リンカサイド4
「いたぞ! あっちだ!」
「追い込め!」
「ふぇーん。見つかっちゃったよー」
「キキの声が大きいせい」
「え~? ララが走るの遅いからだよ~」
「2人とも! 今は走ることに集中しなさい!」
スラムで出会った獣人の姉妹、ネネさん・キキちゃん・ララちゃんと共にスラムからの脱出を図っていた私たちは、スラムで子供狩りを行っている人たちに見つかってしまい、現在逃走中です。
出口のあるバリケードまであと少しだったのですが、バリケードが見えてきた所で油断して見つかってしまったのです。
スラムに土地勘のない私は先頭を走るネネさんの後を必死について行きました。
複雑に入り組んだスラムの構造を熟知しているネネさんは、何度も道を曲がりながら少しづつ追手を引きはがすことに成功していました。
ですが、運の悪いことに逃げた先にもあの青い服を着た人達がいて、私たちは徐々に追い詰められてしまいました。
「くっ! この先は行き止まりになっています。もう逃げ道がありません!」
ネネさんの言う通り、青服の人たちに追い詰められて逃げ込んだ先は行き止まりになっていました。
後ろを振り返れば、10人近い青服の人たちが迫ってきています。
「ど、どうしよう、ネネ姉~」
「捕まりたくない」
私より年下の2人は完全に怯えて、ネネさんの後ろに隠れています。
そんな2人を庇うように立つネネさんですが、その顔には一切の余裕がありません。
逃げ道を失った私たちを見て、青服の人たちは勝ち誇ったような顔を浮かべました。
「散々手こずらせやがって」
「ようやく捕まえたぜ」
「なんかガキが一匹増えてんな」
「構うもんか。全員捕まえりゃあいいだけだ」
ゆっくりと迫り来る青服の人たち。
ネネさんはとっさに近くに落ちていた細長い木材を手に取りました。
「それ以上近づけば痛い目にあいますよ!」
木材を構えるネネさんを見て笑う青服たち。
「そんな棒切れ一本で俺たち全員を倒そうってか?」
「お前らこそ痛い目にあいたくなければ大人しくていろ。おらぁ!」
先頭を歩いていた青服の1人が一気にネネさんに迫りました。
ネネさんは迫り来る青服の腹に棒を一突き、青服がひるんだ所で棒を逆手に持ち直して顎を勝ちあげ青服の意識を奪いました。
流れるような動作であっという間に1人倒してしまったネネさんに私も青服たちも驚きました。
「あなたたち如き、棒の一本でもあれば十分です」
再び棒を構えてそう宣言するネネさん。
ネネさんは武術の心得があるのでしょうか? 先ほどの動きはとても素人の者には見えませんでした。
「いけー! ネネ姉!」
「やっちゃえー」
勇ましく戦うネネさんを見て、怯えていたキキちゃんとララちゃんも勇気づけられたようで、2人してネネさんの応援を始めました。
「ちょ、調子に乗ってんじゃねえぞ! ちょっと腕が立つぐらいでこの数の差がどうにかなると思ってんのか!」
「おう! その通りだ! 構うこたあねえ、行くぞ!」
今度は一斉に襲い掛かってくる青服たち。
って私も黙って見ている訳にはいきません! ネネさんのお手伝いをしないと!
今の私は杖を持っていませんが、お母さんから貰った火属性の魔石のネックレスがあります。
小さい魔石なので初級魔法しか発動できませんが、元々私は火属性はファイヤーと、最近覚えたファイヤーボールの2つしかまだ使えないのでそこは余り問題ありません。
ファイヤーの魔法は手から炎を出す魔法で、元々ソーマさんのように敵に接近して戦うような戦法の方でもない限り基本戦闘では役に立ちません。
なので私はファイヤーボールの魔法を選択しました。
「ファイヤーボール!」
「ぶふぁ!」
ネネさんに襲い掛かろうとしていた青服の顔に私の攻撃がヒットしました。
顔を焼かれる痛みで地面を転げまわる青服。そこをすかさずネネさんが攻撃して意識を刈り取りました。
私が魔法を使ったことに驚いて振り返るネネさんに私は首にかけているネックレスを見せました。
「援護は任せてください!」
「心強い! お願いします!」
正直ファイヤーボールは初級魔法なので先ほどのように顔などの急所に当たらなければそれほどのダメージは与えられません。
しかし、それでも前線で戦ってくれるネネさんの援護ぐらいにはなります。
迫り来る青服たちの攻撃をさばきつつ、隙あらば攻撃をするネネさんと、後方からそれを援護する私の2人で、何とか青服たちの数を少しずつ減らすことに成功しています。
この調子なら全員倒せるはずです!
