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魔導書と歩む異世界ライフ  作者: ムラマサ
ダンジョン攻略編
59/78

ソーマの裏切り

 リザとの奴隷契約を済ませ応接室に戻った俺は、今日ここに来た一番の目的である報酬の金貨30枚の話を切り出した。

 

 「リザの件も無事片付いたことだし、これでようやく本題に入れますね」

 「ん? 本題? リザ君の件以外に何かあったかい?」

 「またまた~。まだ俺に渡してないものがあるじゃないですか~」

 「んん? ソーマ君に渡す物?」


 二ドル伯爵は首をかしげて何のことだか分からなそうな顔をしている。

 二ドル伯爵ったらとぼけちゃって~。

 一緒にカスカロフ逮捕に貢献したハバキさんたちはもうとっくに報酬の金貨30枚を貰っていることはお見舞いに来てもらった時に確認済みだ。


 それとも、ハバキさんたちに報酬を払ったことで、俺に報酬をまだ払っていないことを忘れてしまったのかな?

 それはあり得そうだな。二ドル伯爵も二フレさんもいまだに首をひねっているからここはストレートに報酬の話をするか。


 「カスカロフ逮捕のクエストに対する報酬ですよ」

 「え? ソーマ君に報酬なんてないよ?」

 「は?」

 「・・・・・・・」

 「・・・・・・・」


 一瞬で静寂に包まれる室内。 

 ほ、報酬がない!? いやいやいや、だってハバキさんたちはちゃんと報酬を受け取ったって言ってたぞ!

 なんで俺だけ報酬がないんだ!?


 訳が分からなくて俺が混乱していると、二ドル伯爵は逆に状況が理解できたようで1人で納得しだした。

 

 「んー。どうやらソーマ君は誤解しているようだね」

 「ご、誤解?」

 「私が地下牢で言ったことを覚えているかい?」

 「地下牢で言ったこと?」

 「ギルドで待機しているガーディアンたちに依頼を出しておくと私は言ったんだよ? 私がガーディアンギルドに依頼を出したとき、ソーマ君は地下牢にいただろう?」

 「は? それってつまり」

 「地下牢にいたソーマ君は私の出した依頼をガーディアンギルドで受注していないので報酬はもらえません」

 「うそだああああ!!!!」


 そ、そんなバカなあああ!!

 あれだけ頑張ったのに報酬がゼロ!? 俺のがんばりは何だったんだあああ!!


 「そもそもあんな強引な作戦をしなければいけなくなったのはソーマ君がアヴァルを殴ったせいじゃないか。報酬が出ないのは当たり前だろう?」

 「うがああああああああああああああ!! そう言えばそうだったあああああ!!」

 「まあ、ソーマ君の今回の怪我の治療費などは全額私が負担しましたので、それが報酬と言うことで」


 あ、ああああああ。

 俺の報酬。金貨30枚がああああ。


 「そ、そんなああああ」


 俺はリアルorzのポーズで絶望した。

 その後、二ドル伯爵と交渉を試みたものの、舌戦においては百戦錬磨の上級貴族たる二ドル伯爵に俺が勝てるわけもなく、俺はリザに慰められながら宿へと帰った。


 -----


 報酬ゼロ事件の翌朝、宿泊している宿の一階の食堂で俺はキャロスティ、リザと一緒に朝食を食べていた。

 薄味の塩スープに黒色のパン。レタスっぽい野菜と目玉焼きが出されたが、正直あまり食欲が出ない。


 「んもう! いつまでもショックを受けていても始まりませんわよ!」

 「そうですよご主人様。元気出してください」

 「だって。金貨30枚は大金なんだぞ」


 なかなかショックから立ち直れない俺を気遣って昨日からずっとキャロスティとリザは励ましてくれている。自分でも早く立ち直らないととは思っているが、ずっと楽しみにしていた分ショックがデカいのだ。


