえた」
「よっしゃああ!」
思わずガッツポーズで立ち上がる俺。
周りにいた兵士たちは申し訳なさそうな顔で目を泳がせ、男性職員は満面の笑みで拍手してくれた。
正直女性職員の方にはまだ少し思うところがあるので、俺は男性職員の方に駆け寄り、感謝の気持ちを伝えた。
「ありがとうございます! おかげで助かりました!」
「いえいえ。お役に立てたようで良かったです」
俺が男性職員の手を握り、感謝の意を示していると、ずっと驚いた表情のまま固まっていた女性職員が突然俺の肩を強く引っ張って来た。
「それどころではありません! 生きていたのなら早く行かないと!」
「は? 行かないとって、どこに?」
「先輩! 早く馬車を手配しないと!」
「もう手配してあるよ。もうじきここに馬車が来るはずだ」
ん? ん? どういう展開? またしても状況についていけてないんですけど。
「なら急いで馬車に!」
「ちょ、ちょっと!」
女性職員は俺の手を強く引っ張り、詰め所から飛び出し、こっちに向かって来ていた馬車を呼び止めて俺を無理やり馬車の中へと押し込んだ。
「出してください! 大至急で!」
「いや、ちょっと待って! 何が起きてんの!?」
状況が理解できないまま、俺を乗せた馬車はどこかへ向けて出発した。
もう何が何だか分かんない。
こんな事ならもう2~3日ダンジョンでくつろいでいた方が良かったかも。




