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魔導書と歩む異世界ライフ  作者: ムラマサ
ダンジョン攻略編
69/78

トラブル発生 そして

 蒼真たちがセーフエリアを目指して移動していた頃、同じくダンジョンの1階を探索している3人組みの新人ガーディアンたちがいた。

 男性2人と女性1人のそのパーティは、先頭を歩く男性2人がまるでこれからプレゼントを貰う子供のように楽しそうな顔をしているのに対して、少し後ろを歩いている女性は不安そうな顔をしていた。


 ぎこちない動きや拙い連携で危なっかしい場面が多いながらも、3人組みは何とか出くわしたモンスターを倒しながらダンジョンを進んだ。

 やがてダンジョン1階の中心付近までくると先頭を歩いていた2人組みが足を止めた。


 「よし。多分この辺りが1階の中心付近のはずだ」

 「じゃあいよいよだな」


 互いの顔を見合ってうなづいた2人組みは、懐からお香の様なものを取り出して地面へと置いた。

 それを後ろから見ていた女性は不安そうに、男性たちに話しかけた。


 「ねえ。やっぱりやめようよ」

 「はあ? 今更何言ってんだよ。お前だって効率的に経験を積みたいって言ってただろうが」

 「それはそうだけど。でも、こんな方法だなんて昨日は聞いてなかったし」

 「パーティメンバーの奴らを見返してやりたいんだろう? その為に俺たちに付いてくるって言っただろうが」


 怯えている女性リリルは、昨日パーティメンバーであるシエルと喧嘩をしてしまい、シエルと差を付けて、好意を寄せているダグにもっと頼ってもらえる女性になりたいと悩んでいた。

 そんな時に話しかけてきたのが目の前にいる2人組みだった。


 この2人もリリルと同じEランクの新人ガーディアンで、ダンジョンで腕を上げるためにアルタ村へと来ていた。

 この2人はどちらも剣で戦う前衛職で、以前から後衛を担当してくれるメンバーを探していた。そんな時にパーティメンバーと喧嘩しているリリルを見かけて声をかけたのだ。

 リリルは弓を扱う後衛職で、2人にとっては絶好の相手だった。


 2人にはダンジョンで効率的に戦闘経験を上げるための秘策があった。

 具体的な内容は伝えないまま、俺たちと1日だけパーティを組んでくれればいい戦闘経験を得られると、リリルを勧誘したのだ。

 探索するのはダンジョンの1階だと聞いて、リリルはこの2人はモンスターがたくさん集まっているエリアでも知っているのだと思い、この話に乗ってしまった。


 そして数時間前、リリルはダンジョンに入ってから効率的に戦闘経験を積む方法を教えられた。

 その方法とは、2人がアルタ村へ向かう途中に出会った商人から買ったと言う、モンスターを集めるアイテムを使って、ダンジョン1階にいるモンスターを自分たちの所へと集めるというものだった。


 モンスターを集める効果を持つアイテムがあると言う話はリリルも聞いたことがあった。しかし、そのアイテムは危険すぎるためギルドが使用を禁止していると言う話も同時に聞いていた。

 そんな危険なアイテムを売買している商人が果たして普通の商人なのだろうか?

 そもそもそのアイテムの効果はどれほど信用できるのか?

 