 俺が何度目か分からない溜息をついていると、キャロスティが珍しく申し訳なさそうな顔で俺に話しかけてきた。


 「ソーマがアヴァルを殴ったのは元々はわたくしのせいですわ。そのせいでソーマがショックを受けているのなら責任は当然わたくしにありますわ」


 キャロスティは俺がアヴァルを殴った件で負い目を感じていたようだ。確かにきっかけはキャロスティだったかも知れないが、俺がアヴァルを殴ったのは俺が殴りたいと思ったからだ。

 別にキャロスティが責任を感じる必要はない。 


 「いや、別にキャロスティが気にすることはないよ。俺が気に入らなくて殴っただけだし」

 「そうはいきませんわ! 自分のしでかした不始末はきっちり片を付けませんと!」

 「はあ」


 頑なに責任を取ろうとするキャロスティ。根が超真面目だからなあ。

 簡単には引き下がってくれそうにないキャロスティを見て、俺は質問をしてみた。


 「じゃあ、何かしてくれるの?」


 俺の質問を聞いたキャロスティは、突然席を立ちあがり大きな声で俺の質問に答えた。


 「ソーマの希望を可能な限り叶えますわ! お望みとあらばこの体も差し出しますわ!」

 「ぶふぉ!」

 「まあ! キャロスティ様ったら大胆!」


 いきなり何を言い出すんだキャロスティのやつは! 驚いて飲んでいた水を吹き出したわ!

 宿の食堂には俺たち同様朝食を食べている人が大勢いるが、キャロスティの声は宿にいた人たち全員に聞こえたらしく、みんな一斉に食べていたものを吹き出していた。


 「キャロスティ様ったらこんな公衆の面前でそんなことをおっしゃるなんて、大胆ですわあ」


 リザはリザでこの状況を完全に楽しんでいる。

 頬を赤く染めて腰をくねくねさせながら、「ああ、ご主人様が旦那様になる日は近いのかしら」とか言いながら完全に妄想の世界に入っている。

 もうあいつのキャラよく分からん!


 この状況で俺は一体どうすればいいのか? 答えが分からず俺が混乱していると、後ろから肩に手を置かれた。

 俺が後ろを振り向くと、ハバキさんたちメルグのガーディアンが額に血管を浮かび上がらせながら怖い笑顔を浮かべていた。


 そう言えばこの宿、ガーディアンギルドからも近くて、よくメルグのガーディアンが食事に利用する宿だって、この宿を紹介してくれた二フレさんが言ってたな。

 

 「ソーマ君? ちょっとオジサンたちとOHANASHIしようか?」

 「い、いえ。結構です」

 「まあそう言うなよ。楽しく肉体言語で語り合おうじゃないか? 特にキャロスティちゃんの今の発言について。なあ?」

 

 やばい! ハバキさんたち完全に誤解している。

 俺は何も言ってないからね!? キャロスティが勝手に言い出したんですよ!?

 とは言え、今のハバキさんたちには肉体言語以外は一切通じそうにない。


 「はあ」


 俺はこれから起きることを予想して溜息をついた。

 まさかファウード以外でこれをする日が来るとはな。

 思い出すのは師匠との地獄の鬼ごっこの日々。それを今、ここメルグで再現する時が来たようだ。


 俺は無言で席を立ち、ハバキさんの顔を正面から見据えた。

 そして。


 「俺は無実だあああああああ!」

 「あ! 逃げたぞあの野郎!」

 「追え! 逃がすな!」

 

 どうしてこうなるのおおおおおおお!!!


-----

 

「はあ、はあ、はあ」

 

 全く。キャロスティといると落ち込んでる暇もないな。

 何とかハバキさんたちから逃げ切った俺は、人通りの少ない路地裏で壁にもたれ掛かりながら息を整えていた。

 

 「へ、師匠との命がけの鬼ごっごで鍛えられた俺の俊足を舐めるなよ」


 とはいえ、ここはどこだろう?

 ハバキさんたちから逃げるために縦横無尽に駆け回ったせいで、自分の現在位置が分からない。

 宿はどこだろう?