私が勝利を確信したその時。
「ガキ相手に何手間取ってんだてめえら。情けねえ」
青服たちの後ろからさらに20人近い数の青服と、少し高そうな服を着た恰幅のいい男の人が現れました。
青服の人たちこんなにいたんですね。戦闘の音を聞きつけて集まってきてしまったようです。
この状況でこの人数の増援は絶望的です。
「おやぶん!? すいやせん。こいつらガキのくせに手ごわくて」
「いいからさっさと捕まえろ。おい、お前らも手伝え」
「「へい!」」
おやぶんと呼ばれた人の命令で、後から来た青服たちがこっちへ走ってきます。
「流石にあの数はまずいですね」
ずっと前線で戦っていたネネさんが私の隣まで下がってきて小声で話しかけてきました。
「リンカさん、何か手はありますか?」
「すみません。今の私が使える魔法は先ほどのファイヤーボールが限界です」
もっとも、杖があったとしてもあの人数が相手では勝つのはまず無理でしょう。
私に手がないと知ったネネさんは、木材を持つ手に力を籠め青服たちを鋭く睨みつけました。
「ならあと出来ることは精一杯抵抗することだけですね」
そう言うネネさんの表情からは、絶対に妹2人を守って見せるという覚悟が見えました。
私もネックレスを強く握り、戦う覚悟を決めます。
私とネネさんの最後の抵抗の始まりです。
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一方のその頃、バリケードの外でリンカの帰りを待っていたアルネロたちにも危機が迫っていた。
「アルネロくぅーん? つまり俺の娘を危険かもしれない場所に送り込んだと。そう言うことかなあ?」
首を絞めながら片手でアルネロを持ち上げたドクは、鬼の形相でそう質問した。
「いや、別にそれほどの危険はありませんって。中にいるのは子供と解体作業員だけですから。ぐえ」
「それでもリンカの身に何かあったら責任取れんのかてめえ!」
「ド、ドクさん。くるじい」
完全に頭に血が上っているドク。そこには一切の手加減が感じられない。
ちなみにレオナルはドクの後ろで既に地面に横たわっていた。その傍にはレオナルの血で『犯人はドクさん』と書かれている。
「こうしちゃいられねえ! 早くリンカを探しにいかねえと!」
「ちょ、ちょっと待ってドクさん! バリケードの中に許可なしで入るのは禁止されているんだ!」
「バカ野郎! 娘がピンチかも知れねえときに許可もへったくれもあるかあ!」
「あ、その手があったか」
人命救助などの危険性が高く、尚且つ迅速な対応が求められるような事案があれば、無許可でバリケードの中に入ってもそれほど咎められることはないかもしれない。
ドクの言葉を聞いてそう思いついたアルネロ。
「おら行くぞてめえら。突撃だあ!」
「いやあああああああ!!」
こっそりほふく前進でその場から逃げようとしていたレオナルの足を掴んでそのままバリケードを吹き飛ばし中へと突入していくドク。アルネロも慌ててその後を追って行った。
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「せいやあ!」
また1人青服を気絶させたネネさんは、既に体力の限界に達していました。
しかし、呼吸を乱しながらもその目から闘志は消えていません。
倒した青服の数は10人を超えましたが、まだ向こうには20人近い数が残っており、その表情には余裕が見えます。
「これが最後の警告だ。こっちもこれ以上被害は増やしたくねえんだ。大人しく捕まりな」
青服たちの後ろにいるおやぶんがそう提案してきましたが、当然そんなのはお断りです。
「寝言は寝てからほざきなさい。子供相手に大人数でしか挑めない腰抜けに、下げる頭などありません」
「ちっ! 言う事を聞かねえクソガキには教育的指導が必要なようだな。おめえら、さっさと捕まえろ!」
おやぶんの一言で再び戦闘が再開されました。
私も必死に魔法でネネさんの援護をしますが、実は先ほどから私の攻撃はあまり当たらなくなってしまいました。
私が同じ魔法しか使わないのを見て、青服たちが私の魔法を見切ってくるようになったのです。
「ファイヤーボール! ファイヤーボール!」
どうにか手数を増やして攻撃を当てようとしますが、当たるどころかどんどん命中率が下がっていっている気がします。
攻撃の当たらないこの状況。私の脳裏に先日のスワローモンキーとの戦闘がよぎりました。
(あの時クーティさんはいとも簡単に攻撃を当てて見せました。私にも今それと同じことが出来れば)
どうしてクーティさんの攻撃は当たって私の攻撃は当たらないのか。私とクーティさんで何が違ったのか。
必死に頭を働かせますが一向に思いつきません。
そう言えばスワローモンキーにばかり意識が向いていましたが、クーティさんはスピアーバードをどうやって倒していたっけ?