 ここに来るまでの道中、リリルの頭にはずっと不安がよぎっていた。

 しかし、当の2人組みは特に気にしている様子もなく、良い買い物ができたとしか思っていなかった。

 この2人の危機感の無さがリリルの不安を更に加速させた。


 「今からでも遅くないよ。ねえ? やめておこうよ」

 「うるせえ! このパーティのリーダーは俺だ! お前も今は俺のパーティの一員なんだから大人しく言う事を聞け!」

 「おい、もう火付けちまおうぜ? モンスター共が集まってくればこいつも否が応でも俺たちと一緒に戦うしかねえんだからよ」

 「そうだな」


 嫌がるリリルを無視して2人組みは床に置いたお香に火を付けた。

 お香からはたちまち赤い煙が立ち上り、ダンジョン内の迷路の中がどんどん煙で満たされていった。

 しかし、お香から赤い煙が出るのは3人にとって予想外の出来事だった。


 「ゲホ! ゲホ! おい、話が違うぞ! アイテムに火を付けたら透明で人体に影響の無い煙が出るんじゃなかったのか!?」

 「俺が知るかよ! あの商人と交渉したのはお前だろうが!」


 アイテムを売ってくれた商人からは、お香から出る煙は透明で人体には無害なものだから、狭いダンジョンの中でも問題なく使えると説明を受けていた2人。

 しかし実際には透明どころか血のように赤い煙が悶々と立ち込め、その煙を吸って喉が痛みだし、目がヒリヒリし始めた。


 この予想外の事態に動揺する3人。お香のすぐ傍にいる2人組みは煙にむせながら互いに責任の擦り付け合いを始めていた。

 煙に苦しみながら醜く言い争う2人組みを見ていたリリルは、我慢の限界に達しその場から逃げ出した。


 「あ! おい待てリリル! てめえどこ行く気だ!」

 「自分だけ逃げる気か!? てめえだって共犯だろうが!」


 逃げ出したリリルを見て、その後を追いだした2人組み。

 こうして愚かなガーディアンたちのせいでダンジョンの中で魔集香が焚かれると言う非常事態が発生してしまった。


 (ダグ! 助けて、ダグ!)


 リリルはこの場にいない思い人に必死に助けを求めながら、セーフエリアを目指してひたすら走り続けた。


 -----


 休憩を終えて、俺たちは再びセーフエリアを目指して移動を再開した。

 陣形は同じままで、俺が先頭を歩いていたのだが、歩き出して30分ほど経った辺りから、どうもダンジョン内に変な匂いが充満してきた。


 「クンクン。何か匂わないか?」

 「ソーマさんもそう思いますか? 俺もさっきから匂うなって思っていたんです」

 「でも何だろうこの匂い? こんな匂い今までダンジョンの中で嗅いだことないよ?」


 ふーむ。この匂い、どこかで嗅いだことがある気がするんだが、どこだろう?

 あまり人体には良くなさそうな香りはどんどんと濃くなっていった。

 俺は念のため、ストレージバッグからタオルを取り出し、ダグとシエルにも渡してマスク代わりに口の周りに巻いておいた。


 「大分匂いが濃くなってきましたね。タオル越しでも匂いが感じられます」

 「後ろの方から匂いが来ているみたいですね。コホッコホ!」


 匂いが濃くなり出したせいで少しずつ喉が痛くなってきた。それになんだか目がヒリヒリする。

 突如発生したこの謎の匂いに耐えながら俺たちはセーフエリアを目指して進み続けた。

 そうして進んでいると、奥の方に大勢のガーディアンがいる大部屋が見えた来た。多分あそこがセーフエリアだろう。


 「おい! セーフエリアが見えて来たぞ! もう少しの辛抱だ。頑張れ!」

 「は、はい。ゴホ」

 「分かりました。ゴホゴホ」


 くっそう。匂いがかなり濃くなってきて目が痛い。

 後ろにいる2人もかなり苦しんでいる。このダンジョンにはトラップの類はないって話だったのに毒ガスのトラップでも発生したのか?


 俺たちは何とかセーフエリアの目の前まで移動して、中へと入った。

 セーフエリアの入り口には半透明の壁のようなものがあったが、俺たちはすんなり通ることが出来た。多分あの壁がモンスターの侵入を防いでくれるのだろう。


 セーフエリアにはあの謎の匂いは入ってきていないようで中の空気は正常だった。良かった。

 俺たちはマスク代わりにしていたタオルを外して深呼吸をして、一息ついた。

 この匂いに苦しめられていたのは俺たちだけではなかったようで、セーフエリアの中には結構な数のガーディアンたちが避難していた。


 ダンジョンの外に出るためのテレポーターの前にも行列が出来ていて、すぐにはダンジョンから出られそうにない。まあ、セーフエリアに入れたのだから焦る必要はあるまい。

 ダグの頭の怪我は気になるが、無理に割り込むわけにもいかないし、俺たちは人が減るまでセーフエリアの一角で休憩することにした。


 「いやー。ひどい目にあったな」

 「本当ですね。こんな事初めてですよ」

 「でもラッキーでしたね!」

 「ん? シエルちゃん。何がラッキーなの?」

 「だって、変な匂いがし始めてから一度もモンスターに出会わずに済んだじゃないですか」


 モンスターと会ってない? そう言えば確かに、匂いが出始めてから一度もモンスターとは出会わなかったな。

 単に運が良かったのか? でもモンスターだってあの匂いから逃げるために俺たちの後ろからやってくる可能性はあったよな?