 とりあえず適当に歩いて見覚えてある場所にたどり着くのを期待するか。

 そう考えて俺が路地裏から出ると。


 「あ、見つけましたよ。ご主人様!」

 「リザ?」


 路地裏から出てすぐの所に赤いフードを被ったリザが立っていた。

 さっきまで妄想の世界に入り込んでいたのに、いつの間にか正気に戻って俺を探しに来てくれていたようだ。


 「よくこの場所が分かったな?」

 「ふふん! こういう裏路地や狭い道には私詳しいですから」


 どうせカスカロフの命令でろくでもないことをするときによく使っていたのだろう。

 ちなみに、リザは朝食の時からずっと赤いフードを被っている。今のメルグにはリザの顔は悪い意味で広まっているので極力顔を隠しているのだ。


 「宿ってどの方向だっけ?」

 「宿はあっちですよ。でも今はガーディアンたちが待ち伏せしているので行かない方がいいかと」


 ハバキさんたち、俺を見失ったものだから待ち伏せに作戦を変更したのか。意外と執念深いな。

 元々今日は特に予定を立てていなかったし、宿にも戻れないならどうしようかな。


 「ご主人様」

 「ん? どうかした?」

 「もし予定がないのなら、私がメルグの街を案内しましょうか?」

 

 街の散策かあ。まあ予定もないことだし、せっかく飽食都市メルグに来たのだから食べ歩きとかするのもいいかもしれないな。


 「じゃあ案内頼もうかな」

 「任せてください」


 以前のような粗暴な態度とは打って変わって、俺の奴隷兼メイドとして愛想よく振舞うリザと一緒にメルグの街を散策することにした。


 飲食店が立ち並んでいる通りに出ると、リザが楽しそうに知っているお店の紹介をしてくれた。


 「このお店はお肉がとってもおいしいんですよ!」

 「へー。じゃあ入ってみるか?」

 「すいません。この店の主人とは昔色々あったので入りづらいです」

 「あ、そうなんだ。じゃあほかの店にするか」

 

 この店の主人にもカスカロフの命令で何かしていたのか。

 売り上げを何割か巻き上げるとかしてたのかなあ? 怖いから聞かないけど。


 「このお店はサラダの種類が豊富なんですよ!」

 「お、じゃあこの店に入るか?」

 「すいません。この店とも昔色々あって」

 「・・・他行くか」


 なんか雲行きが怪しくなってきたぞ。

 リザはすぐにまた新しい店を俺に紹介しようとしてくれたが。

 

 「あ、こちらの店は」

 「入れるのか?」

 「無理です。昔色々した店です」


 なんで入りづらい店ばっかり紹介するんだこいつは?

 結局どこの店にも入ることなく通りを過ぎてしまった。

 

 「すいません。ご迷惑をおかけして」

 「あのさ、気兼ねなく入れる店を紹介してくれないかな?」

 「はい! 分かりました! ではこちらへどうぞ!」


 再びリザの案内でしばらく歩いた。

 今度はちゃんと入れる店を紹介してくれるはずなので、安心してリザの案内に従った。

 しばらく歩くと、リザはごく普通の一軒家の前で止まった。


 「こちらが私がよくお世話になっていた情報屋です!」

 「誰が情報屋を紹介しろと言った!」

 「え? でも気兼ねなく入れますよ?」

 「普通は入れねえよ!」

 「ダメですか? では隣のお店はどうですか?」


 そう言ってリザが指さした方には、これまた見た目は普通の一軒家が立っていた。


 「こっちの店は何屋さんなの?」

 「はい! 厄介な死体を処理してくれるお店です!」

 「いやああああ!!」


 俺はリザの手を掴んで全速力でその場を離れた。


 「ダメでしたか?」

 「お前、俺を暗黒面にでも堕とす気か!?」

 「すみません。気兼ねなく入れるお店と言うことで真っ先に浮かんだのがあの店だったので」

 

 だめだこいつ。過去の経歴が真っ黒すぎる。

 その後も、俺が入ろうと言う店はことごとくリザが過去に手を出したことのある店ばかりで、リザが案内する店はヤバい店ばかりだった。

 俺はもしかしてとんでもない奴を奴隷にしてしまったのかもしれない。


 -----


 リザとの話し合いの末、雑貨屋や食材店などならリザでも問題なく入れることが判明した。

 逆を言うと飲食店は全滅した。


 雑貨屋などはカスカロフの秘書をしていた男が担当していたとかで、リザは特にかかわっていないので気兼ねなく入れるらしい。


 食材店に向かう途中で、リザには俺がファウードにいた頃の話やダンジョンを目指している話をした。

 