確か、スピアーバードの進行上に魔法を発動していたような。それでスピアーバードは自分から魔法をくらいに行く形になって倒されたはず。
思い出してみればスワローモンキーを倒したときも、クーティさんはスワローモンキーが枝に着地する前に枝に向かって魔法を放っていたような。
・・・・・・・そうか! 予測だ!
クーティさんは相手の動きを予測して魔法を発動していたんだ。だから自分から魔法に当たりに行くような形でモンスターを倒すことが出来たんだ。
私は今まで相手の動きを目で追うことに必死になっていましたが、本当に大事なのは相手の動きを学習することだったんですね!
私がそのことに気づいたその時、青服の1人が後ろからネネさんに近づいているのが見えました。
ネネさんは後ろから近づく青服に気づいていません。
私は急いで魔法を発動しました。
「ファイヤーボール!」
私が放った魔法は、ネネさんに背後から近づく青服ではなく誰もいない空間に向かって飛んでいきました。
そして、背後から近づいていた青服がネネさんに襲い掛かろうとした瞬間、顔に私の放ったファイヤーボールが命中して青服は悲鳴をあげました。
私が魔法を放った時にはその空間には誰もいませんでしたが、ネネさんを襲おうと青服が自分から私の魔法の進路上にやってきて魔法が命中したのです。
これです! これがあの時クーティさんが簡単に魔法を当てることが出来た理由だったんですね!
「ありがとうございます、リンカさん!」
私の援護で難を逃れたネネさんがお礼を言って来てくれました。
でもお礼を言いたいのは私の方です。今まで私の魔法は青服たちにろくに命中せず、全然援護が出来ていなかったのですから。
でもこれからは違います!
「ファイヤーボール! ファイヤーボール!」
「ぐああ!」
「おわあ!」
さっきまでと違い、急激に命中力の上昇した私の攻撃で青服たちが次々と悲鳴をあげていきます。
これでようやくちゃんとした援護が出来ます。
「何だ!? 急に魔法が当たるように、クソ!」
「そこです!」
「ぐへ!」
私の援護が命中するようになって何とか戦況が良くなってきました。
この調子で、何とかこの場を切り抜けなければ。
しかしこの時、私はネネさんの体力が既に限界に達していることを失念していました。
「あっ」
「ネネさん!」
「「ネネ姉!」」
限界まで気力を振り絞って戦っていたネネさんの体はついに動かなくなり、ネネさんはその場で膝をついて倒れてしまいました。
「今だあ!」
「かかれええ!」
「だめええ!!」
チャンスとばかりに一斉にネネさんに襲い掛かる青服たち。私は急いでネネさんの元へと向かおうとしますが、とても間に合いません。
青服たちの魔の手がネネさんに届きそうになったその時。
「そこまでだ!」
「全員その場を動くな!」
突然大声が響き、全員の視線が声の聞こえてきた方に向かいました。
そこにいたのは。
「アルネロさん! レオナルさん!」
「無事だったひゃい? リンカひゃん」
「もうらいじょうぶだよ」
なぜかボロボロの状態になっていますが、そこにはガーディアンギルドのギルドマスターとサブマスターのアルネロさんとレオナルさんがいました。
「おうリンカ! 無事か!?」
「お父さん!? お父さんも来てくれたの?」
「当たり前よ!」
アルネロさんたちの隣には、顔を真っ赤に腫れあがらせたおやぶんを片手で持ち上げているお父さんがいました。
アルネロさんたちと違いお父さんはピンピンしています。なぜか手が血まみれになっていますが、おやぶんはそれほど出血しているようには見えません。あれは誰の血でしょうか?
いえ、今はそんなことはどうでもいいですね。
心強い援軍が来てくれたおかげで私たちは、どうにかこの危機を乗り切ることが出来ました。