 いや? 何か違和感を感じるな。モンスターは匂いから逃げていたのか? むしろ、匂いの濃い方へ向かっていたから俺たちの方へは来なかった?

 モンスターを誘導する匂い? やっぱりこの匂いは以前どこかで嗅いだことがあったような。


 「あああああ!! 思い出した!」

 「うわ!? 急にどうしたんですか、ソーマさん!?」

 「何かありましたか?」

 「この匂いの正体を思い出した! これは魔集香だ!」

 「マシュウコウ? って何ですかそれ?」

 「周囲のモンスターを集める危険なアイテムだ」


 以前ノラの森でゴブリンが大量発生した事件の時、ゴブリンを引き寄せるために使ったあの魔集香の匂いと全く同じだ。

 前に使った時は外だったから煙は上空に上ってそんなに匂いもしなかったからすぐに思い出せなかったけど、間違いない。これは魔集香だ。


 「モンスターを集める? じゃあここも危険なんですか!?」

 「いや、むしろ安全だろう。モンスターはこの匂いの発生源。つまり魔集香が焚かれている場所に集まっているはずだからこっちには来ないはずだ。煙は来るかもしれないけど」

 

 まったく! どこのどいつだ、ダンジョンの中で魔集香を焚いたバカは!

 周りの迷惑を考えてから使えよな! と言うか、魔集香の個人的な使用はギルドが禁止していたはずじゃなかったか?


 俺が大声を出したせいで俺たちの会話が周りにいた他のガーディアンたちにも聞かれていたようで、セーフエリアの中はざわめきだした。

 だがまあ、さっき俺が言ったようにモンスターがここに来ることはない。あの特徴的な赤い煙や匂いがこのフロア一帯に広がる可能性はあるから探索はしない方がいいだろうけどな。


 謎の匂いの原因と、モンスターがこっちに来る可能性が低いことが分かって、次第に周りのざわめきも収まりだした。

 それから20分ほど経った頃、ようやく行列が少なくなってきた。と言うより、匂いの原因が判明して、セーフエリアの中なら安全だと言うことが分かったので、急いでダンジョンから出ようという人が少なくなったのだ。

 今なら列に並んでも10分ぐらいで順番が回ってくるだろう。


 「2人とも。そろそろ俺たちも列に並ぼう」

 「はい。それはいいんですが、ソーマさん。何か聞こえませんか?」

 「ん? 何かって何?」

 「ほら。遠くの方から地響きのようなものが聞こえてきませんか?」


 ダグにそう言われて耳を澄ませてみると、確かに地響きのような、大勢の足音のようなものが聞こえる。

 と言うかこの音、だんだんこっちに近づいていないか?


 「ソ、ソーマさん! あ、あれ!?」


 突然シエルが何かを見つけたようで、セーフエリアの入り口の方を指さした。

 俺も入り口の方に視線を向けると、通路の奥の方から人が走ってきている。まだセーフエリアに逃げ込んでいないガーディアンがいたのか。

 けど何だろう? 走ってきているのは3人だけなのに、3人が近づくにつれて地響きがどんどん大きくなってきている。


 「ソーマさん、後ろです! あの3人の後ろ!」

 「後ろ?」


 シエルに言われて3人組みの後ろをよく目を凝らして見ると。


 「何だあれ!? 大量のモンスターの群れだ!」


 こっちに向かって来ている3人組みの後ろには、3人を追っているかのように大量のゴブリンとコボルトが迫ってきていた。

 通路を埋め尽くすほどの数で、軽く200~300匹はいるんじゃないか!?

 地響きの正体は大量のモンスターの群れだったのか!


 モンスターの群れが迫ってきていることが分かり、セーフエリアの中は大混乱に陥った。

 みんな我先にとテレポーターを目指して争いが起きている。ここはセーフエリアだからあのモンスターの群れもこの中には入ってこれないと思うが、ここにいるガーディアンは新人ばかり。

 大量のモンスターが迫ってくる恐怖に耐えきれなく、みんな必死に逃げようとしている。


 「な、なあシエル。あの走って来てる子。リリルじゃないか!?」

 「本当だ!? 隣を走っている2人も今朝リリルが一緒にダンジョンに行くって言ってた2人だよ!」


 何!? さっき言ってたダグのハーレム2号、じゃなくて2人目の幼馴染の子か!?