 「でしたら、このメルグにいる間に色々と旅に必要なものを買いそろえておきましょうよ!」

 「必要な物? 一応一通りはファウードで揃えてあるけど」

 「それは普通の旅の準備でしょう?」

 「普通?」

 「ご主人様はガレージバックを持っているのですから、普通なら持ち歩かない新鮮な食材や、テーブルや椅子などを簡単に持ち運べるでしょう? これを生かさない手はありません!」


 なるほど。確かに言われてみればそうだ。

 ファウードに居た時は余計な物まで買えるほどの金銭的余裕がなかったせいもあって気づかなかったけど、せっかくガレージバックというめちゃくちゃ便利なアイテムがあるのだから最大限に生かさないともったいないよな。


 報酬の金貨30枚は手に入らなかったが、その前に二ドル伯爵から貰った金貨20枚はまだほとんど手付かずの状態で残っているので、今なら色んなものが買える。


 というわけで、俺とリザは今後の旅に備えて買い物をすることにした。

 最初は雑貨屋巡りをして食器や折り畳み式のテーブルや椅子などを購入。

 調理器具や食材は自称メイドのリザにお任せした。


 すっかり日も沈みかけて、俺の財布の中も寂しくなったところで宿に帰ることにした。


 「なあ、リザ。やっぱり魔道コンロはいらなかったんじゃないか?」

 「何を言うのですか! あれがあるとないとでは旅の最中にお出し出来る料理の質が大きく変わりますよ!」

 「でも流石に金貨10枚は高すぎるよ」

 「今後も使い続けることを考えれば決して高くはありません」


 火属性の魔石をセットすることで、カセットコンロのように火を出す魔道コンロというマジックアイテムを雑貨屋で見つけたのだが、金貨10枚もするそのマジックアイテムをリザがどうしても欲しいと言うので買ってしまった。


 おかげで持ち金がほぼなくなった。ダンジョンから一番近いアルタ村までの馬車の料金をリザに聞いてみると、今の持ち金でギリギリ行けるみたいだ。

 帰りの路銀がないのが少し不安だが、まあ頑張ってダンジョンで稼ぐしかないか。


 リザと2人で宿へ向かって歩いていると、馬車の停留場を見つけた。

 馬車の時刻表や料金が書かれている看板を歩きながら横目に見ていて、俺はあることを思いついた。


 「リザ」

 「なんですか? ご主人様?」

 「キャロスティの怪我ってあとどれぐらいで治るか知ってる?」

 「あと2~3日ほどで治ると仰ってましたよ」

 「そうか。じゃあリザには怪我が治るまでキャロスティの世話をたのむ」

 「別に必要ないのでは? キャロスティ様はお元気そうでしたが?」

 「どうせキャロスティの怪我が治るまでメルグからは出られないんだし、退院した俺よりキャロスティの世話を頼むよ。なにより、キャロスティは大事な仲間だしね」

 

 俺の言っていることが信用できないのか、リザは胡散臭そうな顔で俺を見てきたが、キャロスティの怪我が治らないことには旅には出られないのは事実なので、最終的には納得してくれた。

 よしよし。


 その後リザと一緒に宿へと戻ると、流石にもうハバキさんたちの姿はなく、キャロスティには怪我が治るまでリザが身の回りのお世話をすると伝えて、俺は早々に部屋に入って寝た。


 -----


 翌日、リザがソーマを起こしに部屋へ入ると、ソーマの姿はどこにもなかった。

 ただテーブルの上に一枚のメモだけが部屋に残されていた。


 『リザへ

 俺は一足先にアルタ村へと出発します。キャロスティの怪我が治り次第後から来てください。じゃあ後は任せた』


 リザはメモをくしゃくしゃに丸めて床へ投げ捨てた。


 「あの野郎おおおおお! 抜け駆けしやがったなああああ!」


 


 


 


 


 


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