 状況はよく分からないが。多分、魔集香の発生地点に近づいて集まっていたモンスターを引き連れてしまったのだろう。

 と言うかこのままだとあの3人セーフエリアに入る前にゴブリンたちに追いつかれてしまうぞ!?


 「リリルー!!」

 「待てダグ!」


 リリルを助けようとして、セーフエリアから飛び出そうとするダグの肩を俺はとっさに掴んだ。


 「離してください、ソーマさん! リリルが! このままじゃリリルが!」

 「お前が行って何になる! 犠牲者が増えるだけだろう! それにお前だって怪我をしているんだぞ!」

 「それでも、リリルが!」


 俺は強引にダグを後ろにいるシエルの所へ投げ飛ばした。


 「シエル! ダグを見張っておけ! あっちは俺に任せろ!」

 「ソーマさん!? 無茶ですよ!? いくらソーマさんでもあんな数!」


 俺はシエルに答えることなく、セーフエリアから外に出た。

 こっちを目指して必死に走ってくる3人は全員もう体力の限界のようでへとへとになりながら走っている。

 俺は3人の隣を通り過ぎ、後ろのモンスターたちの方へと向かった。


 出し惜しみしている余裕はない! 今の俺が出せる最高火力で一気に燃やす!


 「サーペントフレイム・マキシマイズ!」


 通常のサーペントフレイムの数倍の大きさの炎の大蛇がモンスターの群れに向かって突撃し、大炎上を起こした。

 狭い通路と敵が密集していたのが功を奏して、思っていた以上の数のモンスターを倒せた。

 お! 結構MDが貰えたぞ。


 中級魔法の強化は体への負担が大きいが、アルネロさんの上級魔法を強化した時のように気を失うほどではない。


 「サーペントフレイム・マキシマイズ!」


 俺は念のためにもう一発同じ魔法を発動した。

 さっきのと合わせて50匹近い数のモンスターを倒すことが出来た。が、俺の体も悲鳴をあげてきた。

 今の俺じゃあ中級魔法2発を強化するのが限界か。

 だがこれで時間は稼げたはずだ。


 俺も3人に続いて急いで逃げないと!

 そう思って後ろを振り向くと、さっきの3人組みの1人。ダグの幼馴染のリリルが通路の床に倒れていた。

 もう体力が残っていないのか、何度も立ち上がろうとするが上手く立てないでいる。

 一緒に逃げていた2人はリリルが倒れたことに気づいているようだが、助けるそぶりすら見せずにセーフエリアを目指して走っていった。

 なんて薄情な奴らだ!


 俺は急いでリリルの元へと走り、彼女を肩に担いだ。

 が、ここに来て固有魔法を使った反動が足に来た。

 元々中級魔法に2回マキシマイズの魔法を使ったことで体に結構負担がかかっていたのだが、この状況でもう1人担いで逃げるとなると、足が震えて上手く動かない。


 後ろからは勢いを取り戻したモンスターの群れが迫ってきている。セーフエリアまではまだ少し距離があってこのままでは間に合わない。

 これはちょっと本気でだめかも知れない。


 俺が諦めかけていたその時。


 「ソーマさん! リリルを投げてください!」

 

 ダグがセーフエリアから出てきて、こっちへ手を伸ばしていた。

 俺は最後の力を振り絞り、肩に担いでいたリリルをダグ目掛けて投げた。

 何とか上手くダグに投げることが出来て、リリルはダグがセーフエリアへと運んだ。

 良かった。何とか助けられたか。


 「ソーマさんも早く! 急がないと間に合いません!」


 ダグと入れ替わるように今度はシエルが俺に向かって手を伸ばしてきてくれたが、残念ながら俺はもう動けそうにない。


 「ソーマさん! 早くこっちに! もうモンスターが!」

 「シエル。セーフエリアへ戻れ」

 「何を言ってるんですか!? 早くこっちに!」

 「ソーマさん! 急いで!」


 リリルを運んだダグもセーフエリアから出てきた。

 だがもう無理だ。間に合わない。

 

 あーあ。まさかダンジョンに入って初日でこんなことになるなんてなあ。

 キャロスティの体質が移ったのかな?

 そんなことを考えている内に俺のすぐ後ろまでモンスターの群れが迫って来た。

 そして俺は。


 「「ソーマさあああああん!」」


 ダンジョンの中にダグとシエルの叫び声が響いた。

 


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